Nicotto Town


暇つぶし部屋


『君の隣で笑えたら』#9






遠山side




「日向?
わたしだって知らないよ、どうして日向が学校に来ないのか」

「逆に聞きたいぐらいだよ」

「遠山何か知っているのなら教えてよ」


数日前。
俺が笠木日向について、クラスメイトから所属していたという女子バスケットボール部の生徒に聞き込みしたため、奴らから酷い質問攻めにあった。

誰もが気になるのだ。
女子バスケットボール部を全国大会へ導き、クラスメイトの中央にいた笠木日向が何故、突然不登校になったのか。
だから唯一、笠木日向に出会えた俺に、詳細を知りたいという気持ちがあるのだろう。

確かに1度は共に学生生活を歩み、青春を共にした戦友であり親友だ。
知りたいと思う気持ちは大いにわかるが。


「知らない。
笠木には会えたが、何も教えてくれなかった」


俺は質問攻めをしてくる、主に女子生徒にそう返した。
女子生徒は俺の答えをある程度予想していたらしく、少しだけガッカリしたように離れて行った。

俺は女子に好かれるような立場ではない。
クラス委員長をしているが、風紀委員に間違われるほど校則に厳しいのは自他共に認めている。
校則とはいわば法律、守るべきだという考えの俺は、どうやら周りとは違うらしい。

中学生の時、遅刻してきたのを咎めただけで、「アイツは厳しい」というレッテルが貼られてしまった。
遅刻はいけないことだと習わなかったのかと言ったら、「うるせぇよ」と怒鳴られる始末。
俺がいけないのか。
もう少し厳しくなくなれば、良いのだろうか。


そう考え高校へ入ってからは、とやかく言うのをやめようと心掛けたのだけど。
結局校則違反をしている奴を目ざとく見つけては言ってしまう癖は治らず。
ついたあだ名は「委員長」。
真面目で冗談が通じない、校則に厳しく自分は校則通りに生きる、堅物。
笑ってしまうほどお似合いなそのあだ名を、俺は受け入れていた。

別に友達が欲しいとは思わない。
人間関係などテキトーにしておけば良い。
下手に関わり、面倒な事態に巻き込まれるのはまっぴらごめんだ。

高校入学数ヵ月でついた「委員長」という俺のあだ名は2年になっても続いて。
決して委員長など経験がなかったのだけど、2年になり本物の委員長になった。
自分から立候補したわけではなく、誰かが「委員長が良いと思う」と提案し、それが満場一致で決まっただけだ。

「委員長が良いと思う」
委員長を決めているというのに、委員長が良いと思う。
俺は最初から、委員長だったのだ。

まぁ別に委員長が嫌なわけではない。
あだ名と同じよう委員長という職は自分に合っていて、教師陣からの評価も上がるし良いことずくめだった。
性格と職のお蔭で、警察官志望だと進路希望表に書いた時も、決して反対されなかった。
悪を憎み、正義を守り抜く警察官。
「委員長」な俺に、ぴったりだと全員が口を揃えて言ってくれた。



「委員長って好きな奴いねぇの?」


先生から頼まれた事務的作業を繰り返していると、クラスでお調子者だと評判の男子がやってきた。
俺とは正反対で、校則を破る常習犯で明るく話し方も軽く、今もネクタイを外している。
ネクタイを外して良いのは夏だけだという校則だろう…と思いつつ、質問されたのだから答えることにした。


「そんなものには興味ない」

「えーつまらなくない?
好きな子いた方が絶対楽しいって」

「お前もそんなことを考えている暇があったら勉強しろ。
今回の期末テストで赤点を取ったら、俺が直々に勉強を教えるよう担任から言われている」

「マジ!?
委員長の教え方わかりやすいんだけど厳しいから俺無理っ!」


逃げていくソイツを見て眼鏡を押し上げると、俺は手元の資料を見ながらボールペンをくるくると回した。



この際だから言おう。
俺は、1年の時から笠木日向に片思いをしていると。



1年生の頃。
入学したてだった俺は、恥ずかしながら校内で迷子になった。
周りの奴は俺を非の打ちどころがないと絶賛するが、俺の唯一ともいえる弱点は極度の方向音痴だ。
地図を片手に逆方向へ行くなんて日常茶飯事な俺に、広すぎる校舎など巨大迷路と同じだった。

口下手で消極的な部分もあるため、俺はすれ違うクラスメイトに何も言えず、ただ平然を装うしかなかった。
「委員長」というあだ名はまだついていなくて、出来る限り厳しくならないよう心掛けていたけど、やっぱり雰囲気は大事で。
俺は校則通りきっちり制服を着こなす部分や話し方から、「厳しい奴」だと第一印象がつけられているようだった。
そんな俺が方向音痴で校舎で迷ったなんて、口が裂けても言えなかった。



『あのすみませんっ』


振り向くと、そこにはまだ制服を着こなせていない、見知らぬ女子生徒がいた。


『これ…』


彼女は顔を真っ赤にしながら、俺に小さく折り畳んだ手紙を渡してきた。
信じられない俺に、『今見てください』と彼女は言い、俺は言われた通り内容を見た。


【失礼なのを承知ですが、迷子ですか】


火が出るほど恥ずかしかったが、俺は常に新聞記者の母親の影響で持っているペンを取り出し、紙の空いたスペースに書き込んだ。


【お恥ずかしながらそうです。
失礼ですが、職員室はどこだかわかりますか】


彼女に渡すと、にっこり笑って頷き、『こちらです』と案内してくれた。
目的の場所に着き、戻ろうとする彼女に聞いてみた。


『何で俺が迷っているってわかったんですか』

『だって、目が泣きそうだったから』

『……酷い方向音痴で』

『初めての場所は迷いますよね。
今度見かけたらまた助けてあげます』

『遠慮しておきます。
今度はちゃんと、校内地図を把握しておきますから』

『頑張ってくださいっ』



彼女は微笑み、行ってしまった。
その後姿を見ながら、ネクタイの色を思い出し同い年だと思っていると。
会いに来た先生に会い、彼女が笠木日向だと教えてもらった。

その先生はバスケ部顧問で、入部当初から頭角を表してきた笠木日向を密かに名プレイヤーに育つと睨んでいた。
先生の目論見は見事あたり、数日後彼女は地区大会で市大会へと部員を導くのだけど。



それ以来、俺は彼女に密かに恋をしてきた。

でも、知ってしまった。
彼女の余命が、残り少ないことに。

そして彼女が、
今誰に恋しているのかも……。



「…………」



応援するよ。

また会った時
助けるって言ってくれたもんね。

今度は俺が、



君を笑顔にさせるため、助けるよ。



*つづく*



遠山くん…いつからこんなキャラになったのでしょう
最初はもう少し柔らかい爽やか系男子を目指していたのですが…

まぁこっちの方が書きやすくて気に入っています笑

今回は日向・レイ共に未登場
レイに関しては2回連続の未登場

#10には出しますよ!

おっと次はとうとう二桁に入りますね!

#20まではいかないと思いますけど…
いつまで続くかわからないですけど、読んでくれると嬉しいです!

全部で2732文字です

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2016/10/18 16:02
>セカンド様

遠山くんキャラ変わりましたが
書きやすくて良いですね笑
方向音痴だってところが私の1番のツボだったり笑

どんな風になるのでしょう…?
#10を読んでのお楽しみですね\(^o^)/
アバター
2016/10/17 22:35
遠山君のキャラは想像していませんでした
なかなかです^^

今後どのように話に入り込んでくるのでしょう

次回二人が出て来る!
新展開が???




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