『君の隣で笑えたら』#10
- カテゴリ:自作小説
- 2016/10/19 19:35:11
レイside
その人は、とても美しい人だった。
整理整頓が得意で。
部屋はいつも綺麗で。
一定期間だけ綺麗なのではなく、永遠に綺麗だった。
見た目も麗しくて。
ただふっと笑っただけなのに、周りにパッと花が咲くような感じ。
その花を例えるのなら、きっと薔薇。
美しい、真っ赤な紅い薔薇。
行動もひとつひとつが綺麗だった。
露出が多い服でもシンプルな服でもよく似合い、まるでその人のために作られたような。
凄腕の職人何十人が何百年もかかってようやく完成したような完璧な美貌に、服も歩き方も立ち方も座り方も、全てが似合っていた。
美しく、麗しく、ずっとずっと愛され大事にされてきたお人形。
外の世界と外された時期もあったみたいだけど、富も地位も誰もが羨むほど持っていて、いつだって輪の中心に堂々と君臨していた。
その人の存在だけで、不協和音だった世界が美しく調和されていた。
多くの、同じような美貌を持つ男と出会い。
その人は高級ディナーを味わうように、男たちと関係を持った。
男たちは皆その人の美しい見た目に心奪われた。
その人は、お人形だったから。
自分の意思がなく、生まれつき作られていた流れに漂っていただけだったから。
男たちは彼女を自分の思うままに操った。
彼女は多くの男と愛を育み、やがてひとりの子どもを宿した。
子どもの父親はわからない。
だって彼女は、わからないほど多くの男と関係を持ったのだから。
彼かもしれないし、カレかもしれないし、かれかもしれない。
自分と結ばれたのが誰かも、子どもの父親が誰かも、彼女はわからなかった。
美しい、真っ白な汚れなきその部屋で。
彼女は再び男の誘惑に負けながら、子どもと一緒に過ごした。
彼女は自分の子どもを我が子だと思っていなかった。
本当は堕ろそうとしていたみたいだけど、周りが反対するから。
反対したくせに助けないって何なの、と彼女はずっと怒っていた。
『……かあさん』
まだ上手く話すことの出来ない子どもが、彼女の手を引く。
出掛けようとしていた彼女は、冷たい目で子どもを見下ろした。
必要なものではなかった。
決して自分を着飾る存在ではなかった。
彼女に似たのか容姿は美しかったものの、子どもがいるとわかった瞬間離れて行き、勝手に向こうから作った関係を絶つ男だっていっぱいいたから。
自分を着飾れない。
子どもは富でも地位でもブランドものでもない。
『離れて。忙しいの』
彼女は毎夜、自分の手を引く子どもの手を離し、家を出て行った。
舌打ちを忘れずに……。
「……い…い……レイっ!」
「っ!」
ぱちり、と意識が戻ってくる。
起きているのに何も見えない、目。
だけど耳は動いていて、彼女の声をとらえた。
「レイ、こんな所で寝ていたら風邪引くよ?」
「……ひ、なた」
縁側で寝てしまった僕を起こしたのは、日向だった。
崩れていた上体を起こした時、僕は自分の違和感に気付いた。
「…………」
「レイ?……レイ、大丈夫?」
不安そうな彼女。
僕は恐る恐る、手で自分の頬に触れた。
「な……み、だ……」
「レイ、また悪夢でも見た?」
あくむ。
……悪夢。
そうだ。
僕は以前、嫌な夢を見た。
忘れてしまったけど、忘れて良かったと思えた夢。
同じだ。
離れたくないから、縋った手。
だけどそれは、冷たく振り払われて…。
救いの手を離されて、ただでさえ怖かった僕の耳の奥に残るのは…
人形のように美しかった、母の舌打ち、だった。
「……っ」
「レイ」
夢の内容を思い出した途端、怖くなって。
指を強く握り、体を固くし、目をぎゅっと強く瞑ると。
太陽のような、風のような彼女にそっと抱き寄せられた。
「は、ぁっ…はぁはぁっ……けほけほっ」
「レイ、いつも肩に羽織っていた毛布は?」
「……う、ん…」
「レイ、聞こえてる?大丈夫?」
「……うん…うん……うん…」
「レイ」
何も言わず、部屋の方向を指さす。
日向は履いている靴で床を汚さぬよう上がり、縁側に1番近い部屋から肩に最近かけている毛布を取って羽織らせてくれた。
「けほっ、けほっ……こほっ」
「熱なさそうだね。大丈夫だよ?」
耳を塞ぎ、うずくまるように小さくなっても。
日向は変わらず、そっと僕を抱きしめ背中をさすってくれた。
「レイ、今日は部屋に戻って休んだ方が良いよ」
「……で、も…」
「体少し冷えちゃっているから。風邪引いちゃうと大変だよ」
日向の言う通りだ。
僕は免疫が普通の人より低い。
よく風邪を引きやすく、治りにくい。
「……でも……ひとり、いや…」
「おじさんとおばさんは?」
「ぼ、ボランティアの日……」
本当は僕が心配だと、お母さんだけでも行くのをやめようとしていたけど。
行ってきてほしいと頼んだ。
僕が今ここにいられるのは、お父さんとお母さんが児童養護施設でボランティアをしていたから。
僕のように…ひとりぼっちが嫌で、愛に飢えていた子どもをひとりでも多く救ってほしい。
父の顔を知らず、母に捨てられてしまった僕のお願いを、お父さんとお母さんは聞いてくれていた。
「じゃあ、ちょっと勝手にお邪魔しちゃうね」
「行かないで……」
ぎゅっと日向の手を縋るように握り、気付いた。
夢の中で小さな、まだ目の見えていた僕は、母の手をこうして握った。
でも、母は振り払って、帰って来なくて…。
寂しさと苦しさで、夜を必死に乗り越えていた。
「わかった」
日向はその場で靴を脱ぎ縁側に上がると、僕の肩をそっと支えた。
僕が縋った手は、強く握り返されたまま。
「立てる?」
「……何でっ…」
「え?」
「どうして、手を振り払わないのっ!?」
息が上がり、また軽く咳き込む。
日向は背中をさすってくれた後、柔らかく微笑んだ。
「大事な人の手を振り払わないよ、わたしは」
「ひ、なた……」
「もうレイをひとりになんてさせないからね」
畳むのが面倒で、部屋に敷きっぱなしの布団に寝転がる。
日向は僕の手を繋いだまま、僕の横に同じよう寝転がった。
「寂しくなったり辛くなったらいつでも呼んで。
わたし、いつだって駆けつけてあげるから」
きらきらと輝いている、その笑顔。
……ああ、僕は。
僕は、
ボクは、
ぼくは
「ありがとう、日向」
いつまでその笑顔に救われることが出来るのだろうか。
*つづく*
記念すべき二桁目なので、レイの過去を少し載せました
今回はほんの一部です
そしてお気づきですかね?
実はレイ
生まれつき目が見えないわけではないのです
生まれた時はちゃんと見えていました
この視力を失った原因が、
実はレイが今の家の養子になった経緯となっています
それもまた、いつか明かします
日向を明かしたばかりなので、
レイの秘密はもう少し先まで取っておきます(´艸`*)
これだけで衝撃…
レイの目が見えなくなった経緯がわかったらどのような衝撃を受けるのでしょうか…
まぁ過去は変えるつもりないですが…
秘三つ
上手いですね笑
今回はレイというより
どちらかといえばレイの実母の方を強く取り上げたので
今後レイ自身の過去をより深く掘り下げていこうと思っています
はてさて、いつになるのだか…
ある意味で衝撃的ですね
自分を守ってくれるはずの愛する母親から受ける
冷たい仕打ち
トラウマになってしまったんですね
日向と今のお父さんお母さんの優しさが
たまらないです
秘密
レイと日向と遠山の3人の秘密
三人だけに
秘三つ?
次の展開は。。。