『君の隣で笑えたら』#11
- カテゴリ:自作小説
- 2016/10/23 11:38:52
静かな、レイの部屋。
わたし・笠木日向は寝ている時任レイを見ながら、ぼんやりと考えていた。
つい1時間もしない前。
わたしの家には、在籍はしているものの通っていないクラスの委員長を務めている遠山がやってきた。
多くのクラスメイトやバスケ部員にわたしが不登校になった理由を聞いてきて、真相を確かめようとする、必死な瞳にわたしは負けて。
わたしは遠山に、何故不登校を続けているのかその理由を明かした。
遠山は何も言えていなかった。
受け止められない、信じられないのかもしれない。
無理はないだろう…目の前にいるわたしが、まさか余命宣告を受けている立場だなんて。
『言っているのか、時任レイには』
『言ってない…言おうと思ったけど言えなくて』
『早めに言った方が良いだろう。
親しいからこそ言えないこともあるだろうが、親しいからこそ言うべきこともある』
遠山は、自分が聞き込みをした人たちにわたしのことを言わないことを約束し、『また来る』と言って家を出て行った。
わたしは暫く玄関で立ちつくしていたけど、こうしてレイの家に来た。
レイは縁側で眠っていた。
珍しいこともあるものだ…と思いつつ、いつもレイがしているように空を見上げていると、隣でレイがうなされた。
苦しそうにしていたレイを起こすと、レイは咳き込みつつ震えていた。
風邪を引かれては困るので、部屋へ行かせこうして布団の上横にさせたのだ。
レイのことは、何も知らない。
何故この家の養子になったのか。
お父さんの顔は知らないと言っていたけど、お母さんはどうしているのか。
どういう経緯で、児童養護施設でボランティアをしていたというおじさんおばさんと出会ったのか。
レイが以前見た悪夢の正体とは何なのか…。
何がレイを追い詰めているのか…。
『……来ないで』
初めてレイと出会った時。
レイはおばさんの後ろに隠れ服を握りしめつつ、震えながらわたしを拒否した。
わたしより年上で背が高いのに、わたしを警戒心に満ちた、見えない瞳で見つめてくるレイは、小さな子どものようだった。
レイを知りたいなんて、我が儘?
わたしのことを言っていないのに、レイを知りたいなんて。
自分勝手って言うんだろうな、こういうのって。
「あら、日向ちゃん来ていたの?」
「あ、おばさん。お邪魔してるね」
「レイ、どうしたの?」
ボランティアから帰ってきたらしいおばさんが、部屋を開けて座っていたわたしに気がつき、そっと微笑みわたしの隣に座った。
「わたしが来た時レイ、縁側で寝ていて、苦しそうで起こしたら咳きこんでいて…風邪引いちゃうと大変だから」
「そうだったの。ありがとうね、日向ちゃん」
おばさんはそっとレイの髪を撫でる。
「ここ最近あまり体調が良くなかったから、本当は今日休もうと思ったんだけどね。
レイに、ボランティアは欠かさず行ってほしいって頼まれているの。
この子とボランティアをしている時に会ったから、自分と同じようにひとりぼっちな子どもを、ひとりでも多く救ってほしいって」
「ひとりぼっちの子ども…」
施設は、事情があり親と一緒に暮らせない子どもが暮らすっていうのは常識の範囲で覚えている。
「レイの…お父さんとお母さんは?」
ふと、気になって聞いてしまった。
おばさんは小さく笑った。
「どこまで聞いてる?」
「お父さんは顔を知らなくて、お母さんは…舌打ちが多い人だったって。
今どうしているとか、施設に行った経緯とかは…聞いてないよ」
「そう。
じゃあわたしも、言える範囲で言いましょうかね。
本当に大事な所は、レイから聞いた方が良いと思うから」
「良いの…?」
「日向ちゃんは、レイにとって大事な人だから」
「え?」
「日向ちゃんも少し知っていると思うけど、この子、施設に来た時やわたしたちの所に来た時は、凄く警戒心が強い子で、心を頑なに閉ざしていたの。
笑わなくて、何も言わなくて、1日中この部屋の片隅でうずくまっていたの」
そういえば、レイと初めて出会った日。
出来る限りわたしは明るくレイに手を差し伸べたのだけど、レイはわたしの手を握らなくて。
おばさんの後ろで隠れていたレイは、わたしから逃げるように離れると、どこかへまだ上手く使えていなかった白杖を使いつつ逃げてしまった。
おばさんと一緒に追いかけると、レイはこの部屋の片隅で小さくなって震えていた。
震えているというより、何かに酷く怯えているような…。
「頑なに心を閉ざして、誰にも心を開かなかったレイが、初めて心を開いたのが日向ちゃんだったのよ。
日向ちゃんがよく通うようになってくれて、それでレイも警戒心を解いてよく笑ってよく話すようになったのよ」
「…でもわたし、何もしていないよ?」
「特別なことは何もしなくて良いの。
日向ちゃんの明るさや性格が、レイの心を縛っていた鎖を壊したのよ。
大事なのは、特別なことじゃなくて、ただ傍に寄り添ってあげることで良いの」
「……」
「レイはかつてひとりぼっちだったから。
本当は寂しがり屋で、言いたいことだっていっぱいあったはずなのに、レイのお母さんはレイの声を聞いてあげられなかった。
親は基本我が子を大事にするのだけど、レイのお母さんはそれが出来なかったの」
「……お父さんは」
「今でもわかっていないわ。
レイの戸籍も父親の欄は不明なままだったし、探してもらっても見つからなかったわ」
「レイのお母さん、今何しているの…?」
「今は真面目に頑張っているそうよ。
でもレイに会う?って何度も聞いているのだけど、やっぱり怖いみたい」
「怖い…?実の息子なのに?」
「……この子ね、実の母親に…虐待、されていたから」
新聞で見るような、2文字。
身近ではなかったその単語に、わたしは息を飲んだ。
「レイの目は後天性で、小さな頃は見えていたの。
でも、虐待の末に見えなくなってしまって…。
レイの目が見えていた頃の記憶は全て、お母さんからの虐待の記憶で、それがレイの心を今でも苦しめている原因なのよ」
「今、でも…?」
「今ではだいぶ落ち着いたけど、まだうちに来たばかりの頃は夜中飛び起きたり、怖くて眠れないことがあったの。
今でも、たまにうなされたり…起きた時泣いていることだってあるの」
「……」
じゃあ、レイの悪夢の原因は…見えていた頃の、お母さんとの記憶?
だからあんなに、さっき震えていた?
「まだ完全に傷は癒えていなくて、それで体調を崩してしまうこともあるの。
本当は真面目に働いているお母さんと出会って、昔と向き合うことも大事だと思うのだけど…お母さんの方も傷になっていて、会いたくないって」
「……」
「早くした方が良いって…言っているのだけどね」
おばさんは大きく息を吐くと、「日向ちゃん」とわたしと向き合った。
「出来る限りで良いの。
この子と、レイと一緒にいてあげて。
レイの中で、日向ちゃんはとても大きな存在だから、傍にいてあげてほしいの。
少しでも、レイの傷を癒してあげてほしいわ」
「……わたしで、良ければ」
「日向ちゃんにしか頼めないわよ」
おばさんは「よろしくね」と部屋を出て行き、わたしは落ち着いて眠っているレイの手を強く握る。
布団にいれた時レイは震えていたから、そっと手を握って安心させてあげようとしたのだ。
そこからずっと、繋がれたままだった。
約束が、嫌いだった。
でも、レイとの…おばさんとの約束は守りたい。
「……君が、大事だよ…レイ」
*つづく*
少しだけ明かされたレイの過去と、ふたりの出会いです。
ふたりの出会いや、レイの過去は後々明かしますので!
今度は消えたり文字制限オーバーにならないよう気を付けます笑
(5000文字オーバーです)
以前は*つづく*まで書いて消えましたからね
全部消えた!って家の中で絶叫しました笑
でも文字数オーバーも大変だと今回知りました
過去ありキャラが好きなので趣味一直線ですが…
セカンドさんは『心の歌』など見て頂けているので大丈夫でしょう笑
#12も頑張ります(・∀・)
ショックですよね
過去がだんだんと解き明かされていく
さらに色々な過去があるのでしょうか
#12が楽しみです^^