Nicotto Town



帆を張れ

、と高比古は鼻で笑った。

「北風が来るぞ。」

 その瞬間。海上をめちゃくちゃに吹き荒れていた風が、一つの大流にまとまった。背後から吹いた風を、勢いよく広がった白い帆が捕まえてばさりと唸る。北風に押された五艘の船は、またたく間に速さを増し、海の上をやすやすと滑っていく。

 石玖王の船団でも、急に吹いた北風にあやかろうと帆を広げる支度が始まった。しかし、強風に煽られてなかなか作業は進まず、手間取っている。

「くそっ。風を呼びやがったのか? 妖しい技でも使いやがったのか!?」

 見る見るうちに石玖王の船団に追いつき、あっという間に追い抜いた高比古の船団を睨みつけて、石玖王は悔しがった。

 石玖王の船団のそばをすり抜けた高比古は、自分が率いる兵たちを見渡して、はじめて声を張り上げた。

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「二艘は背後に残って風上を取れ! 先頭の船は前に周り込んで、全船で四方を包囲。矢をつがえて帆を狙え」

 若い青年の声が、荒れ狂う波の上で強風を裂く矢のように響いた。

 高比古を乗せた小船はさらに速さを増して、水面に渦を巻いた潮の流れを利用して石玖王の船団の先に回り込む。そして――。兵が櫂から弓矢に持ち替えて相手を狙い終わると、高比古は最後の指示を出した。

「帆を畳め。終わった」
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 いまや、石玖王の船団はこれ以上先へ進むのを諦めていた。

 櫂を漕ぐ手をとめた船乗りは、呆然としていた。

 先頭の船で顔を赤くして悔しがる豪傑に向かって、高比古は淡々と呼びかけた。

「こっちの勝ちですね、石玖王。これが模擬戦ではなく実戦だったら、おれは火矢を撃たせて、帆柱を燃やしていました」

 勝ちを宣言した高比古に、石玖王は巨体を震わせて歯ぎしりをした。

 石玖王の船団にいた兵たちも悔しがったが、小さな船の上にすっくと立つ高比古を見つめる彼らの目は、どちらかといえば恐ろしいものを見たというふうだった。

「あの方は、いったい何者だ……。一年かけてこの海に慣れた潮見役が、てんで歯が立たないなど――」




 勝負がついたとわかると、背後から追いかけてきていた残りの船団がゆっくりと間合いを詰めて近づいてくる。

 足並みが揃うと、ふくらんだ船団は本砦のある浦へ向かい、浜に船底をつけて上陸する。

 ばしゃん、ばしゃんと水音が響く中、ほかの兵と同じように船から水際に飛び降りた石玖王は、しきりに太い首を傾げていた。

「すげえな、こりゃ。ほんとに勝っちまうんだもんなあ。ただの生意気なくそガキじゃないなんて、めんどくせえことこの上ねえな」

 ぶつぶつというものの、浜にあがった石玖王は足を止め、自分より後に船を降りた青年を探す。

 ざばり、ざばと水音を立てて波打ち際を歩く高比古を見つけると、石玖王は顎で合図をしてそばに呼び寄せた。

「腹が立つが、さっきのはおまえの勝ちだ。本当に、おまえって奴はむかつくガキだよなぁ」

 船上げの喧騒の中で、石玖王は渋々とそういったが、高比古の顔が勝利に酔うことはなかった。

「いえ――。いい風が吹いたのは偶然だし、さっきのように風を読むのは事代(ことしろ)にしか……もしくは、おれにしかできないことです。おれがいる時になにができても意味がありません。最上の策であったとしても、万能ではないんです」

 高比古は思いつめるような真顔をして、言葉を探しながらいった。

「でも、あなたのやり方だったら、全員に教えることができます。頼みの風が吹かない時の波の選び方にも、陣形にも無駄がなかったし、考え抜かれていたと思います。あなたの軍が身につけた技を、おれが連れてきた連中にもぜひ教えてやってください。早く戻りたい




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