Nicotto Town



醜態を晒すのならば


「ここでくだらぬ争いをして家中に醜態を晒すのならば、お主らすべてわしのもとから離れよ! 今、ここですべきことはなんなのだ! 敵は誰だ! 父上かっ! それとも隣の同僚かっ! 武田大膳であろうがっ!」
 連中は黙るしかない。憮然と腰を下ろすしかない。
 牛太郎は連中をちらと見やる。もとはといえば、勘九郎が佐渡守をなじったのが始まりなのだが、もちろん、誰もそれは口にしない。
「わしは出陣する」
 と、勘九郎は屹立したまま言い、佐渡守以下列席者の意見、いや、感情を、ほとんど無視した。
「そのための軍議だ」
 出陣反対派の顔つきは、うつむきながらも苦々しかった。

 城攻めには城攻めのやり方があると言って、勘九郎の前では勇ましかった牛太郎だったが、軍議では一言も発さなかった。勘九郎に振られても、
「あっしはいくさ下手なんで」
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 と、視線をそらしたままに不甲斐なく、勘九郎を呆れさせた。
 結局、牛太郎は岩村城攻めに従軍しないことになった。羽州は隠居の身なのだから出陣しなくてもよいと林佐渡守が発言し、牛太郎を半ば将として扱わなかった。
 初め、補佐役と勘九郎に自称した牛太郎であるが、信長が家中に公言した牛太郎の役目はない。ゆえに、一線から身を退いただけの男でしかない。
 家臣団から予想以上に忌み嫌われているし、その敵愾心にくじけてしまったし、勘九郎は林佐渡守の意見を飲むしかなく、
「岐阜の留守を任せた」
 と命じたのが、爪弾き者へのせめてもの慰めであった。
 明朝の出陣目掛け早急に支度ということで、長々と感じられた軍議も終わり、牛太郎は打ちひしがれながら本丸を下りていく。
 勘九郎軍団から排除された事実から、牛太郎は顔を今にも泣き出しそうにしているのではない。
 ものすごく嫌われているという寂しさからだった。
 そして、鈍牛呼ばわりされたように、まったく評価されていないということ。
 牛太郎は知らず知らずのうちに、織田家臣団の枠組みとは別の、奇妙な縁をたぐり寄せて生きてきた。前田又左衛門や羽柴藤吉郎、明智十兵衛たちとの出会い頭の縁であったり、太郎を養子に迎えたための丹羽五郎左衛門との縁であったり、梓を押し付けられたうえでの柴田権六郎との縁であったり、荒木摂津守、松永弾正、徳川三河守との不思議な相性の縁。市にしてもそう。主君信長にしてもそう。
 それらの縁以外には何もない。それらの縁だけに頼り、悪く言えばそこに胡坐をかき、何もしてこなかった。対外活動に忙しかったという言い訳もある。だが、年始の賀宴にすら何度も欠席した牛太郎を、彼とは無縁の家臣たちは快く思うだろうか。無縁の者たちは、簗田牛太郎はそういう人間だから、と、納得するだろうか。
 そんなはずがない。
 ましてや、どこで何をしているのか知らないままに出世しているのだから、織田家に仕え、信長の激情に怯えながら過ごしている連中からしてみれば、簗田牛太郎がおもしろい男のはずなかった。
 藤吉郎より嫌われているかもしれない。下手をすれば、憎悪である。
 そもそも――。
 牛太郎は足を止めると、袖を広げて自らの容姿を確かめた。
 登城というのに、半纏股引である。
 溜め息をついた。嘆きの色が濃い吐息であった。己が愚将と言われるゆえんがわかったような気がした。
 でも、牛太郎は、次からはしゃんと振る舞おう、などとは心構えを改めない。おれはこういう人間なんだ、と、あきらめている。溜め息をつきつき、とぼとぼと稲葉山を下っていくだけである。
 織田家重臣、従五位下出羽守。
 天下布武を目指す織田家中において 




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