Nicotto Town



屋上の『魚歌水心(ダブルソード)』

殺し合いを心底楽しんでいる獣の顔がそこにあった。
 どうやらこの相手に精神的動揺やプレッシャーからのミスは望めないらしい、と律子は冷静に計算する。

 久々津はまた飛び込み、右の刀を適当に振り下ろしてくる。
 恐るべき速度のその一撃をかわした律子に向かって、左の刀が横薙ぎに襲い掛かってきた。それもかわす、が。

「――うっ!?」

 紙一重でかわすのではなく、律子は危険を感じて大きく後ろに跳んだ。一瞬前まで律子のいた場所を、斜めに左の刀が斬り上げた。

「くくっ、今のも避けるか! さすがは律子さんだ」

 まずい。予想以上だ。
 律子は戦慄した。
 横薙ぎから斜めに斬撃が変化した。その理由は律子には分かっている。どのようにして軌道を変化させたのかはしっかりと見えた。
 久々津は、横に振っていた刀の軌道を、手首のスナップで無理矢理に斜めへと変化させたのだ。
 単純だからこそ、恐ろしい。あの太刀を片手で軽々と振るうのも恐ろしければ、手首で刀の軌道を途中で変えるなど、どう考えても手首を壊すやり方だ。
 それを易々とやってのけるということと、彼の限定能力の名前を考えれば。
 『|魚歌水心(ダブルソード)』とは、おそらく片手で剣を振るうことに特化した能力に違いない。腕の筋力や関節の柔軟性などを集中的に強化する能力だろう。
 律子はそう結論付けた。

 恐ろしい能力だ。ただし、相手の限定能力の内容が推測できれば、やりようはある。
 律子は、ゆっくりと突きの構えをして、久々津ににじり寄っていった。

「んん? 何のつもりだ?」

 美しい顔に恐ろしい笑みを浮かべ、久々津はまるで無警戒に律子に近寄ってくる。

「しっ」

 そして適当に太刀を振り下ろした。凡庸な一撃、何の工夫もない。ただ、速度と鋭さは一流だ。
 その一撃に対して、律子は突きから構えを変えて、刀を振り上げた。突きは狙いを悟られないためのフェイントだった。律子の振った刀の一撃は、久々津の振り下ろされている太刀に向かう。

「――むっ」

 刀と刀がぶつかり合う直前、手首で久々津は刀の軌道を変えた。お互いの刀は何に当たることもなく、虚しく空を切る。

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2013/08/13 17:40

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