Nicotto Town



一時間近

は、寝床にするつもりで勝竜寺城に押しかけてき、折よく兵部が在席していた。快く、という表情でもなかったが、織田家の畿内奪還の立役者をぞんざいに扱うはずもない。
「そんなことより、摂津はどんなもんですか」
 と、牛太郎はぎこちなく話を変えた。
 勝竜寺城は京と摂津を結ぶ西国街道の途上にあり、京都盆地の南端にある。淀川を越えれば大和、西に少し行けば摂津高槻と、自然、怪しい連中を睨み据える役割を担っていた。
「御存知でしょうが、石山本願寺が再度狼煙を上げましたぞ。数日中にはここもあわただしくなりましょう」
「いや、本願寺もそうですけど、高槻とか池田は」
「信濃守は、まあ」
 好き勝手にやっているらしい。
「相変わらずの茶の湯道楽ですか」
「それなら可愛いものですが、摂津切り取り次第となってからは、なかなか野心的な様相もありまして、昨年の若江城攻めの折りもおやかた様の命があったわけでもないのに、張り切って軍勢を出してきましたし、今は伊丹を狙っているようでしてな」
 兵部の渋った表情に、牛太郎もどこか複雑な気分になった。戦国の将に野心は付き物で、摂津の一大勢力と躍り出た信濃守の張り切りようもわからなくはないが、あの信濃守が、それなのである。
 どこか、素直に受け入れられない。釈然としない何かが、胸の奥に生まれた吹き出物のようにある。
「もちろん、簗田殿は信濃守及び摂津衆を対本願寺の前線とされるおつもりなのでしょう?」
「う、うん」
 そんなことは、ちっとも考えていない。牛太郎の中では、自分の摂津での役目は終わっている。
謎の間柄

 勝竜寺城を出ると淀川を渡り、大和の信貴山へと足を運んだ。
「何の用だ、小僧。押しかけてきやがって」
 広間に姿を現すなり、一時間近く待たされていた牛太郎にそう吐き捨てて、上座にどっかと腰を下ろした松永弾正忠。
 肘掛に体をもたせ、唇をへの字に曲げて、眉間の皺をいっそう深く、牛太郎を睨みつけてくる。
「わしは忙しいのだ。貴様の能書きなどを聞いていられる猶予などない」
「そう言うわりにはお見えになられたじゃないッスか」
 弾正忠は唇の片側だけを歪めて、フンと笑った。ばちっ、と、扇子を広げ、ばたばたと顔を仰ぐ。やはり、機嫌が悪いわけではない。口の悪い老人なのだ。
「まあ、貴様の醜い顔もたまには良いと思ってな。あわれに痩せこけてしまったしな!」
 ゆうに二十畳以上はある広間に、弾正は大きな笑い声を轟かせる。
 牛太郎は唇を尖らせる。
「あっしは御隠居と違って、いろいろと大変なんスよ」
「なあにがいろいろと大変だ! 貴様が女房に拷問を受けたことなど知っとるわい! まあ、それなりに盛んなようで、老いてしまったわしには羨ましい限りだがな!」
「やっぱ、来なかったほうが良かったッスかね」
「おう! 帰れ帰れ!」
 ちっ、と、牛太郎は舌を打ち、弾正はげらげらと愉快そうに笑う。
「して、用件はなんだ。まさか、このわしの城を宿所代わりに使いたいなどと申すのではなかろうな」
「いや、そのつもりなんスけど」
「あつかましい奴だ。まあ、好きにしていけ」
 牛太郎は思わず笑ってしまう。希代の大悪党と忌み嫌われる弾正なのに、なかなか憎めない。
「で、どうなんスか、その後は」
「何がだ。わしの余命か。そんなもの、この悪党いつでも死んでやるわい」
「そうじゃなくて。平蜘蛛ですよ。信長様にせがまれているんスか」
 弾正は扇子の手を止め、はたと牛太郎を見つめた。豪放さも悪党の薄汚さもそこにはなく、どちらかといえば置き物のようにきょとんとしている。
「まあ、変な素振りもなさそうッスから、言われていないんでしょうけど」
 すると、弾正はしばら




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