Nicotto Town



金平糖

時は、天正10年5月、近江坂本城の一室で、明智光秀は、丹後細川家から届いた一通の書状を読みながら、頭を抱えていた。
『パパ、もうだめ、我慢できない。別れる。坂本に帰っていいでしょ。旦那のやきもちに付き合いきれないわ。昨日なんて、ちょっと話をしただけなのに、呉服屋の番頭が百叩きにされちゃったわ。金平糖を食べているときだけが、心安らぐの。もうなくなりそう。早く送ってね。じゃあね。』

細川忠興に嫁いだ三女の玉子からの手紙だった。玉子は後に細川ガラシャと呼ばれ、織田信長の妹、お市の方とともに戦国一の美女と呼ばれる美貌の持ち主だった。忠興は、教養も才覚もあるできる男であったが、性格に問題があった。

忠興は嫉妬深かった。後に朝鮮出兵に出た時には、浮気をしてないか、秀吉に誘惑をされてないかと毎日、手紙をよこしてきた。それにも関わらず、自分は側室を5人作って帰ってきた。忠興だけでなく、美人を嫁さんにすると、皆心配になるが、極端なヤンデレで玉子をがんじがらめにしていた。

光秀は困った。別れたいと言われても、忠興と玉子の結婚は信長の指図によるもの。離縁になったらただでは済まされない。

金平糖がポルトガルから日本に伝わったのは、ルイス・フロイスが信長に献上したときである。光秀は、信長に下賜されたものを、珍しいだろうと玉子に送った。金平糖は信長しかもっていないが、信長に、もう少し頂戴とは、怖くていいだせない。

数日後に、また、丹後から書状が届いた。
『パパ、金平糖はまだ。もう、なくなっちゃった。早くしてね。』
この時代、ダイエットという概念はない。忠興に外出を禁じられた玉子には、金平糖しか楽しみは残されていなかった。わが娘のことを想いながらも、信長は怖い。光秀は、薄くなりかけた頭を抱えた。

所代わり、備中高松城。水面に浮かぶ高松城を眺める羽柴秀吉に黒田官兵衛が切羽詰まった顔をしながら話しかける。

「殿、毛利の大軍が迫っておりまする。悠長に水攻めをしている場合ではござらぬぞ。ここは、力押しで清水宗治を討ちとりましょうぞ。」
「いやじゃ。先週、サスペリアを見たら、ドバ、グチョで気持ち悪くなった。もう血は見たくない。それより、官兵衛。光秀から金平糖が手に入らぬかと書状が参った。玉子ちゃんが欲しがっているらしい。玉子ちゃんは美人だから、恩を売っておけば、いいことがあるかもしれん。信長公は安土城の本丸に金平糖をしまってあるだろう。それを光秀に伝えてくれ。」
「御意」

光秀のもとに、官兵衛からの書状が届く。光秀は悩んだ。信長公に黙って、安土城から金平糖を盗み出したら、ばれた時が怖い。信長に頂戴とは言えない。そうは言っても、玉子のことも気がかりだ。悩みに悩んで、つぶやいた。
「時は今 天がしたたる 五月かな」

敵は本能寺にあり。明智軍は、本能寺を四方から囲み、信長を討った。光秀は、嫡男信忠も討つと、近江を平定し、安土城に入る。信長貯蔵の金銀財宝を強奪して家臣や朝廷に与えた。金銀が目当てではない。金平糖が目当てだ。

所代わり、備中高松城。官兵衛がしかめっ面をして秀吉に話しかける。
「殿、毛利への密偵を捕らえました。その書状をご覧ください。」
秀吉は、書状に目を通すと、目の色が変わった。
「まじ。光秀、金平糖をちょろまかすとばかり思っていたら、全部欲しくて、信長公に謀反したの。官兵衛、まずいんじゃない。ひょっとしたら、俺がそそのかしたことにならない。」

「殿、共犯者と思われかねません。光秀が余計なことを言う前に、討たねばなりませぬ。ことは急ぎまする。」
「そうじゃの。光秀を討つ。安土まで大駆けじゃ。」
こうして、中国大返しがはじまり、山崎の合戦で明智軍は大敗し、光秀は落ち武者狩りの百姓に討たれた。秀吉は、念のためにと安土城の本丸に火をかけ、証拠隠滅を図った。

玉子は、自分が金平糖が欲しいと言ったばかりに、とんでもないことになってしまったと後悔し、キリストに懺悔する日々を送ったが、関ケ原の合戦の前夜、もう金平糖を食べることができないと命を絶った。

井原西鶴の「日本永代蔵」によると、歴史を変えた金平糖が、日の本の国で製造できるようになったのは、江戸中期元禄の頃である。今では、可愛らしい「コンフェちゃん」が旅をしながら、世界中に笑顔とコンペイトウを広めている。http://www.konpeitou.jp/comic.html

ちなみに、金平糖は、直径2mくらいの浅いタライに下からガスで熱して、30度くらい傾けゆっくり回す。グラニュー糖を60kg入れて、濃い砂糖水を上からぽたりぽたりとたらす。10日ほどたつと、直径2cmくらいの金平糖が出来上がる。

回転が早かったり、糖蜜の量が少ないと角ができない。あのとげとげは、微妙なバランスでできあがっている。寺田寅彦も、金平糖に何故角ができるのか、その返答は偉い物理学者でも出来ないと書いた。

金平糖は、今でも自衛隊の携行食糧や皇室の婚礼の引き出物として使われている。科学的に安定していて、50年たっても変質しない。疲れた時に、おひとつどうぞ。

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2019/07/21 14:06
ゆりかちゃん
立派な考察、消さなくてもよかろうに。武田神社で武田年表を見ているところですが、上杉、北条の関係がいっそうこんがらがります。信玄が絵が上手でないことは分かりました。
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2019/07/21 13:41
こんにちは、沖人さん。
日記と関係ない内容になりますが、こちらに失礼します。

以前に沖人さんに考察して頂いた、甲相同盟破綻の件についてですが…
やはり、御館の乱で、北条氏政が武田勝頼に不信感を抱いたのが発端ですね。

でも、勝頼としては、かつて甲相越三和構想を目指したように、
決して北条を粗略にした訳ではなく、あくまで中立を保ち、上杉・北条の両者を結びつけたかったのだと思います。

それが、双方とも領国の境目に砦を築き、抗戦態勢を示してしまったのが、さらなる誤解や不信感を招き、同盟破棄の決定打になったのかと。
そうなる前に、本音で話し合える機会さえあれば…

こじれた糸は、時間経過とともに、ますます解くのが難しくなりますね。
元通りにはならなくとも、せめて1本の矢文さえ届けば、と願わずにはいられません。

沖人さんの考察から、そんな感想を抱いた次第です。
読み終わりましたら、消して頂けると幸いです。
消してくれなきゃ自分で消しちゃいますからね~。

お付き合い頂き、ありがとうございました^^
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2019/02/27 21:37
たまちゃん
資生堂パーラーに金平糖ってあるんですねっていうか、資生堂パーラーに行ったことがない。雪印パーラーとか四葉パーラーのように、北海道資本ばかりだ。スイーツ男子としては、一度、行かなくてはいけないけど、おしゃれな女性ばかりいそうで、気後れするな。女装していこうかな。
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2019/02/27 21:34
日本の歴史にものすごい影響を与えた金平糖、
あんなに小さな粒なのに、破壊力がすごいですね(笑)
それほど金平糖をおいしいと感じたことがなかったのですが、
資生堂パーラーの金平糖を人からいただいて、
食べてみたらおいしかったです。色によって味もちゃんと違うんだ!なんて
変なところで感心してました^^
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2019/02/23 18:45
みーぴこさん
金平糖の写真を見たら、カラフルで可愛らしいと思って、金平糖を題材にして書こうと思ったら、こうなっちゃいました。玉子ちゃん、気が強いみたいだから、軟弱な僕では無理です。

さなちゃん
歴史の評価は時間とともに変わっていきますね。自分が子供の頃は、家康は完璧にたぬき親父で立身出世の秀吉の方が人気だったけど、そんな生き方は今風じゃないので、晩年のほうが目立っちゃってますね。

環謝さん
金平糖は10日間も、じっくり鍋を回しながらぽたぽた糖蜜を落とさなければいけません。ゴールデンウィークの予定もないので、金平糖づくりに挑戦してもいいですが、10日間不眠不休で挑む体力がありません。

ゆりかちゃん
光秀は、近衛師団長兼外務大臣みたいな地位から、山陰に行けと言われたら、存在意義が無くなったと思ったり、プライドが傷つけられたりして耐えられなかったのかもしれませんね。自分はプライドがないので、出雲に引きこもりそうです。

mさん
次女の結婚式の引き出物に金平糖をぜひ使ってください。調べた文献を捨ててしまっておぼろな記憶ですが、紀子さんの時も雅子さんの時も、金平糖が引き出物に出たそうです。

Popoさん
歴史に詳しくないのですが、知れば知るほど、面白くなっていきますね。それに、ミステリーな部分が残るのもいいですね。だから、いろいろな解釈が生まれます。ふざけてしまって、すいませんでした。
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2019/02/23 02:49
歴史ってその人側からみると
全く違った面になりますよね^^
だから面白い^^

歴史好きなので真剣に読みましたw
楽しかったです^^
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2019/02/22 21:05
金平糖・・・もう何年も何十年も食べて無いかも・・・?
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2019/02/19 17:42
こんばんは、沖人さん。

今回は私の大好きな時代小説じゃないですか。
すっごく面白い~(*^▽^*)
どんなジャンルも書けて、本当に凄いですね!

愛妻家で有名な明智光秀は、きっと娘のことも溺愛していたのでしょう。
父と夫から愛されて美人はお得…と思いきや。
玉子さんは謀反人の娘となり、ヤンデレに幽閉された壮絶人生。
百叩きで済めばまだマシですが、史実はもっと大変なことに………(自主規制)

光秀の、板挟み状態な苦労人っぷりが哀愁漂いますね。
本能寺の変の動機に新たな新説が…!
四国説の次は金平糖説ですねv
金平糖をねだることすら出来ないなんて、信長はなんて恐ろしい上司なのでしょう。
部下に優しく太っ腹な沖人さんとは正反対です。

サスペリアを見てる秀吉、いい味出してますね~。
秀吉黒幕説もありましたが、こんな真相も隠されていたとは^^
当時はキリスト教に入信すると西洋の珍しいお菓子が貰えたようですが、まさか玉子さんは金平糖目当てで…(笑)
そして自殺の動機も金平糖でしたか。
ヤンデレな忠興は金平糖にすら嫉妬しそうですねv

ゆるキャラなコンフェちゃんを想像してたら、まさかの金髪美少女でした。
今回はいつも以上にお腹を抱えて笑わせて頂きました。
また時代小説を執筆して下さるのを楽しみにしてます(*^^*)
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2019/02/19 15:24
歴史の難しそうな話でも、沖人さんにかかれば
楽しい読み物になっちゃうんですね♪

そして、気になるのは金平糖の作り方を書いてありますよね?
もしかして金平糖もチャレンジされるつもりなのかしら(*´∀`*)
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2019/02/19 07:11
歴史ってどんどん変わってますよね・・・
最近は裏切り者の明智光秀が実は正義の味方だったとか
日本は鎖国してなかったんじゃないかとか
学生時代に一生懸命覚えたのに意味がなかったのかなって思っちゃいます><
こういう歴史もアリなのかも?ww
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2019/02/19 00:59
沖人さん、こんばんは✿

おもしろ~い♪
今夜も楽しく拝読させていただきました^^

つかこうへいの「つか版 忠臣蔵」を思い出しましたw
歴史って意外とそんあこと?なんてこともありそうですよね(*^▽^*)

金平糖の専門店にはいろんな味の金平糖があるんですよねw
季節の味なんかもあるみたいで・・・・今ならいちご味が食べたいなぁ~
沖人さんも美人で有名な玉子ちゃんと一緒に金平糖を食べてみたいでしょw

それでは素敵な夢を・・・おやすみなさい☆




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