旬を過ぎた話だが、二股騒動がマスコミを賑わしていた。

詳しい事情は知らない。
塩谷という俳優が、料理評論家と富永愛に二股をかけていたというものだ。
その上、両者にプロポーズしていたという話だった。

二股など、そこらに溢れるどうってこともない話だが、
二人の女性にプロポーズしていたといういうことには驚いた。

塩谷という俳優も、料理評論家という女性も私は知らない。
だが、富永愛は知っている。
深淵な世界の凍てつく水面のような目をし、その奥から、ほのかに暖かい眼差しを下界に注ぐ、
圧倒的な存在感を誇り、日本の「美」を体現できる稀有なモデルという認識だ。
実物はもっと美しいだろう。

完璧な美を前に、塩谷という男が取った行動は、分からないでもない。
彼の才能を想像するしかない無責任な立場を承知でコメントすると、
彼は普通の優男、ホスト崩れ、モデル崩れ、夜の街に履いて捨てる程もいる程度の男前。
それが、何の拍子か役者という蜘蛛の糸を掴み、周りの思惑が用意したエレベーターに乗り、
自分の立ち位置も分からぬまま、ガラス細工のステータスのみが上がっていく。
有頂天を通り越し、据え膳のみに満足し、現実と虚構の区別がつかぬまま享楽的に日々を送る。
そんな日常の、ただの男。


そこで、料理評論家なる女性と知り合う。
この女、不細工に属すると思うのだが、美人料理評論家と紹介されている。
自称か？
オカメとか平安時代の価値感なら美人の末席に入ってもボーダーだろうが、
平成の御世では、どう見ても周りに異臭すら漂わせる悍ましい醜女でしかないように思う。

この女性が評価されているのは、
彼女の主宰するレストランが「隠れ家的」という時流にマッチしたキーワードを持ち、
東京ローカルにおいて、陰で虚構を仕掛ける人々の自尊心をくすぐるお店だという点だ。
東京マジックの及ばない畿内から眺めると、逆立ちした上野のパンダに人が群がってる程度にしか見えない。

しかし、
東京マジックで祭り上げられ、
東京マジックを信じることと、己のアイデンティティーを確立することが同じでしかない塩谷には、
マジック上、上位にランクされている料理評論家と関係を持てたことは、
自分のステータスを上げたと映っただろう。
また、利用価値があるとでも思ったのか。

女性の方も、外見のみの中身のない男を、
お手軽な年下の性処理道具とでも扱い、重宝していた。
そんな二人の打算的な関係が透けて見える。

　取り得のない男と、時流に乗っただけの女。

それだけなら、どこにでもある普通のカップルだった。
ある意味、塩谷は自分の価値をわきまえていた。
取り得のない男が女を喜ばせる唯一の行いは、プロポーズだと知っていた。

不細工な女は有頂天となり、
女もまた、自らの唯一の取り得である「時流」を最大限、彼に注いだ。
有名人に彼を紹介するということだ。

きっかけはともあれ、
注目を浴び、有名人との知己が増えるという相乗効果で塩谷の魅力が、
魅力という程でもないだろうが、塩谷に一筋の光明があたる時期があったのだろう。

木漏れ日に照らされた泥沼のきらめきに、天女の目が留まった。
天女は舞い降り、地べたを這うヒキガエルに関心を持ち、勢い関係に至った。
身の丈という言葉の範疇からは、遥かに隔たった殿上人に拝謁し、恩を賜る。
何が何やらわからない塩谷にすれば、
現状認識の許容範囲オーバーの出来事が起こったというところか。

中身を持ち合わせず、プロポーズしか思いつかないこの男は、
また、自分の最大限のプレゼント送る。
そうか、素直にＤＮＡが騒いだか。。

下界に舞い降りた天女も、悲しいかなカテゴリーは女性で、社会儀礼を素直に喜び受け入れる。
その結果、一人の男が二人の女にプロポーズしたという状況が生まれた。


ここまでの塩谷の取った行いは分からないでもない。
能力も才能もない、容姿も左程、一般からはアドバンテージがあるかも知れないが、
外見勝負の世界では平均クラスの容姿しかもたないこの男の唯一の武器。
武器というほど殺傷力はないが、決め技はプロポーズ。

そう考えると、後の顛末は彼には残酷なものだ。
悔やんでも、悔やみ切れない現実がこの後続く。


もし、仮に僕なら、
二股などしないが。。プロポーズなどしないが。。
もし仮に、そんな状況下で富永愛と関係を持ち、翌朝に現実を把握したら。
己の心臓を抉り出し、神に捧げ、事実を打ち明けると思う。
その場で息絶えるだろうが、
天女と時を共する一縷の望みにすべてを賭けるだろう。

塩谷にも、そんなシナリオが選べただろうに。
この馬鹿な男は、そういった頭も働かなかったのか、真実を告白する勇気もなかったのか。

暫く休業するらしいが、彼はこのまま夜の世界に沈んで行くような気がする。
元モデル、元ホスト、元役者。。。

外見勝負の中身のない男が、また夜の世界に一人増える。