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反物質の利用法

SFの世界の話がまた一つ現実になったようだ。
日本の理化学研究所を含む国際チームが反物質の生成に成功したというニュースである。

SF小説の世界では何十年も前からおなじみの物質だが、わずか0.2秒間とはいえ人工的に作る事ができたという意味は大きい。

この世界の物質は全て原子からできていて、その原子は全て陽子、中性子、電子の3種類の素粒子からできている。
陽子や中性子はさらにクォークという素粒子からできているが、話が複雑になるので、陽子、中性子、電子のレベルに今回はとどめておこう。

全ての素粒子にはある性質だけが逆の「反粒子」が存在する。
陽子なら電荷が逆でマイナスの電荷を持つ「反陽子」、電子ならプラスの電荷を持つ「陽電子」、中性子には電荷がないが「バリオン数」という属性が逆で「マイナス1」である「反中性子」が存在する。

陽子と反陽子、電子と陽電子、中性子と反中性子が接触すると双方の質量が光とエネルギーになって爆発して消滅してしまう。これを「対消滅」と呼ぶ。
陽電子は「ポジトロン」とも呼ばれる。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に出て来た「ポジトロン・ライフル」は、陽電子を相手にぶつけて敵の体内にある電子と対消滅を起こさせて破壊する、という武器である。

全質量がエネルギーに変換されるので、現在地球上にある最大級の水爆をはるかに上回る威力の爆弾を作る事が可能だ。
いわゆる「反物質爆弾」で、これもSF小説の世界ではおなじみの兵器だ。

今回は0.2秒しか存在できなかったから反物質爆弾を作れるようになるのは何十年も先だろう。
もしできたら手の平に乗る程度のわずかな量の反物質で、例えば東京全土を跡形もなく消し飛ばせるほどの威力だと言われている。

ただ反物質にはもっと平和的で夢のある使い方もある。宇宙船のエンジンの燃料である。これもSFの世界では昔から有名だ。

現在宇宙ロケットを地球から打ち上げる際にはいろんな燃料が使われているが、共通するのは酸素と反応してエネルギーを生み出す仕組みだという事だ。
宇宙空間には酸素はないから、宇宙を旅するには打ち上げロケットとは全く異なる仕組みの燃料ないし推進機関が必要になる。

最近まで使われていたのは液体水素と液体酸素を別々のタンクに詰め、これを少しずつ反応させてノズルから噴射するという方式だ。
だが水素と酸素を液体にするのに莫大な電力と費用がかかる。また量がかさばるので長距離の宇宙の旅には向かない。

奇跡の地球帰還を果たした「はやぶさ」に使われたイオンエンジン、太陽の光を大きな帆で受けて推進力にする宇宙ヨットなどが実用化の段階に入っているが、前者は人が大勢乗れるような大きな宇宙船にはまだパワーが足りないし、後者は太陽から遠く離れた場所では使えない。

その点反物質ならわずかな量で核兵器並みのエネルギーを出せるので、長距離宇宙船の推進燃料としては理想的である。
ちなみにスター・トレックのエンタープライズ号の燃料はこの反物質だったと記憶している。

反物質の研究は、宇宙理論の長年の謎を解くのにも役立つ。
現在の宇宙論と素粒子理論では、この宇宙の物質は全てビッグ・バンで宇宙が誕生した時にエネルギーから質量へと変換された素粒子がその起源だということになっている。

ところが一つ重大な矛盾がある。現在の理論だとこの宇宙で陽子、電子、中性子が生成された時、同じ数の反陽子、陽電子、反中性子がペアで同時に生成されたはずなのだ。
であればできたと同時に対消滅を起こして消えてしまったはずで、現在この宇宙に物質は存在していないはず、という事になってしまう。

しかし現実には宇宙には物質が大量に存在するのだから、可能性は二つ。
一つはビッグ・バン直後の反物質より物質の数が大幅に多かった。
もう一つは物質と反物質が同数できたが、反物質だけがどこかに行ってしまった。

ただ、どちらだとしても何故そんな事が起きたのか?という点は現在の理論では完全に説明できない。少なくとも実験で確認されていない。
反物質の研究はこの謎を解くカギにもなり得るのである。

アバター
2010/11/18 14:24
(私にとっては)難しい話を身近なSFを使ってわかりやすく解説して下さりありがとうございます。
とても夢のあるお話で拝読していてワクワクしました。

恐ろしい兵器に転用せず、有用に研究されていくことを心から願ってしまいます。




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