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現代日本の階級対立

今年の参議院選挙は、与党の勝利という結果だったのは言うまでもないとしても、野党の中で日本共産党が一人勝ちという興味深い結果になった。
最大野党である民進党の不振が目立ったわけだが、これは共産党と組んだからというよりも、民進党の主流派が社会の変化を正確に認識していないせいではないかと思う。

国政選挙になると、とかく国民を二つの「層」に分けて、その対立構造という図式で有権者に訴えかけようとするのだが、どうも前身である民主党が政権を失って以来、民進党は狙うべきターゲットを間違えている気がする。

もちろん、はっきりと数字で示せるデータがあるわけではないので、あくまで仮説なのだが、現在の日本社会は階級対立が再び激化しているように感じる。

ただし、かつて55年体制下で旧・日本社会党が主張していたような「資本家階級VS労働者階級」、「富裕層VS庶民」という図式ではない。
現在の日本で階級対立を演じているのは「既得権益を持つ中間所得層VS既得権益を持たない低所得層」だと思う。

富裕層や資本家階級はどう絡むのかと言えば、保守政党にしてブルジョア政党である自由民主党支持は基本形だが、一番国内政治に関心が薄いのは、この層ではないか?
なぜなら、たとえ今の野党が今後大躍進して再び政権を取ったとしても、社会主義革命の脅威はもはや存在しないからだ。

たとえ日本共産党から総理大臣が出る日が来るとしても、社会主義革命が前世紀の遺物でしかない事は、当の共産党自身が認めている。
そして経済新興国の生活水準が冷戦時代と比べれば、飛躍的に向上しているため、資本、財産、さらには富裕層自身が、いざとなったらさっさと国外へ逃げてしまえばいい。

富裕層にとって、日本からの脱出がいろんな意味で容易になった現在、どんなイデオロギーを掲げる政党が政権を取るかは、富裕層にとっては死活的な関心事ではない。

そう簡単に日本から逃げ出せない層、すなわち中間所得層と低所得層のみが、政権の行方に最も敏感な人たちだろう。
ここで最も深刻な問題は、中間所得層と低所得層の間で「社会的分断」が既に起きて、定着してしまっているように見える事である。

いつの時代でも、どこの国でも、富裕層とその下に断絶があるのは当然の話である。
昭和の後期、いわゆる「一億総中流」と言われた時代の日本では、中間所得層と低所得層の間には「断絶」と言うほど深刻な壁はなかった。
だが2010年代の今の日本社会では、中間所得層と低所得層、特に相対的貧困層と呼ばれるほど生活水準が低い人たちとの間で、人間関係の決定的な断絶が生じつつある。

具体的な例を言えば、東京都心に住んでいる貧困層の小学生の中には、電車や地下鉄の乗り方を知らない子がけっこういる。
東京都内でもっとも安上がりな交通手段は電車、地下鉄であるのだが、親の貧困故に家族と一緒に電車に乗って出かけた事がないわけだ。
だから駅の券売機の使い方を知らない。

中間所得層の子どもは、小学生高学年にもなれば一人で電車や地下鉄に乗れて当然である。
だから、自分と同じ年頃の子どもは、電車の乗り方はしっているはずと思う。
日本社会の行動規範や価値観は、中間所得層のそれを基準にしている。
だから電車の乗り方を知らない貧困層の子どもは、中間所得層の同級生に対して「電車の乗り方を知らないから教えて」と言えない。
そんな事を言ったら、クラス中の笑い者にされてしまうのじゃないか、と恐れる。

たとえば、こんな事が日常的に起きて、何年もその状態で過ごすと、行動範囲、日頃の人間関係の範囲などが、中間所得層と貧困層の子どもの間で、大きく異なってくる。
この断絶を抱えたままそれぞれに成人してしまうと、所得階層によって倫理観や価値観が全く異なる、お互いに断絶した社会階層に分かれてしまう。

近年SNSで起きる「炎上」での双方の書き込みの内容を見ていると、自分と異なる価値観、倫理観を持つ人間が少なからず世の中には存在しているという点を、お互いに全く理解していない人たちである事が分かる。

ことほど左様に、日本社会は「中間所得層VS低所得層」という構図で、分断されてしまっているのだ。

この分断が政治の世界にはどう影響するか?
中間所得層も所得水準は高低がある。このうち中の上から中の中と言うべき層は、いわゆる経済右派であり、安全保障や外交については革新志向である。
中の上と中の中というのは、たとえば自公政権の誘いに乗って、数百万円程度の株式投資を行っている人たちと言えば、イメージが湧くだろうか。

その程度の投資額ならトレーディングではなく、現物株の保有で儲けようという人である可能性が高い。
であれば、多少の円安による物価上昇から受けるダメージより、投資からのリターンの方が大きい。
したがって庶民の生活より、日本企業の業績向上を重視する政策を支持する。

だからこういう人たちは、中間所得層でありながら、経済右派になりやすく、利害という点では資本家階級との共通点が多くなる。
同時に現在の世界はグローバル化、すなわち地球全土が一つの経済圏になっている。
したがって冷戦時代の国際政治の枠組みから日本に脱却して欲しいと考える。

この層は革新志向だと書いたが、なら当然、民進党支持だと思った人も多いだろう。
実はここが、民進党の主流派がもっとも大きな勘違いをしている点なのだ。

外交や安全保障の分野では何が「保守」であり何が「革新」なのか、という点が現在ではねじれている。

55年体制下では、米国追随すなわち旧社会主義陣営との対決姿勢を唱えるのが保守だった。
対決姿勢ではあるが、実際にドンパチが起きると国内経済が打撃を受けるので、対外的には消極姿勢である。
商売の邪魔になるので、自衛隊が海外にしゃしゃり出るなどもっての外と考える。
この層の利害を代表してきたのが自由民主党だった。

だが、冷戦構造がほとんど崩壊し、仕事のために家族ぐるみで海外に赴任する人たちや、その層と近しい人たちは、邦人救出のために自衛隊が海外へ出るというのは、歓迎すべき事である。
そのために必要なら憲法改正もアリ、という人も多いだろう。
これが現在の日本における「革新志向」なのだ。

だから、こういう中間所得層の目には、改憲反対、自衛隊に否定的な野党陣営の方こそが「保守」と見える。
「リベラル」は革新ではなく「保守」であり、下手すれば「守旧派」に見えてしまう。

この中間所得層こそが特定の政党を支持しない、「無党派層」の中核なのではないかと思う。
彼らの既得権益には「年金で悠々自適の老後を送る権利」なども含まれる。
つまり自分の既得権益が侵されるかもしれない、と感じた時には反対党にあっさり乗り換える。

2009年の民主党政権誕生、2012年の自民党の政権奪還を引き起こしたのは、この層がどっちについたか、によって決まったのだと思う。

つまり、自由民主党と民進党は、「既得権益を失う事を恐れる中間所得層」という、同一の有権者グループを奪い合ってきた。
潜在的支持層がかなりの部分、重なっているのである。

したがって、民進党は、相対的貧困層は日本共産党に任せて、中の下を含む中間所得層をピンポイントで狙うべきだった。
4野党共闘の枠に引きずられて、あたかも低所得層「だけ」の味方のように振る舞ってしまったのが、参院選での最大の敗因ではなかっただろうか?





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