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反戦平和運動の質的劣化

今年も8月15日、つまり終戦記念日が近づいてきて、「戦争の悲劇」をテーマにしたテレビの特番などが目白押しのようだ。

戦争などしないがいいに決まっているし、平和が一番という事には我輩も何も異論はないのだが、近年の「反戦平和運動」には少々うんざりしている。

「歴史は繰り返す」ということわざがあり、だから現在の日本の保守勢力、なかんずく自由民主党、が戦争をしたがっているという短絡的な主張が多いが、正確には「歴史から学ばない者は歴史を繰り返す」である。

日本にとっての第二次世界大戦が、どのような歴史的文脈、当時の国際情勢で始まってしまったのか、この点に全く無知なまま反戦を叫んでいる若者が多い事が気になる。

「戦争は人の心の中から始まる」という確か国際連合関係のスローガンがあるが、これはこれで一面の真理だろう。だから「愚かな日本人が戦争を始めないよう啓蒙せねば」というスタンスで反戦平和デモをしたがる高齢者が多く、それに釣られて「安倍首相は軍国主義者だから戦争をやりたがっているに決まっている」と騒ぐ声はネット上にも多い。

一方、上皇陛下が現役の天皇だった頃、終戦記念日や戦没者追悼の機会で常に「先の大戦」という言い方しかなさっていなかった点に気づいている日本人はどれだけいるだろうか? 陛下は「第二次世界大戦」「太平洋戦争」とは言わず「先の大戦」という表現を一貫して使っていた。

これは日本にとっての「先の大戦」がいつ始まったのか、未だに明確でない事が一因だと思う。日本にとっての第二次世界大戦は、日中戦争と太平洋戦争の二つのフェーズから成っている。

太平洋戦争の開始時期は明瞭だ。1941年12月8日の真珠湾攻撃と英領マレー(現在のマレーシア)侵攻で日本が始めた戦争だ。
だが、日本がこの際に宣戦布告した相手国が米国だけでなく、英国とオランダも含まれていた事はあまり知られていないようだ。

日本は愚かにも「世界中を敵に回して戦争を始めた」と言う左がかった人がいるが、実際に宣戦布告した相手はこの3カ国に過ぎない。では何故この3カ国だったのか?

この3カ国が1937年から開戦直前までに形成された対日経済制裁のネットワーク、俗に言う「ABCD包囲網」のメンバーだったからだ。うちCは中国(当時は中華民国政府)だが、中国とはとっくに戦争を始めていたので、いまさら宣戦布告する必要はなかった。

米国に宣戦布告したと言っても、米国を侵略征服して日本の領土や植民地にするつもりだったわけではさすがになかろう。太平洋戦争の目的は、米国と海上戦闘で優位に立ち、第3国(多分ソ連)の仲介を得て、米国に対日経済制裁を撤回させる事だった。

もちろん実際の歴史ではぼろ負けしたのだが、だから無謀な戦争だったと言うのは、後世の人間だから言える後知恵に過ぎない。

では、なぜ日本は米、英、蘭という当時の先進国から経済制裁を受けたのか? これは欧州各国が半植民地的な経済権益を持っていた中国本土に、自国の権益を力ずくで確保しようとしたからだ。いわば西洋列強の中国における「金づる」に後から来て、横から手を突っ込もうとしたわけだ。

ではなぜ、日本は中国大陸の経済権益にそこまで執着したのか? 工業製品の輸出先がそこしかなくなっていたためだ。

1929年の米国の恐慌に端を発する世界第恐慌の結果、アジア、アフリカの大半を植民地にしていた西欧列強は保護貿易主義に走り、他国からの輸入を事実上不可能にした。

当時新興工業国であり、これから輸出で儲けて豊かになろうとしている矢先に工業製品の輸出先を失って追い詰められたのが、ワイマール体制下のドイツ、イタリア、そして大日本帝国だった。日独伊三国軍事同盟には、そういう共通の「被害者意識」があったのだ。

日本は清朝の崩壊のどさくさに紛れて、清朝最後の皇帝であった溥儀を担ぎ上げて現在の中国東北部に満州国を建国させ、事実上の属国にした。だが、満州国は農産物と資源の供給元としては有望だったが、日本からの輸出品市場としては小さ過ぎた。

西洋列強の輸入障壁をかいくぐる事が可能な巨大市場は中国本土ぐらいしか無く、日本は満州を足掛かりとして中国中心部を支配する中華民国(国民党政府)に強引に市場開放を迫った。

満州をかすめ取られた中華民国がこれに応じるはずはなく、日本は次々と口実をでっち上げて中国中心部への軍事攻勢に走る。これが日中戦争と呼ばれるのだが、この戦争の正式な開始時期がいつと見るべきかは、日本国内でも意見が分かれている。

1928年の日本軍による「張作霖暗殺」の時なのか、1932年の満州国建国宣言なのか、それとも1937年の盧溝橋事件なのか? このあたりが上皇陛下が「先の大戦」という一見あやふあやな言い方にこだわった理由ではないかと思う。

さて日本が中国大陸中心部に進攻し経済権益を確保していくと、困るのは中国を半植民地として金づるにしていた西欧列強である。当然「日本は中国大陸から手を引け」と言ってくるが、日本が聞くはずはない。

また日本は太平洋戦争の前年、ナチスドイツに戦争で早々と負けて占領されていたフランスが東南アジアに持っていた植民地を軍事占領していた。いわゆる仏印(現在のベトナム、ラオス、カンボジアにあたる)進駐である。

東南アジアや南アジアの大半を植民地にしていた西欧列強には、日本は大きな脅威と映っていたはずだ。当時はフィリピンも米国の植民地であり、「日本に東南アジアの植民地を奪われるのではないか」という危惧を共有していたため、英国、オランダの呼び掛けに応じて米国も対日経済制裁網、つまりABCD包囲網に参加した。

日本は当時、石油の輸入の過半を米国に頼っていて、中国大陸から手を引かなければ石油を輸出禁止にすると、米国から通告を受ける。有名な「ハル・ノート」だ。

当時の日本の支配層にとって、中国大陸からの全面撤退は経済的な自殺行為だった。かと言って米国からの石油を止められたら、どのみち国内経済は破綻する。
そこで米国に力ずくで経済制裁を撤回させ、次に石油、天然ゴムなどの資源が豊富な東南アジアを手中に収めようと、いちかばちかの賭けに出たのが太平洋戦争なのだ。

ここから教訓を学んだのは敗戦した日本だけではない。戦勝国側も、保護貿易主義の行きつく先が「追い詰められた新興国の暴発」の危険性である事を学習した。

その「戦勝国側の過ち」を繰り返さないように、戦後は「自由貿易」が至上命題になった。また経済先進国が寄ってたかって特定の国家を孤立させ、経済破綻の危機にまで追い込むと、第2第3のナチスドイツや大日本帝国が出現する危険が高まる。

この「強者の自制」は、冷戦時代には比較的有効に機能した。しかし、ソ連が崩壊し、社会主義陣営がほぼ消滅した現在では、再び大国のエゴが表に出やすくなっている。EU首脳が米国のトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」に嫌悪感を持っているのは、こういう歴史の教訓があるからだ。

もし日本が、太平洋戦争の時と全く同じようなパターンで戦争を始めるとしたら、他国の領域の実行支配、そして先進国連合から経済制裁を受けている、という前兆が既に起きているはずだ。

現時点でそんな前兆はない。「安倍が悪い」だけで再び戦争が起きるほど、世界は単純ではない。

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2019/08/12 17:17
安部総理だからマトモに機能している事も選択肢が狭まる要因かも知れません。民主党政権時代は領海侵犯の隠蔽やメルトダウンを引き起こすまで放置した危機管理の無さは国民には刻まれてるでしょう。もっとも、日本版アドルフ=ヒトラーは川崎市にいますが。




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