もう十年ほど前だが、我輩は仕事の関係で茨城県つくば市にちょいちょい行っていた時期がある。
原子物理学などの研究機関の人に会うためで、たまに実験施設を見せてもらった事もある。

だから、つくば市には個人的には愛着がある。
我輩の小説サイトの「縁隔操作」の舞台は、あえて明言していないが、つくば市である。

だから、そのつくば市役所がやらかしたバカは、他人事でなく腹が立つ。
つくば市が福島県から避難して来て転入しようとした人たちに、「放射能汚染検査」の証明書の提出を強要したという話である。

すぐに撤回したらしいし、市役所の職員は科学者ではないと言えばそれまでだ。
だが、つくば市が日本最大の「科学技術研究拠点都市」を標榜してきた以上、世界中に恥を晒した、と言わざるを得ない。
もしこの話が海外で報道されたら、日本人全体の知能程度を疑われる。

そもそも「放射能」という物質は存在しない。
「放射線」を出す元素を「放射性元素」と言い、それを含む物質を総称して「放射性物質」と呼ぶ。

放射線は主に４種類。
アルファ線、ベータ線、ガンマー線、中性子線である。

アルファ線は陽子２個と中性子２個が集まった粒子。
ベータ線は電子ビームである。スピードとエネルギーの高さは違うが、ブラウン管テレビの発光ビームと同じ物だ。
ガンマー線は電磁波の一種で、レントゲン撮影に使うX線と似たような物。
中性子線は単体の中性子が高速で飛んで来る物だ。

これらの放射線を放出する性質の事を「放射能」と言う。
だから人間の体が「放射能に汚染されている」という表現自体が、理論的にあり得ない馬鹿げた話なのだ。

原発の近くから着の身着のままでたどり着いた人の場合、衣服や肌の表面に「放射性物質」が付着している可能性はある。
だが、その放射性物質は肉眼では見えない微小な粒子であって、土ぼこりみたいな感じで付着しているに過ぎない。

人間一人に付着できる量などたかが知れている。
もちろん衣服を取り替えて、シャワーで念入りに体を洗ってもらう「除染」という処置は必要な場合がある。
しかし、これはあくまで避難してきた人本人の健康のためであり、他人に伝染させないためではない。

だから原発から遠く離れた地にたどり着くまでには、その放射性物質はあらかた取れているはずだし、万一のために「除染」を受けてもらう、という話なら分かる。

また仮に体内被曝しているとしても、周囲に放射線をまき散らす程の量の放射性物質が体内に存在する事などあり得ない。
そんな量の放射性物質が体内に入ったら、その人はその時点で即死している。
遠方の避難先にたどり着く事さえできないはずだ。

また体内被曝による放射線障害も、あくまで被曝者本人の内臓疾患として現れる危険があるに過ぎない。
例えば紫外線も、太陽の内部の核融合反応によって放出された放射線の一種である。

子供の頃真夏の太陽で真っ黒に日焼けしすぎて、皮がむけてきてヒリヒリした経験がないだろうか？
あれは紫外線によって皮膚表面の細胞が壊死した結果であり、広い意味での「放射線による火傷」の一種である。

強いガンマー線やベータ線に長時間さらされると、日焼けと同じような細胞の壊死が、比べ物に成らないほど重度に起きる。
これが皮膚のもっと奥や、筋肉、内蔵にまで達すると命に関わる。

福島県から避難して来た人に、そんな症状が起きているかどうかは見れば分かるはずだ。
それに日焼けは伝染するだろうか？
日焼けが伝染しないなら、もし仮に福島県から来た人にそういう「放射線火傷」の症状があったとしても、伝染などするはずはない。

内部被曝した人がいるとしても、除染した後その人にガイガーカウンターなどの放射線測定器をあてても、検知などされない。
そこで検知されるほど大量の放射性物質が体内にあったら、その人はとっくに死んでいないとおかしい。

息をするとその人の口から大量の放射性物質が飛散して、周りにいる人が被曝する？
そんな事は半世紀前のB級SF映画の中の話だ。

現在約三万人もの福島県人が日本全国に散らばって避難生活を送っているという。
当然あちこちで「福島県から来た？おい、放射能は大丈夫か？」という無知丸出しの反応をする地元民がいるだろう。

市役所などの行政は、そんな事を防止するのが一番大事な仕事だ。
その偏見に油を注ぐような事をやったのが、日本最大の科学技術研究の街だったとは、救いようがない。

つくば市を愛する者の一人としても残念この上ない。