福島第一原発周辺、飯舘村の辺りまでプルトニウムが飛散していた事が判明して、大騒ぎになっている。
確かにプルトニウムは原子番号、質量数ともに宇宙で最も重い元素の部類に入る重核子だが、原発の敷地の外に飛んでいなかったはずはない。

今回の事故の放射性物質で、放射性ヨウ素、セシウム、ストロンチウムばかりが騒がれるという意見もあったが、これは核分裂反応によって生成される物質の中で最も量が多いからだ。
核分裂反応で出来る放射性核種の種類は数十にもなる。

だから耳慣れない名前の放射性元素が検出されたと聞いても、それだけでパニックになる必要はない。
福島第一の３号機は最初からプルトニウムを混ぜたプルサーマル燃料を使っていたし、メルトダウンも水素爆発も起こしたのだから、多少のプルトニウムは検出されない方がおかしい。

プルトニウムがセシウムやストロンチウムより危険なのは確かだが、何故どう危険なのか、それを正しく知った上で怖がる事が大切だ。

放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマー線の３種類がある。
セシウムやストロンチウムが出すのはこのうちベータ線とガンマー線である。
なぜならこの２種類の元素は、原子核内の中性子が電子ビーム（これがベータ線と呼ばれる）を吐き出して、核内の陽子が一つ増え、原子番号が１個上がる、という変身の仕方をする。
これを「ベータ崩壊」と言う。

ガンマー線は透過力が強いので大量に浴びると細胞が傷ついて、DNAが損傷すると癌化する危険性がある。
ベータ線は電子ビームなので、アルミホイル一枚程度で遮断出来る。

これに対してプルトニウムは原子核の中から、陽子２個と中性子２個をセットで吐き出して原子番号が２個下がるという変身の仕方をする。
これを「アルファ崩壊」と呼ぶ。
アルファ線は、質量がないガンマー線、質量が極めて小さいベータ線に比べると、その質量がけた違いに大きいので、DNAを破壊する力もけた違いに強い。

ただしアルファ線は普通の紙切れ一枚で遮断出来る。
もう長袖を着る季節になっているから、外出時にはマスクなどもつけて皮膚の露出を避ければ、プルトニウムからのアルファ線の外部被曝は簡単に防げる。

問題はプルトニウムによる内部被曝である。
肺の奥や消化器官内に入り込むと、内側から細胞にアルファ線を浴びせるのでDNAの破壊や損傷が重度になる。
だから体内に入り込んでしまった場合、セシウムよりはるかに危険だと言われるわけだ。

同じくアルファ崩壊をする「ポロニウム」という元素がある。
２００６年、ロンドンに亡命していたアレクサンドル・リトビネンコという元ロシアの情報部員が暗殺された。
この時被害者の体内から質量数２１０のポロニウムが見つかった。

飲み物にポロニウムの粉末をこっそり入れられ、気づかずに飲んでしまったのではないかと推測された。
リトビネンコ氏は２２日後に手当の甲斐もなく多臓器不全で死亡した。
原因はアルファ線による大量内部被曝だ。

これがアルファ線源による内部被曝の怖さである。
が、プルトニウムはここまでの強烈な速効性はない。

一般に原子番号や質量数が近い元素なら、半減期が短いほど危険と言われる。
単位時間あたりに放出する放射線の量がそれだけ多いという事になるからだ。
ポロニウム２１０の半減期は１３８日。
福島で検出されたプルトニウムは質量数２３９の物だろうから、半減期は約２万４千年。
だからポロニウムに比べれば、例えば１年間とかに放出するアルファ線は少ない。

もちろん、だからと言って危険も少ないとは言えない。
福島県に飛散したプルトニウムの量が合計でどれだけだったのか不明なので、プルトニウムが検出された場所には近づかない方が無難だ。

だが同時に、プルトニウムが怖いのは大量に体内に入り込んでしまった場合の内部被曝であって、外部被曝は簡単に防げる。
原発事故の始まりからもう半年以上経っているのに、リトビネンコ氏のような死亡事例が報告されていない点から考えて、短期間に死者が続出する様な量ではないと推測出来る。

プルトニウムが検出された地点に近い所に住んでいる人は、これまで以上に各種放射性元素の内部被曝を警戒すればいい。
政府は一刻も早く、飛散したプルトニウムの総量を突き止めるべきである。
我輩が上に書いた「危険はこの程度のはず」という話は全て、「飛散したプルトニウムが少量である」事が大前提だからだ。