遥か昔の事
- カテゴリ：自作小説
- 2009/06/20 23:50:04
「昨日の合コンは失敗だった…敗因はカリスか？」
深刻そうに黒髪の青年がぼやく。
失敗どころか、待ち合わせだったはずのパブは既に廃業しており助けた女性は姿を消してしまった…決して深刻なことではなく、ボイコットされただけなのだが。
「そりゃあ…目の前で兵士をボッコボコにした相手に、どうして楽しくお話できるんだよ…」
不名誉にも敗因扱いされたカリスは呆れた調子で返事を返す。
結局、合コン未遂の後に自棄酒に付き合わされて今に至る。
太陽は中天に差し掛かり、タダでさえ暑い南の島は、その暑さを増していく。
「ちょっとな…手加減が出来なかったんだよ…何でか知らんが」
中天に差し掛かる太陽を恨めしそうに眺めながらぼやく。
普段なら、敵にもならない兵士相手に、何故か暴走したように手加減が出来なかった。
正確には、手加減したはずなのに手加減になっていなかった。
「珍しいね…何か拾い食いでもしたの？リルド」
カリスの心の中では決定事項になっている事を、あえて疑問系にして返してみる。その視線は、拾い食いが出来そうな野草に投げかけられている。
「…いや…拾い食いしてねぇし…決定事項にしてんなよ」
リルドと呼ばれた青年は、急ぎ訂正を求めるが相手は聞いていない…正確には、会話の内容が入っていなかった。
なぜなら、二人の目の前には雑魚とはいえモンスターと呼ばれる生き物が立ちふさがっていた。
「…最近、モンスター活性しすぎじゃねぇ？」
カリスは護身用に剣を持ち歩いていたが、兵士を素手で倒す事が出来るリルドは完全に丸腰である。
しかし、全く物怖じしていない…ここら辺のモンスターは二人の敵ではない。
それでも、数が多いと飽きてくる。
「君が飽きる前に片付けようか…」
ため息一つ漏らしながらカリスは剣を引き抜いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
騎士団領ディジェスタ
「何故だ…何故、こんな事に…」
北の大国ジャベルーンの襲撃に、ディジェスタは騎士を派兵して対応したが。
応援の騎士が来る前に、国境の町は滅び去っていた。
強固な城壁と訓練された騎士たち…国境の町と言う事もあり、騎士たちは名は無いにしろツワモノを揃えていたはずだった。
しかし、結果は襲撃から夜明けを見ることなく占拠されていた。
国境の町から程近い場所から、その状況を読み取った派兵の騎士たちは…ただただ呆然とするしかなかった。
「モンスターに襲撃された模様です…町の中にはモンスターも徘徊していると情報が」
「モンスターを操ったとでも言うのか？」
本来、本能でしか生きていないモンスターはむやみに人間を襲ってこない…ましてや、城壁もあるような町中には、今まで入ってきたことが無かったはずだ。
城門を開け放ったとしても、これだけの数のモンスターが町中に入ることなどありえなかった。
「何が…起きているんだ…」
国境の町を取られた今、ディジェスタ中央都市を守るためにも、この地点から一歩も引かない覚悟が必要だった。
しかし、それは困難であろう…城壁があってさえ一晩で落とされた。
城壁の無いこの地では、いかほどに持ちこたえる事が出来るか…あるいは、近くの城砦の地を拠点として敵を迎えるか…どちらにしろ決断を急がなければならない。
モンスターは夜行性が多い…夜が来る前に、拠点を決めなければならないのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「やっぱ雑魚じゃねぇ？ここら辺のモンスターなんかさ」
のどかな一本道は、血の惨劇に見舞われていた…剣できられた物よりも、拳で殴り倒された数の方が圧倒的に多かったが。
「雑魚なのは認めるけど…やりすぎじゃない？」
呆れたようにカリスが言ってのけるほどに、戦闘中のリルドは異常だった。
普段から力をもてあまし気味なのは知っていたが、最近のそれは鬼気迫る感じで…正直、幼馴染のカリスも恐怖を覚える事がある。
「ん～何でかねぇ…」
やけに背中を気にしながらリルドもぼやいて見せた。
「背中…どうかした？」
背中を気にするリルドに違和感を感じてカリスが尋ねる。
尋ねるついでに、気になっている部分を覗き込んでみると、薄っすらと痣が消えていく所だった。
「痣が…消えていったけど、君にそんな特技ってあったっけ？」
「痣ぁ？…そんなところに痣なんてあったか？案外照れ屋な痣なんだな」
痣に照れ屋も何もあったものではないが、既に痣は姿を消していた。
「痣が出ると凶暴化するのかい？リルドは…気をつけないと」
「まぁ、せいぜい気をつけてくれ」
ぼやきながらも、二人は町への道を急いで帰っていった。
