日中韓FTAの交渉、掛け声ばかりであまり進んでいない。
日本にとって中国は1位、韓国は3位の貿易相手なのだそうだが、韓国は日本とのFTAではデメリットの方が大きい事を懸念しているようだ。

中国は今や世界最大の工業製品市場だが、日本は1980年代から現地生産を行ってきているので、FTAで日本の輸出品がそれほど有利になるとは思えない。
輸入にしても、レアアースなどは関税以前に輸出制限で中国から入って来ないのだし、中国は自国通貨の外為取引を制限しているから、円元の為替レートを操作されたら、日本の儲けを簡単に減らせてしまえる。

日本にとって第2位の貿易相手であるアメリカとは、TPPという多国間自由貿易協定を野田政権は目指しているが、当の米国、オーストラリア、ニュージーランドからは交渉に入る事さえ認めてもらえていない。

二国間のFTAをやるのなら、ロシアに話を持ちかける方が日本の国益にとってはいいのではないか？
というのもプーチン氏が大統領の座に返り咲いた今がチャンスだという見方も出来るからだ。

プーチン氏はソ連時代の諜報機関、KGBの出身であり、前に大統領だった時代の強権的政治のイメージが強いので、日本ではあまり親しみを持たれてはいないだろう。
だが、プーチン氏は意外な事に大の日本文化ファンである。
自身も柔道の黒帯だし、娘にはわざわざ日本語を習わせたという。

プーチン氏の「長期独裁政権」を懸念する声もあるようだが、ロシアの状況は以前に大統領だった頃とはいろいろ変化している。
以前の大統領２期では、国民、少なくとも庶民のプーチン人気は非常に高かった。

その理由の一つは、ソ連崩壊後の初代ロシア大統領であったイェリツィンの経済失政でロシア経済は崩壊。
イェリツィン時代は政治的には西側的自由が大幅に認められたが、国民の大半は職もなく、年数百％のインフレで苦しみ、食うや食わずの状態だった。

プーチンが大統領になり、州知事を公選制から連邦政府の任命制に戻したり、政治的自由は大幅に後退した。
が、どこの国でもそうだが「共通の敵」が存在すると国民は団結しやすい。

プーチン氏がやり玉に挙げたのは、オリガルヒと呼ばれる七つの新興財閥だった。
これはソ連が崩壊し、新生ロシア政府が国有財産を株式の形で全国民に分配した後、株式なんて何の事か知りもしなかったロシアの一般市民から株式を買い集めて、かつての国有企業をわずか十年で自己所有の大財閥にした人たちである。

七つのオリガルヒのうちロシア人がトップだったのはたった一つ。
あとは全部、ロシア国籍だがユダヤ人がトップの財閥だった。
プーチンは自分に従わなかったユダヤ系財閥を、汚職、脱税などの容疑で次々に摘発。
そこはさすがに元KGBの情報部員、多少なりともすねに傷持つオリガルヒは刑務所に送られるか亡命するかして壊滅した。

その後プーチン氏はオリガルヒから奪い返した大企業群を国有化、折しもロシアの最大の輸出品である石油、天然ガスの値段が空前の高値だったため、ロシア経済は驚異の急成長。
ブラジル、インド、中国と並ぶ新興国、すなわちBRICｓの一つに数えられるまでになった。

これはロシアの庶民から見れば、国富をロシア民族の手に取り戻し、かつロシア人の暮らしを劇的に豊かにしたと見えた。
だからソ連時代を思わせる強権政治であっても、ロシアの庶民は「食わせてくれる」大統領に喝采を送った。

だがこれから最低６年の第３次プーチン大統領時代は、状況が一変している。
まず「打倒すべきロシア民族共通の敵」がいない。
米国をそれに据えると冷戦の再来になるし、中国を敵視すると経済が立ち行かなくなる。

しかしプーチン氏は本音では中国の経済進出が極東ロシアに過度に浸透する事を嫌がっているという説がある。
ロシアの経済発展は石油、天然ガスの輸出に頼っている面が依然大きく、中国に比べても近代工業の発達が遅れている。

ロシアが近代工業、ハイテク産業を育成するには先進国との経済協力が不可欠だが、イェリツィン時代の反省から欧米諸国は信用出来ない。
あの経済混乱は欧米主導のIMFの指導に従ったせいだとロシア人は思っているからだ。
中国はロシアから輸入した兵器をコピーして第三国に売った前科があるし、ロシアが中国経済に呑み込まれる危険がある。

そこで日本なのである。
北方領土の問題はあるが、ロシアにとって日本は警戒すべき潜在敵国とまでは言えない。
かつLNGのお得意さんになってくれる可能性が高い。

東日本大震災直後、首都圏の火力発電所にロシアのLNGタンカーがやって来たのをニュースで見た記憶はないだろうか。
あれは当時首相だったプーチン氏の指示だったと言う。

日本はLNGの安定供給は重大関心事。
中国も石油の輸入が増えるので、ロシアとケンカはしたくない。
そのロシアと経済面で密接な友好関係に日本があれば、日本にも変な野心は持てない。