Nicotto Town



遥か遠い話

「それで、予算をいただきたいのですがよろしいでしょうか」
北の大国…王城の玉座の間に繋がるはずの扉の前。なにやら楽しげな魔族の声が響く。
「…人間に魔物の種を埋め込む…か」
扉の奥から響いてくる声。魔王と呼ばれる者の声であることは間違いないようだが、なにやら抑揚無く疲れをにじませている。
「それで、できれば綺麗な人間の死体がいいのです」
種を作る予算と新鮮な死体…予算はともかく、人間を集めるのは下級のものが多く肉食のモノにいたっては、そのままディナーになってしまう事もある。
「そのためには中級以上の魔族を利用して人間を集めて…」
楽しそうに話し続ける楽しげな魔族。
「それよりも…覚醒したと聞いたが…」
疲れた声で魔王が尋ねてきた。
「そうですね☆田舎育ちらしい裏切り者は、どうも弱い魔物しか相手した事がなかったみたいです。これが、都会育ちならばもう少し追い詰める事も出来たんですがね」
果てしなく楽しそうな魔族。
「田舎のほうはどうしても魔員が裂けない。魔物の統制が取れていないのはしかたがないが」
田舎に行けば行くほど魔物は本能に従って生きている。敵は人間とわかっていても、目の前に狩りやすいモノが動いていれば空腹のままに食べてしまう。
その結果、人間をそれほど襲いたいとは思わない…敵らしい敵がいなければ魔物だって弱いらしい。
「魔員不足といいますか…最近の魔族は『別に人間と生活していても不自由ないし』とか言っちゃう若者が多いですからねぇ」
実は、人間の世界で生活している魔族は多い。
特に、人間と戦った記憶の無い最近の若いのに限っては能力の有無に係わらず人間と生活したがる傾向にある。
実際、魔族の町よりかは人間の町のほうが発展していて何かと便利であったり。
「魔員が不足している件に関しては他の者ととも相談している。とりあえずは予算は出すが無駄には使うなよ。特に、魔族が居る街では発芽する前に見つかって処分されかねないからな」
魔軍出陣…魔王の召喚にあたって、各魔族に伝令は行っているはずだが集まってきた魔族はその半分にも満たなかった。
『今更、魔王とかって、時代遅れだしぃ』
とか、言い放った魔族も居るらしい…その結果、そういった魔族は魔軍に対して妨害してくる可能性も否定でき無い。
「ありがたく使わせていただきます☆」
楽しげな魔族は、自分の要望が通った事で上機嫌でその場から去っていった。

◇◆◇◆◇◆

キャラバン隊は最初の街にたどり着いた。
「これからどうすんだ?」
キャラバン隊も、目玉以降の警戒はすっかりなくなってしまい普通に接している。
魔族疑惑のリルドにいたってはキャラバン隊の子供たちと遊んでいる始末であった。
「一応、町長には魔族を調べて来いとか言われていたんですが…痣のことも気になるので、それに船長の事も…」
船長は、目玉を生み出したが人間だったはず。
長年、定期船を運航していて家族も疑いようの無い人間だった。
「彼の家族にも連絡しておかないと…」
家族が居るのだから心配もしているだろう…死んだ状況の事実は伝える事は出来ないが、死んだ事実は伝えないといけない。
「どのあたりの出身かは判っているのか?そこまで行ってやってもいいが」
旅は、基本キャラバン隊と一緒に移動するのが常識である。
もちろん、目的地ごとにキャラバン隊を使い分けて移動する…しかし、二人は個人での行動を希望していた。
「嬉しいのですが、リルドの暴走がいつ起こるか判らないし…それに、これ以上迷惑かけるのも…」
リルドの痣は、いつ暴走を起こすか判りにくい。
何度か魔物に襲われてはいるが、暴走は目玉の時だけであった…しかし、訓練として剣を扱っている時に度々暴走を起こす事がある。
キャラバン隊の守人にけが人が多いのは、ほとんどが暴走に巻き込まれたためであった。
「まぁ、暴走されたらタダではすまんがな…二人で旅をするってぇのはかなり無謀だと思うぞ」
野営で見張りを交代にしたり、常に神経は張り詰めたりと疲れがなかなか取れない。
何より、二人きりだと飽きてくる事もあるはずだ。
「お気遣いありがとうございます」
それでも、かたくなにキャラバン隊を拒むのは、必ずしも全ての守人かリルドに対していい感情を持っているとは限らない。
特に、目玉の魔物に殺された家族のものは敵意さえむき出している。
ほとんど八つ当たり的な感情だったが、痣の暴走はその感情に反応するらしく、敵意のあるものほど強い力で反発する。
本末転倒である…敵意を更に強めるだけなのだ。
これ以上の敵意を向けさせないためには、キャラバン隊を離れるしかないと考えたのである。




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