STAP細胞疑惑の真の問題点
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- 2014/03/07 15:42:44
理研の小保方晴子さんが発表したSTAP細胞という新しい万能細胞に関する疑惑の声が上がっている。
どうやら実験結果を再現するための追試がことごとく失敗しているらしい。
中には論文そのものが捏造だったという声まで出ている。
我輩は科学者ではないので、論文の内容が正しいかどうかは判断できない。
また最先端科学の領域では、大真面目に研究してたどり着いた結論が、結局間違いだったとして後に否定されるなんて事は珍しくもない。
本当に問題にされるべき点は別にある。
こと先端科学の話題に関しては、日本のマスコミは「先走ってはしゃぎ過ぎる」という事だ。
そもそも小保方さんの研究成果がマスコミで大々的に報じられた時点では、「論文が世界的に権威のある科学誌に受理された」という段階でしかない。
この段階ではまだ「科学的に正しいと証明されたわけではない」、これが本来の捉え方である。
にも関わらず、あたかもSTAP細胞の理論が既に証明され、世界中の科学者が絶賛しているかのような思い込みに基づいて、小保方さんの研究室の内部のキャラクターグッズだの、割烹着だの、細々とした事を大はしゃぎで報道した。
だがいくらネイチャーに論文が受理されたと言っても、そこから理論が本当に正しいのかどうか検証が始まる、というステージなのだから、もっと抑制的に報道すべきだった。
論文がネイチャーに受理されたのは事実なのだから、「日本人が革命的な研究成果を世界的な科学誌に投稿し、受理された」という冷静な報道をし、後日世界的に正しいと証明されたところで、大はしゃぎすればいいはずだ。
自然科学に関して日本のマスコミが無知蒙昧ぶりをさらしたのはこれが初めてではない。
2011年に素粒子研究の国際機関であるCERN(セルン)が、ニュートリノが光速を越えるスピードで移動したと発表した時もそうだった。
これは正確には「ニュートリノが光速を越えたとしか解釈できないデータが出ているので、他の研究者に実験結果が正しいかどうか検証して欲しい」という要望をCERNが発表したというに過ぎなかった。
この段階で日本のマスコミはこぞって、ニュートリノが光速を越えて飛んだ事が証明済みの既成事実であるかのように騒ぎ立てた。
物体が光速を越えて移動するというと宇宙戦艦ヤマトのワープ航法を誰でも連想するから、とある新聞などは松本零士さんのコメントを掲載するという悪乗りぶり。
後日何のことはない、測定機器のセッティングミスだった事が判明し、光速を越えて飛ぶニュートリノなど存在しない事が正式に発表されて、とんだ幕切れだった。
1,2年前に米国で日本人研究者が、開発者である京都大学の山中伸弥教授のラボでさえ出来ないでいたiPS細胞の実用化に成功したと報じた時も同じ。
あの発表は金さえ払えば誰でも登壇できるレベルの発表の場で、権威ある科学者に自分の研究成果をアピールするためのイベントだった。
ならば発表が行われた後で、権威ある科学者がどう反応するか、それを見極めてから報道すればよかっただけの事。
それを発表の前に特ダネとして報じる事ばかりに目が行ったため、その内容がとんだ眉唾物である事がわずか数日後に露呈してしまい、日本のマスコミ各社は大恥をかいた。
この時も実はもう少し冷静になって考えれば誤報を防げた可能性はあった。
複数のマスコミが山中教授にコメントを求めたが、山中教授はコメントを自粛するという反応を見せている。
多分教授には「え? あれ?」という思いがあったのだろう。このサインをちゃんと読み取っていれば、もう少し冷静に検証できたはずだ。
小保方さんの論文にしても、これから世界中で検証される段階の研究成果を、あたかも証明済みの事実であるかのようにはしゃぎ立てるから、ちょっと問題点が浮上したら途端に「捏造疑惑」になってしまう。
仮に捏造だとしても、たかだか30前後のリケジョにまんまと騙されたという事になるから、マスコミが被害者面する資格はあるまい。
最近のこの手の報道を見ていると、野口英世の逸話を思い出す。
野口博士は一時、小児麻痺、狂犬病、黄熱病の病原体を発見したとして、世界的に有名になった。
だが、野口博士が病原体として発表した物は全て細菌だった。
小児麻痺、狂犬病、黄熱病の病原体はウイルスであり、細菌が見つかるはずはなかった。
当時は光学顕微鏡では見る事が出来ない未知の病原体は仮説でしかなく、ウイルスの実在が確認されたのは野口博士の没後である。
野口博士の研究成果は後日ことごとく否定され、現在では公式に認定されている野口博士の業績はただ一つ、「梅毒スピロヘータの純粋培養に成功」、これだけだ。
そもそも野口博士は学歴がなく独学で医師免許を取ったため、日本の科学界、医学界では相手にされず、米国に渡って成功した人物だ。
今で言う「頭脳流出」である。当然日本のマスコミは一顧だにしていなかった。
だが、野口博士が欧米で有名になると手のひら返して「日本の英雄」扱いしてほめそやし、その後の研究成果の否定からは目をそらし続けた。
野口博士は、その苦難に満ちた人生に着目すれば確かに「偉人」であろう。
しかし自然科学における「結果」という点では大した業績のない研究者でしかない。
これが自然科学と言う分野の非情な現実だ。
STAP細胞の話が今後どう展開するかは分からないが、日本のマスコミは研究者を持ち上げて大はしゃぎする前に、実に大正時代から全然進歩していない、自らの報道姿勢をこそ再検討すべきである。
>日本のマスコミは「先走ってはしゃぎ過ぎる」
これは本当にそうだと思います。目先の派手な部分にだけ飛びつくというか…。
個人的に「めでたい」系のニュースって、はしゃぎっぷりのテンションについていけなくて、見てて恥ずかしくなることが多いです。オリンピックの時もそうでしたけど、あれはまあオリンピック自体がお祭りなのでちょっとぐらいは仕方ないか~…、と思えなくはないですけど、ことに科学はお祭りにしちゃいけないものナンバー1だろう、と。
>小保方さんの研究室の内部のキャラクターグッズだの、割烹着だの、細々とした事
佐村河内氏のゴーストライター問題でも感じたことですが、日本のニュースは感情的というか情緒に流されやすいというか、ニュースの本質を理解してないですよね。
理系のことがわからないならわからないでいいから、事実だけを淡々と報じてくれ、といつも思います。
本当に理解しているなら、おっしゃるように軽々に大騒ぎしないし、記者として難しいことでも素人にわかるように噛み砕く文章を書けるでしょう。
こういった論文は常に出ているのだから優秀な理系人間をマスコミは雇用すべきなのでしょうけど・・・
優秀な研究者からしたら常に誰かの研究の解説をさせられて自分では何も研究できない職場なんて魅力に欠けますものねぇ・・・