石原都知事もトチ狂った事を言い出したものである。
マンガ・アニメの中に未成年に見える登場人物のエッチなシーンがある物を販売、製作禁止にすると言い出したらしい。

現在放映中のアニメで言えば「おまもりひまり」や「聖痕のクェーサー」なんか完全にアウトだ。入浴シーンがあるから「ひだまりスケッチ」だって危ない。

しかし人間年をとって権力を握るとこうも変わるものだろうか？
若い人は知らないかもしれないが、石原慎太郎という人はもとは小説家である。
そのデビュー作「太陽の季節」は、１９５５年に発表された時は「若者がけして読んではいけない悪書」というレッテルを当時の大人から張られた作品である。

今の感覚で読むとそれほどショッキングではないが、今から半世紀以上前の社会の大人の感覚では、無軌道な若者の婚前交渉（今で言うエッチをする）を描いたとんでもない「有害図書」扱いだったのだ。
セックスをもろに描いたシーンがあるわけでもないのにだ。

しかし、この作品、当時の若者には大絶賛され映画化までされている。
この映画の方も当時の「良識ある大人たち」からは散々たたかれて、当時の映画会社の中には若者を描いた映画のタイトルに「太陽」という言葉を入れるな、と命令が出たぐらいだ。

大体十代から二十代の若者が異性や性に興味を持つのは当たり前だ。
一部のアダルトアニメやポルノゲームの中には、歪んだセックスの知識、意識を植え込みかねない物があるのは事実だが、そういう物にはちゃんとR18の規制がかかっている。
R18指定が守られていないというなら、それは売る側、つまり大人の側の怠慢と無責任のはずだ。

新しい文化は常に、その時代の「良識ある大人」からは否定され、非難され、そんな物に接していると不良になっちゃうぞ、と言われてきたものである。

ビートルズだって初期の頃は不良の音楽というレッテルを貼られていた。学生にレコードを買ったりコンサートへ言ったりするのを禁止した学校も多かったのである。イギリスでの話で。今ビートルズの曲は日本の学校の音楽教科書に載っている。

だから、今回の石原知事の行動は、たとえて言えばポール・マッカートニーが最近のポップスは歌詞が下品だから放送禁止にしろ、CDも出させるな、と言い出したようなものだ。

どんな時代にも「常識」や「良識」を振りかざして若者を自分達の思い通りに行動させようとする大人がいて、それに反抗する若者の中から、次代を担うアーティストが生まれて来る。
文化の歴史というのはその繰り返しだと思う。

自民党をすっぱり辞めて、都知事になり国会議員や政府にかみついていた頃の石原さんは、若い頃の反骨精神を引きずっていて、でもそこがかっこよかったし、人気の源でもあった。

是非今一度、「太陽の季節」を書いていた頃の自分を思い出して欲しい。
問題作から戦後日本の傑作文学へと評価が一転した小説の著者が、若者文化に対する魔女狩りの提唱者になってしまったら、日本の文化史上、これほど悲しい事はない。