Nicotto Town



十代のためのカンボジア現代史(2)

十代のためのカンボジア現代史(1)の続きである。

ベトナム戦争は1975年に北ベトナムの勝利に終わり、アメリカはベトナムから軍を全面撤退。再統一されたベトナムは共産主義国家になった。
ロン・ノルは国外に逃亡していたが、ひそかにカンボジア国内の親米勢力を反政府ゲリラとして組織し操っていた。

さて恐怖政治を敷いたクメール・ルージュも共産主義者だから同じ共産主義国家であるベトナムと仲良くなった・・・と思ったら、真逆だった。
むしろ事あるごとにベトナムと対立していた。

そして1979年、なんとベトナム軍がカンボジアに侵攻。クメール・ルージュ政府を倒して、ベトナムに亡命していたヘン・サムリンというカンボジア人を首相にして新しいカンボジア政府を作った。

これ、共産主義の国の政府を同じ共産主義の隣国が武力で倒した、という訳の分からない話だ。
実はこれには共産主義陣営の内部での勢力争いがからんでいたのだ。

クメール・ルージュは中華人民共和国を後ろ盾にしていた。ベトナムは直接ソ連の支援を受けていた。
そして同じ共産主義陣営でも、ソ連と中国は実はすごく仲が悪かったのだ。ソ連が全ての共産主義国家のリーダーとして振る舞っていた事に対し、中国は反発していた。まあ、共産主義の国にはなったが、ソ連の子分になった覚えはねえよ!という感じだったのだろう。

だからベトナムのカンボジア侵攻は、ソ連と中国という共産主義陣営内部での内輪もめの代理戦争だったわけである。
ただ、クメール・ルージュ政権の政治があまりにもひどかったため、最初はカンボジア人もベトナム軍を歓迎した。

しかしロン・ノル政権が親分であるアメリカに頭が上がらなかったように、ヘン・サムリン政権も親分であるベトナムに頭が上がらない。
カンボジア人の間に「何だ!今の政府はベトナムの操り人形じゃないかよ!」という気分が広がっていった。

さらに悪い事に、ベトナム軍がカンボジアに駐留した後も、シアヌーク国王を支持するゲリラグループ、ロン・ノル政権の残党である親米ゲリラ、タイ国境近くに逃げ延びたクメール・ルージュの残党であるポル・ポト派というゲリラが残った。

つまり3つもの反政府ゲリラがタイとの国境近くの一帯を別々に占拠して、それぞれがヘン・サムリン政権を倒すべくゲリラ戦をしかける、という泥沼の内戦状態に陥ってしまった。
ヘン・サムリン政権はゲリラの勢力圏には手が出せず、カンボジアは事実上、4つもの政治勢力がバラバラに支配する分裂国家になってしまった。

それでもベトナムの支援があるうちはヘン・サムリン政権もそれなりにゲリラ掃討に成功し、3つの反政府ゲリラは手を組んでこれに対抗するようになった。
ところが1980年代末、ソ連の経済がガタガタになりアメリカと「冷戦の終結」という名目で手打ちをせざるを得ないほどに追い詰められた。

当然ソ連は他の国を支援する余裕はなくなり、東ヨーロッパ諸国が次々にソ連から離反。
ベトナムもソ連の支援がなくなりカンボジア政府を支援する余裕はなくなった。
そしてついにベトナムは1989年、全てのベトナム軍をカンボジアから撤退させた。

ヘン・サムリン政権はカンボジア全土を支配しているわけではなく、特に軍事力に関してはベトナム頼りだったから、さあ大変!
ゲリラ3派が元気を取り戻すのは目に見えている。ベトナムの支援を失って弱体化したヘン・サムリン政権とゲリラ3派の内戦が再び激化するのは目に見えている。

さらに危険なのはゲリラ3派が手を組んでいると言っても、考え方も目標もバラバラであることだ。

シアヌーク派はカンボジアを王政に戻し、政治的には中立だが一応資本主義の国を目指していた。

ロン・ノル派(後にリーダーが変わってソン・サン派と呼ばれるようになった)は親米の資本主義国家が目標。

ポル・ポト派は中国よりの共産主義国家再建が目標。

ヘン・サムリン政権がより弱体化すると、今度はゲリラ3派の間で血みどろの戦争になりかねない。そうなるといつまで経っても血で血を洗う内戦が続いてしまう。

これは東南アジア諸国全体にとっても非常に困るのである。
せっかく冷戦が終わり、東南アジア全体が政治的に安定し、タイを筆頭に経済発展が一番大事な目標になってきた頃である。

その東南アジアの真ん中に年中ドンパチをやっている国があるのは周りの国も困る。
特にゲリラ3派は国境を越えてタイの辺境地帯に基地を無断で置いていたから、タイにとっては迷惑この上ない。

さらにゲリラ3派の一部には資金のために麻薬の密輸に手を染める連中がいた。この麻薬は最終的にはアメリカや西ヨーロッパ諸国に流れ着く。
遠い先進国にとってもカンボジアの問題が他人事ではなくなってきたのである。

(以下パート3に続く)





Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.