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中国:もう一つの「一国二制度」

尖閣諸島の問題を受けて中国で反日デモが頻発、一部が暴徒化するなどしている。
当然、日本人は感情的にこれに強く反発する。
だが、この背景に中国本土内部における「もう一つの一国二制度」という問題がある事をなぜか日本のマスコミは報じようとしないようだ。

中国本土と香港、マカオの間の一国二制度は日本でも有名だろう。
返還されて中国の一部に戻った後も、人の往来が制限され半分外国みたいな状況にある。
ところが、中国本土の漢民族の中にも「もう一つの一国二制度」、あるいは身分制度とでも言いたくなる制度が存在するのだ。

「都市戸籍と農村戸籍」と言う。これは毛沢東時代の遺産である。
簡単に言うと、生まれた場所が北京の中央政府から「都市地域」と指定されている所の中国人なら都市戸籍、それが農村地域であれば農村戸籍の中国人、という話だ。

毛沢東時代の中国は人口の9割が農民であり、国家の経済も農業に依存していた。
だから国家財政の基盤である農民を農業生産に縛りつけておくために、こういう制度を作った。

当時は食糧を始め生活必需品が配給制で、自分の戸籍がある地域の外ではこれを支給されなかった。
だから農村戸籍の中国人が政府の許可なく都市に移住する事は事実上不可能だった。

農村戸籍の中国人が都市戸籍に移るためには、大学入学、大企業への就職、あるいは金で都市戸籍を買うといった方法しかなかった。
当然、そんな事が可能なのはほんの一握りだった。

鄧小平は毛沢東の路線を全否定して改革開放政策を進め中国を事実上資本主義化したが、この都市戸籍と農村戸籍という身分制度はそのまま残した。
なぜなら、その方が中国の工業化に都合がよかったからである。

今の日本でも企業が正社員を増やしたがらないのは、正社員を雇うと社会保険料を負担しなければならないからだ。
表向きは社会主義国家である中国の場合、企業のこの負担はもっと重い。

ところが、農村戸籍の中国人が都市に出稼ぎに来た場合、社会保障はほとんどないか、都市戸籍住民に比べて格段に低くしていい事になっている。
農村戸籍の出稼ぎ労働者が家族を呼んで一緒に暮らそうとしても、学童期の子供は公立の小中学校に入れてもらえない。

だから単純労働者を多く使う製造業では労働コストを極端に低くする事ができ、これが中国の輸出競争力の源泉になったわけだ。

我輩も九州から職を求めて東京に移住した「国内経済難民」みたいなものだが、日本の場合どこへ引っ越してどこに住もうと、住民登録はできるし就職すれば社会保険料の半分は雇用者が払ってくれる。

子供がいれば地元の小中学校に入学させるのは当然の権利であり自治体の義務でもある。
病院に行けば元からの東京人でないからと言って保険証が使えないなどという事はないし、失業したら東京で失業保険のお世話になれる。

ところが、中国の農村戸籍で都市に出稼ぎに来た労働者はこういう権利をほとんど与えられない。
だからひどい低賃金でも文句も言えずに働かねばならない。景気が悪くなれば簡単に解雇され、次の職が見つかる見込みがない場合は郷里に帰って農民に戻るか、そのままその都市でホームレスになるか、裏社会の住人になるか、そういう選択肢しかない。

ああいう暴力的な反日デモに参加している中国人の多くはこういう農村戸籍の出稼ぎ労働者なのである。
「結局困るのは中国人自身じゃないか?」という書き込みがネットで目立つが、実は尖閣諸島や反日なんてのは、彼らにとっては口実でしかない。

いや、商店への投石や放火をやった中国人デモ参加者が本当に憎いのは「同じ中国人なのに都市戸籍で生まれたという理由だけで自分たちよりいい思いをしている同胞」である可能性が高い。

日本は1960年代以降の経済成長期、時間差や地域差はあったがその恩恵を全国が薄く広く受けてきた。
2000年代に入り格差社会になったが、国中がそこそこ豊かになった後でそうなったので、例えば首都圏でなら収入格差は数倍である。

だが中国は日本の戦前の生活水準からスタートして都市戸籍の保有者は一気に先進国の水準へ、農村戸籍の国民は都市住民に奉仕する「二等国民」の状態に置かれてきた。所得格差は十数倍。

日本へ観光旅行に来たり、普通の時に日本のマスコミに登場する中国人というのは所得水準で言えばせいぜい上位10%から20%の人たちでしかない。
反日暴動に参加して暴れ回る中国人とは別世界の中国人なのだ。

上海や北京などの大都市では農村戸籍の出稼ぎ労働者にもある程度社会的権利を保障するようになってきている。
また都市の拡張で住民を強制的に立ち退かせる時、補償金の代わりに都市戸籍を与えるという例もある。

この都市と農村の身分制度、少しずつ崩れてはいるのだが、中国全体から見ればまだほんの一部だ。
この「一国二制度」をいつ中国が廃止できるか?
これが中国を語る際、忘れてはならない重要なポイントである。

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2010/10/21 11:39
デモに参加して「日本キライ」って言うことが流行ってるとか、理由聞くと尖閣諸島だけじゃなく南京大虐殺持ち出す人も。中国政府は国民の不満のはけ口として日本を利用してるみたいで困ったものです。

以前NHKで農村出身で頭の出来のいい女の子がNHK通しての援助で都市部の大学に行くって話をやってました。最後に村の皆に見送られて、期待を一身に背負って都会に旅立つの。
私は「無理かも」と思った。
やっぱり無理だった。数年後、後日談が放送された。
背も伸びて綺麗な女性になってたけど、都会で勉強についてけず挫折して戻ってきたとか、でも勉強だけじゃないだろう。都会生活の孤独とか都会の学生との格差を思い知ったはず。
幼馴染との結婚に一縷の望みを見出してるみたいだけど、みんなすごく貧乏そうだった。

「一国二制度」の崩壊か廃止どちらが早いのか難しい問題だし、中国の混乱は日本も無関係ではいられないですね。
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2010/10/20 02:23
なんとなくうっすらと聞いたことはありましたが深く考えたことはなかったですね。

日本で言えば江戸時代みたいなものですか。
後期の人返し令みたいな。
あれも農業依存の幕府体制の矛盾をとりあえず取り繕うような施策でしたが、黒船と共に吹っ飛んでしまいました。

中国にとっての黒船はあるのか。
あったとして、現在の「中華人民共和国」にプラスになるのか難しいところです。




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