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マルドゥック・スクランブルは質的飛躍になるか?

マルドゥック・スクランブルという劇場用アニメ映画がもうすぐ公開される。
この作品OVA化が計画されたが一度製作中止になっている、いわくつきの作品だ。
しかし、こういう作品が日本アニメの質的な飛躍を起こす可能性がある。

アニメ映画自体は戦前からあり、テレビアニメの歴史は1960年代から始まったが、長らくアニメはせいぜい小学生までの年代の「子供が見るもの」であった。
現在ではいい大人がアニメを見てもおかしくはないし、深夜アニメなどでは「大人でないと理解できない」複雑かつ高度なストーリーの作品も珍しくない。

が、大人の鑑賞に耐えうる内容のアニメが出てくるには、いくつかの画期的な作品がそのきっかけを作ってきた。
この辺の見方は人によりけりだろうが、我輩はアニメの質的転換が以下のような歴史を経て起きたという持論を持っている。(ただし、男性向けアニメに偏っているが)

最初の質的変換は1970年代半ば、宇宙戦艦ヤマトが再放送でブレークした時である。
同作は十代後半を最初からターゲットに製作された物で、それまでの怪獣、巨大ロボット、変身などの「お子ちゃま的要素」を徹底的に排除して、当時としてはシリアスでリアルなSFを目指した。
これでアニメの視聴層が中高生世代に拡大した。

次の転換は第一作の「機動戦士ガンダム」。これも再放送でブレークしたので、放送開始は1979年だが、話題になったのは1980年代初頭である。
ファースト・ガンダムはSFロボットアニメでありながら「正義 vs 悪」という従来のお約束を全面的に否定した。

エピソードの一つとしてそういうストーリーを織り込んだ作品はそれ以前にもあったが、ファースト・ガンダムは全編を通じての世界観として「戦争でどっちが正義か悪かなんて論じる事自体ナンセンス」というテーマをど真ん中に持ち込んだ。
これはアニメの歴史上、驚異的な事だった。

次の転換は同時期の「超時空要塞マクロス」。
これは主人公と主要登場人物との「恋愛関係」をこれまた全編を通じての主要テーマとしてど真ん中に据えるという、男性向けのアニメとしては前代未聞の試みだった。

それまでのSFアニメ作品にも、ヤマトにおける古代進と森雪、ガンダムのアムロとマチルダのように、恋愛感情を扱った物はある。
しかし恋愛はあくまで全体のストーリーの中の味付けであって、それをストーリーの中心に据えたのはマクロスが最初だろう。

次の飛躍は1995年の劇場用アニメ「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」。
これはそれまでアニメ作品ではタブー視されてきた「国家権力の意思の前では一個の人間の命や人生など使い捨ての道具に過ぎない」という世界観をもろに展開した。
「新世紀エヴァンゲリオン」もこれと同じ世界観の作品に分類できる。

GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊になるとストーリーが「大人こそ理解できる」どころか「大人でも一度見ただけでは理解できない」ほど複雑になっている。
さらに画期的だったのは、この作品のビデオが翌年アメリカでビルボード週間売上No.1になった事である。

これによって「大人でないと内容を理解できないアニメ」の存在が海外で認知され、それが日本製であった事が、それ以後の日本アニメの海外進出を可能にした。
そして1997年に日本で公開された後、数年かけて世界中で上映されたスタジオ・ジブリの「もののけ姫」が「実写映画に勝るとも劣らない芸術作品」として絶賛され、日本製アニメというブランドは完全に世界的な市民権を得た。

そして2005年に「地獄少女」シリーズが始まる。
この作品が破ったタブーは「人間社会の残酷で汚い現実」を正面から描写し、その犠牲者が「復讐する」という展開を毎回見せた事。

時代劇の「必殺シリーズ」などではおなじみのパターンだったが、これを青少年向けのはずのアニメでやったのは画期的であった。
この結果、非常に残酷な内容の、しかし世相を直視したシリアスなストーリーを持つアニメやライトノベルが世に出やすくなった。

今のアニメを見慣れた目にはどのパターンも珍しくはない、と映るだろうが、現代でそういう表現が可能になっているのは、こういう質的な転換なり飛躍を実現した過去の作品があっての事である。

マルドゥック・スクランブルは、未来社会を舞台にしたサイバーパンクSFだが、主人公が未成年の娼婦で、殺されかけた復讐のために裏社会のギャング組織と戦う、という設定である。

ひと昔前なら確実にR15、下手すればR18指定になった内容だ。
この作品が新しい質的な転換、飛躍を日本製アニメにもたらすのか?
ここが注目のしどころだと思う。

アバター
2010/10/28 20:40
マルドゥック・スクランブル、、原作まだ読んでないな。興味深々
アバター
2010/10/28 06:21
別にアニメ全般に詳しくはないですが、それでも名前くらいは知っている名作が並んでいますね。

そういえば「AKIRA」(だったかな?)も記憶違いでなければ、「もののけ姫」と近い時期の公開だったと思います。
あの時期はバブルがはじけて間がない頃で、社会にあった「宴の後」みたいな虚脱感や不安感みたいなのをアニメ監督も敏感に捉えていたんじゃなんかなと思います。




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