Nicotto Town



思い出の本:「モンゴルの残光」

だいぶ昔のSF小説だが、豊田有恒という作家の「モンゴルの残光」という作品である。

物語はいきなり未来世界から始まる。
その世界では、アジア系黄色人種が世界中を支配していて、ヨーロッパ系の白人は貧しい奴隷階級みたいな扱いを受けている。

その虐げられた白人の一人である主人公の青年、ふとした事から発明されたばかりのタイムマシンを乗り逃げし、中国の元の時代にやって来る。
彼がいた未来世界の歴史は、元朝が衰えることなく世界中にモンゴル帝国の領土を広げ、その結果中国系の黄色人種が他の人種民族を支配している、という物だったからだ。

主人公は未来人としての知識を武器にモンゴル帝国の重臣になり、歴史を変えるべく奔走する。
また、未来人が入りこんだ事で歴史そのものも微妙に変化し始め、本来ならそのまま世界中を征服したはずの元朝が、内部から傾き始める。

一旦未来へ戻った主人公は、世界がこう変わっているのを知る。
改変された未来世界では、白人が世界中の有色人種を支配下に置いて、奴隷か家畜のような扱いをしていた。

白人が奴隷同然、という歴史は確かに変わった。
だが、主人公は愕然とする。彼が望んだのは「白人が黄色人種と平等に暮らせる」世界であったからだ。

これでは虐げる側と虐げられる側が逆になっただけではないか?
自分がやった事の結果に打ちのめされた彼は再びタイムマシンで元朝の時代に戻るが、彼が以前到達した時代から約百年後にしか行けなくなっていた。

その頃には元朝はすっかり衰退し滅亡は目前。
主人公は滅びゆく元朝をなんとか救おうと自ら戦場で軍隊の指揮を取り奮戦するが、あえなく戦死し、モンゴル帝国と運命を共にする。

その後世界は、モンゴル帝国や元朝の末裔ではなく、白人によって征服され支配されるという歴史をたどる。
主人公は死後、改変された歴史の未来世界で「黄色人種優位を打倒した白人の英雄」として称賛されるが、それは決して彼が望んだ世界ではなかった。

こういうストーリーである。
話そのものも面白いが、我輩が一番影響を受けたのは「正義は相対的な物でしかない」という部分である。

白人にとって黄色人種に奴隷同然に支配される世界は悪夢である。
しかし、黄色人種が白人に奴隷同然に支配される世界なら、より良い世界なのか?
少なくとも主人公が望んだのは、そういう事ではなかった。

何が正義で何が悪か、なんて基準は180度ひっくり返る事がある。
そしてそれが逆になった世界で、人類みんなが幸せになれるか?

これは現代日本でも充分通用するテーマだと思う。
冷戦体制崩壊後、ニュー右翼と社会主義にこだわり続ける左翼が、未だに対立を続け、ネット上でもよくその手の炎上が起きている。

だが、右翼と左翼には一つ共通点がある。
どちらも自分の側が絶対の正義と信じて疑わず、部分的にでも異論を唱えた者は「敵」として徹底的に排撃しようとする。

昨今の「タイガーマスク運動」に賛成した側も、反対した側も、ネット上の論争ではそういう傾向を見せてはいなかっただろか?

右のファシズムは悪いが、左のファシズムは正しい・・・
社会主義の独裁は悪だが、資本主義の独裁は正しい・・・
そんな事はあるまい。
右翼だろうが左翼だろうが、それ以外の対立軸だろうが、「自分だけが正義」というファシズムなら、それは全て間違っている。

こういう物の見方、考え方を我輩の人生で最初に教えてくれた本、それが「モンゴルの残光」であった。

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2011/01/23 08:47
昔は「共産主義国が保有する原爆はいい原爆」なんて冗談みたいなことを口にする人がいたとか。
ちょっと前でも「民主主義の国が起す戦争はいい戦争」とばかりに賛成していた人がいるのですから笑い事ではなかったりします。
その泥沼の結果が今の世界的な閉塞感だとしたら、価値観の転換を図らない限り光明は見えてこないでしょうね。

いわゆる「タイガーマスク運動」は今でもあまり評価はしていないのですよ。
下調べをして直接持参した人と何も調べずに警察の前に放り出して帰った人を同列に並べるのも変ですし。
ああいったブームになると、これまで本当に匿名で地道に支援していた人が騒ぎに巻き込まれるのを敬遠してしまう可能性すらありますから。
これについては、騒動終息以降も慎み深い善意が継続されていることを祈るばかりです。

意見が違うのは当たり前なんだから、行き過ぎない範囲で互いに自分の主張を書いていけばいいと思いますが、反論と人格攻撃は明らかに違うだろうと思います。
ネットでは所詮相手の全てなんてわかるはずもないのだというくらいの自制は持ちたいものです。




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