Nicotto Town



英国の複雑な政体

日本でも英国のロイヤルウェディングの話題で持ちきりであるようだ。
日本の皇太子夫妻が出席する予定だったのだが、東日本大震災が起こってそれどころではなくなり、やむなく出席を辞退した。

最近世界的に暗いニュースばかりだったので、久々のおめでたく華やかなニュースには、被災地の人たちも心癒されているといいのだが。

さて、日本人は英国という国家の複雑な成り立ちを意外と知らない。
今回のロイヤルウェディングにも全く無関心な「英国人」もいるのである。

日本では英国、イギリスと呼ぶが、英語での正式な名称は「The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」と言う。
英語圏では最初の二文字を取って「U.K.」と略される事が多い。

最後の方は「北アイルランド」という意味だが、これは現在のアイルランド共和国の一部ではなく、英国の領土である。
実は英国は歴史上、王国同士の征服、合併を繰り返して現在の形態になった、非常に複雑な構成の国家である。

もともと英国の主要部であるグレート・ブリテン島には「ケルト人」という先住民族がいくつかの王国を作って住んでいた。
ここへヨーロッパ大陸から何度もゲルマン民族系の王国が侵入し、ケルト系民族を支配、同化していき、イングランド王国が成立した。

しかし、グレート・ブリテン島の北はスコットランド王国、西南部はウェールズ王国が存在していた。
イングランド王家は何度もこの二王国を征服しようと戦争を仕掛けたが、決着がついたのはやっと18世紀初頭。

スコットランドとウェールズは名ばかりの存続を認められ、イングランド王家の支配下に入り、現在の連合王国の形が整った。
アイルランド王国も長くイングランド王家の属国扱いだったが、20世紀初頭に独立。が、英国への編入を望むアイルランド人の一部が内戦を引き起こし、アイルランド島の北部だけが英国の領土に編入される事になった。

似たような経緯は日本で大和朝廷が成立する過程でも起きたが、なにせ異民族同士の抗争の歴史が長いヨーロッパのこと、その後も一筋縄ではいかなかった。

スコットランドは実際にはイングランド王国の植民地同然に搾取されていた時代があり、小規模な反乱や武力抗争はよく起きていたようだ。
「ロビン・フッド」は伝説上の人物だが、イングランド王家に抵抗した先住民族がそのモデルであるらしい。

スコットランドは意外と農業生産力は高く、余った小麦でビールを醸造し、また長期保存用にビールから蒸留酒を作っていた。
これに目を付けたイングランド王国の役人が酒に重税を課し、スコットランドの農民は山奥で蒸留酒の密造に走った。

この時、燃料として大量の薪を伐採すると役人に見つかるので、ピートと呼ばれる泥炭を使った。
また、少量ずつしか出荷できないので、木の樽に何年も保管しておいた。
この結果、無色透明の麦焼酎みたいな物だった蒸留酒に、苦み走った香りとコハクのような色がつき、かえって美味しい酒になっていた。
これがスコッチ・ウィスキーの誕生である。

北アイルランドは、グレート・ブリテン島から移住してきた支配者階級と、支配されるケルト系住民という二重構造の社会になってしまった。
今度は、ゲルマン系の住民を追い出して北アイルランドを、アイルランド共和国と統合しようというケルト系住民の運動が起き、これが段々過激化していった。

しまいにはゲルマン系の住民に対して、無差別爆弾テロなどを仕掛ける過激派組織が勢力を伸ばしていった。
これが有名な IRA (Irish Republican Army) である。

血みどろのテロとその報復攻撃や取り締まりが何十年も続いた。
2007年に北アイルランドに高度な自治権を与える条件で、ロンドンの中央政府とIRAはやっと和解したが、あくまで武力闘争にこだわるグループが分派を結成し、以前ほどの力はないとは言え、まだ完全に解決したとは言えない。

ウェールズ王国は比較的スムーズにイングランド王国に同化した。
旧ウェールズ王国の住民を懐柔するためか、英国王室の皇太子は代々「プリンス・オブ・ウェールズ」という称号を名乗る。

皇太子の息子や他の近縁の王族は英国各地の重要な地方の名前を冠した「公爵(Duke)」の称号を与えられる。
日本の皇族の「~の宮」みたいな物だ。
今回の花婿、ウィリアム王子の称号は「デューク・オブ・ケンブリッジ」である。

なお、明らかに英国人なのに、英語で「Are you English?」と訊いたら、強く「No!」と答えられて戸惑わされる事がある。
この連中はまず間違いなく「スコットランド人」である。

「English」は「イングランド王国の民」を意味するから、自分たちは English ではない、というのだ。
British あるいは Briton と言わないと、イエスと答えてくれない。

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2011/05/01 11:25
そうですね。
最近は暗いニュースばかりでしたもんね。
いろいろと勉強になります。
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2011/04/30 22:06
主人が、イギリスに5年ほど赴任したことがあります。
不知詠人さんのブログに書かれたことは、主人から聞いたことがあります。
サッカーかラグビーの試合でも、イギリスのチームの国家が2つ流れたり、
片方の歌は歌わない選手がいたり、とその映像も見たことがあります。
複雑な歴史の、こんがらがった結び目をほどくには、どれだけの時が必要なんだろうと思います。
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2011/04/30 20:25
いつもブログ読ませてもらっています^^
とても勉強になりました
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2011/04/30 18:58
先ほどはご来訪いただきまして、ありがとうございます。 とってもいろいろなことに造詣が
深いのですね@@ @@びっくりしました ↑の内容も初めてしりました>< (あほがばれ
ちゃいますね) 
アイルランドの悲しい歴史は大学の時にその文学をそそジョセフコンラッドの作品しか存じませんが、
授業の時に教えていただいた気が・・・はずかしならその程度の知識なのです><
そそイギリスならね^^ オスカーワイルドや、テスのトマスハーディとかくらいですが・・・
でも興味深い国ではありますね^^ たいして何にもしりませんが><
またこんなブログよませてくださいね^^
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2011/04/30 16:05
はじめまして。
勉強になりました。
なぜ、UKなのか、Britishなのか、
納得がいきました。
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2011/04/30 08:08
あの国の歴史にこだわり始めるとヨーロッパの歴史になるからなぁ。
元はと言えばイングランドはフランス国王の配下にいたわけだし、古くはローマ帝国なんてのも関係してくる。
どの国も一朝一夕では成り立っていないということですね。
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2011/04/30 04:12
レンガと公園、後は、ストーンヘッジとかミステリーサークルくらいしか
思い浮かばない国でしたが
色々あるんですね・・・。
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2011/04/29 23:39
IRAについて、勉強になりました。
テロが減って良かったです。
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2011/04/29 23:27
なぜか、ロイヤルウェディングを全て見ていた学生さんdsyjnです^^;
大司教の声が良かったですよ(

今回のロイヤルウェディングは、ダイアナ王妃の時とは違い
やはりおとなしいものでしたね~……
不景気が影響しているようですね。。。

英国は興味深い国だと思います(^^)
国家のあり方の違いというものを改めて思わせます
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2011/04/29 22:39
か、カテゴリ「恋愛」なんですね…(^ω^;)
タイトルから英国の財政問題かと思って開きましたが歴史のお話とは。
ところでウィリアム王子ってチャールズ皇太子と間違えますよね←




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