東京都が２０２０年夏季オリンピックの開催地にまた立候補するそうである。
「復興五輪」と銘打って「東日本大震災から復興した東北の姿を世界に発信する」ためだそうである。
そのために宮城県庁に協力を要請したそうだ。競技の一部を被災地で開催してもいいからだそうだ。

はっきり言って被災地をダシにしているとしか思えない。
「復興五輪」と名乗るのなら、なぜ仙台に招致しない？
東北の被災地に比べればかすり傷程度の被害しかなかった東京に招致して「復興五輪」もないものだ。
こんなミエミエの同情狙いに乗せられるほど、国際オリンピック委員会（IOC)も馬鹿ではないはずだ。

仙台は震災、津波の直接の被害が最も大きかった宮城県の県庁所在地にして、東北地方最大の都市である。
その仙台の海沿いが文字通り津波でまっ平らにされた。
だが、五輪を仙台に招致するなら、これはプラスに働く。

地方小都市を丸ごとひとつゼロから建設するほどの大工事になるから、震災前では絶対不可能だった大胆な都市計画が可能になる。
仙台の太平洋岸に巨大なスタジアム、選手村に使える宿泊施設、最新通信設備を備えたプレスセンターなどを、思うがままに大胆に設計して建てる事が可能だ。

そして仙台だけが復興すればいいというわけにはいかなくなる。
仙台市域から一歩出たら、未だにがれきが残ってました、廃墟が広がってました、では世界中の笑い物になるから、嫌でも周辺地域の再建、復興も真剣に取り組まざるを得ない。

そして競技の一部を福島県で開催する。
向こう十年ぐらいは、都市としての世界的知名度で言えば東京より「フクシマ」の方が圧倒的に上だ。

たとえばオリンピックの華、マラソンのスタート地点を福島県庁近く、ゴールを福島第一原発（あるいはその跡地）のまん前に置くのだ。
マラソンの距離は４２．１９５キロだから、ちょうどこの２地点間の距離ぐらいなのだ。

オリンピック史上、これ以上感動的な光景がかつてあっただろうか？この程度のドラマを演出できないようでは「夢の祭典」の招致は難しいだろう。
もし２０２０年になってもまだ「放射能の危険が……」などという状況なら、「復興五輪」などと口にする事自体がチャンチャラおかしい。

オリンピックを招致、開催するのはあくまで個々の都市であって、国ではない。
しかし実際には招致の立候補は各国の政府が全面的に支援する。実際に開催するとなったら、政府からも民間からも莫大な金が動く。

だが、「被災地」のうちに入るかどうかもあやしい東京に五輪を招致するために、そんな莫大な金を使う余裕が今の日本にあるのか？
そんな金があるなら一円でも多く被災地復興、支援に使うべきだろう。

もし仙台へ、部分的に福島へ、五輪を招致できたら、それは日本が「２０２０年までにはオリンピックを開けるほどに復興させます、原発事故も終息させます」と世界中に約束する事になる。

そうなれば何が何でも被災地全体を再建せねばならないし、原発事故も放射能汚染の心配をしなくていい程度には処理しなければならない。
被災地の苦労を他人事としか見ていない政治家、官僚も本気にならざるを得ない。

あと９年で、仙台をオリンピックが開けるまでに再建します、原発事故もマラソンが開催できる程度まで状況を改善します。
この程度の事ができない、できる自信がないと言うのなら、そもそもこの時期に日本にオリンピックを招致しようなどと、はなから考えるべきではない。