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ファスト・フードの変遷

ファスト・フードは英語で「fast food」。
だから「ファースト」と伸ばさない方が正しい。

ファスト・フードの定義は曖昧だが、おおむね次の三条件を満たしていれば現代ではそう呼べる。
(1) 外食として店舗で売る物で、来店してから受け取るまでの時間が五分以内ぐらい。
(2) 食器を使わず手づかみで食べられる事。
(3) 戸外で、場合によっては立ったまま食べる事が、社会的に許容されている。

おにぎりやサンドイッチは今ではコンビニで買えるので、この定義に当てはまるが、昔は家庭で作る携帯食であったから、ファスト・フードと呼べるようになったのは最近の事である。

面白いのはファスト・フードかどうかが、時代によって微妙に変化する点である。
サンドイッチはサンドイッチ伯爵という18世紀の英国の貴族がトランプをやりながら食べられるように作らせたのが起源とされているが、これは当時のヨーロッパの上流階級には「なんと下品な!」と呆れられる行為だった。

18世紀の欧州の上流階級では物はナイフとフォークで食べるのが常識であり、パン以外は手づかみで食べるなど考えられない行為だった。
もともとイギリスでは骨付き肉を手づかみで食べる習慣がずっと残っており、それで汚れた指先を洗うための水を入れた「フィンガー・ボウル」という金属容器を使う習慣が現在でも残っている。

だからパンと副食を一緒にして手づかみで食べるという行為は当時の他の欧州諸国の貴族からは「信じられない」という反応をされていた。
それが現在ではヨーロッパでも、世界の他の地域でも珍しい事ではなくなっている。
もっとも「マリア様がみてる」の小笠原祥子ちゃんは、今でもサンドイッチをナイフとフォークで食べるらしいが。

さてにぎり寿司も最初は日本のファスト・フードだった。
日本で「寿司」と言えば江戸時代以前は関西でよく見るなれ寿司、押し寿司、箱寿司の事を指した。
平安時代までは日本では貴族の家でも調味料と言えば塩と酢ぐらいしか無かった。

ただしここで言う「酢」は梅酢の事。生梅を塩漬けにした時出る、あの汁の事だった。
当時の料理の味付けは塩と梅酢だけで、このバランスをどう取るかが料理の腕の見せ所だった。
だから物事のバランスの事を現代でも「塩梅(あんばい)」がいいの悪いの、という言い回しが残っている。

また関西のなれ寿司などは本来は魚の保存法として考案された調理法であり、液体の酢が無いか高価だったので、米と一緒に漬けて発酵させ、米からにじみ出た酢で全体を長もちさせる物だった。
だから作るのに手間暇がかかり、ファスト・フードとしては売りにくかった。
また公家文化の影響が強かった関西では、手づかみ、立ち食いというスタイルは庶民にも浸透しなかったらしい。

やがて米酢が大量生産可能になり庶民でも気軽に使えるようになると、魚を酢に漬けて保存する方法が広まった。
やがて夏の暑さで食欲が無い時に、ご飯に酢を混ぜると食べやすくなる事が分かり、酢でしめた魚をおかずにする事もあった。

なら、最初からおにぎりみたいに酢飯を丸めて酢でしめた魚の切り身を乗せたらどうか?と考えた人が江戸時代後期に現れた。
短時間で手早く昼食を済ませたい江戸の肉体労働者には重宝だったようで、ここで江戸前の現在でいう「寿司」の原型が出来上がった。

だが、金のない庶民相手だから、最初の江戸前握り鮨は路上の屋台で売っていた。
もちろん立ち食いである。
ネタも生の物は食中毒が怖いので使えず、茹でた物や酢じめの物ばかりだった。

また屋台で液体の醤油や多数の小皿を使うのは面倒だったので、醤油を煮詰めてトロッとさせた「ツメ」を刷毛でネタの上から塗る、という方法が一般的だった。
今でも東京の老舗の寿司屋では、醤油容れも小皿も、客から言われないと出さない店があるのは、こういう歴史があるからだ。

やがて屋台ではなく屋内で鮨を食べさせる店が増え、生のネタも使えるようになり、現代の握り寿司の形が整った。
だから寿司は最初は庶民のための江戸のファスト・フードだったのだ。

我輩が一番好きなファスト・フードはフィッシュ・アンド・チップスである。
英国の労働者が昼食によく食べた物で、白身魚のフライと棒状に切ったジャガイモを同じように揚げた物(フレンチ・フライ)を、紙の袋に入れた渡してくれた。

英国文化圏でも庶民のファスト・フードとしてずっと人気があり、我輩は昔1年ほど住んでいたオーストラリアのシドニーでよく食べた。

飲み物はコーヒーだが、オーストラリアでコーヒーを頼むと「ブラック、オア、ホワイト?」と聞かれて面食らった。
ブラックは砂糖だけを入れたコーヒー、それにミルクを注ぐとホワイトコーヒーなのだ。

じゃあ日本で言うブラックコーヒーは何て言うの?
今ではどうか知らないが、当時のオーストラリアでは砂糖も何も入れないコーヒーなど「信じられない!」だったのである。

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2011/10/17 06:24
ファスト・フードの定義が、わかりました。
ありがとうございました。
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2011/10/16 14:05
こんにちは。
ファストフードの定義。Wikipediaでも難しいと書いていますが、不知詠人さんの三条件は納得です。
18世紀のフランスの貴族は、エスカルゴを食べるときはどうしたんでしょうね?まだメニューになかったのかな?
mコンシェルmさんが仰ってるコロッケは私も好きです。条件(3)に抵触しそうですが・・・^^
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2011/10/16 06:25
ブラックコーヒー注文するときは気をつけないといけないですね。
そんな定義が、あるんですね。
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2011/10/16 01:25
そう考えると、コロッケも好きかも知れない。
伊勢のおかげ横丁で、食べ歩きするの好きなんですけど(★´∀`★)ェヘッ
伊勢うどんは外せません。(´~`ヾ) ポリポリ・・・
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2011/10/15 23:59
 英語の授業で砂糖抜きのブラックは Black without sugar だと習ったけどね。アメリカ人もオーストラリア人もわりと甘目が好きなんだよな。だから、これも日本語英語かもしれん。

 オーストラリアでアイスコーヒーを頼むと必ずコーヒーフロート(アイスクリームが乗った奴)が来るのは、自分的にはヒットですた。ww  アイスクリーム&コーヒーの略なんだろうか??

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2011/10/15 22:15
オーストラリアのコーヒーのお話は「処変われば品変わる」みたいな話ですね。
アメリカのケーキがやたら甘かったという話も聞きますし、欧米人と日本人の味覚は少し違うのかも。
どっちがいいのかはわかりませんが。

寿司が江戸っ子のファスト・フードだったという話は聞いたことがあります。
お風呂好きの江戸っ子が銭湯帰りに2~3口。
ちょっとつまむのに程よい食べ物だったんでしょうね。

フィッシュ・アンド・チップス。
白身の鮮度と油がよければおいしそうではあります。




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