田中聡沖縄防衛局長の問題発言が轟々たる非難を浴びて、田中氏は更迭つまり左遷された。
だが、マスコミ各社の報道の仕方もかなりおかしいのではないだろうか？
何を「強姦、レイプ」に譬えたのか、その点を議論した形跡が新聞、テレビなどの既存マスコミに見られないのだ。

防衛省の聴取に対し、田中氏はこう発言したと言っている。
「やる前に『やる』とか、いつ頃『やる』とかということは言えない」
「いきなり『やる』というのは乱暴だし、丁寧にやっていく必要がある。乱暴にすれば、男女関係で言えば、犯罪になりますから」

氏はこの「やる」を、辺野古での米軍基地建設のための環境影響評価書を政府が沖縄県に年内に手渡す、と言う意味だったと言っている。
ただ、琉球新報を含むマスコミ９社の記者と「酒を飲みながらの非公式の懇談」での言葉だったため、正確に何と言ったかは本人も記憶が明確でないらしい。

田中氏の説明が本当なら、いろんな解釈が可能だ。
確かに強姦に譬えるのはいかがなものか？とは思うが、では何を強姦に譬えたのか？

一つは、「沖縄県の意見を無視してでも辺野古の基地建設を強行するつもりである」、その譬えであるという可能性。
要するに「沖縄側がごちゃごちゃ言うなら、女やっちまうのと同じようにやっちまえ」という事だ。
もしこれなら、確かに言語道断、沖縄に対する侮辱以外の何物でもないだろう。

だが、「沖縄県側を説得できていない状態で、環境影響評価書を付きつける事」を強姦に譬えた、という解釈も可能なのではないか？
沖縄側が環境影響評価書を受け取るという事は、事実上辺野古の基地建設を容認する事になるから、「無理やり受け取らせたら、まるで女性を強姦するようなもんだ」という譬えだったという可能性はないのか？

非公式懇談だったから録音やメモは取っていなかったのかもしれないが、９社もの記者が一堂に会していたのだから、全員の記憶を付き合わせれば大体どんな脈絡で、どんな言葉づかいだったか程度は再現できるはずだ。

二番目のような意味で、「やる」を「女とやる」にひっかけてダジャレを飛ばしたつもりだった可能性もある。
もちろん物の譬えとしても下品なのは確かだが、もしこっちなら「言った意味自体は間違ってはいないが、仮にも防衛省の沖縄担当の高官が使う言い回しではない」というだけの話ではないか？

もし記者の記憶を突き合わせた結果、明らかに「女とやる」「一発やる」という言葉を発していたのなら、田中氏は防衛省の聴取に明らかに嘘を答えた事になる。
ならば記者が再現したその時のセリフを紙面で公開して、これこそ徹底的に叩くべきではないのか？

だいたい琉球新報が第一報を報じた時は「やる」を「犯る」と漢字表記していたと記憶している。
「犯る前にやらせろと言いますか？」みたいな表現だったはずだ。
それがいつの間にか「犯る」から「犯す」に言葉が変化している。

琉球新報が一紙だけ先に問題発言として報じたので三大全国紙を含む各新聞、テレビ局があわてて翌日追随したのだが、他のメディアは全て「琉球新報によると」などと孫引きしている。
「やる」を「犯る」と解釈したのは琉球新報の自由だし、沖縄の地元紙だから基地問題に関しては他社より神経質な新聞だから、社としての責任でそう判断したのならそれはそれでいいだろう。

だが、自社の記者が出席していた他の新聞社が一気に「犯す」という表現に雪崩を打ったのは、果たして正しいのだろうか？
少なくとも辺野古の基地の建設、あるいはそのための環境影響評価書を渡す事を、「強姦同様に」強行する、という意味だったと判断したのなら、自社の記者が再現した会話を紙面に載せるべきだ。

琉球新報以外の社の今回の報道は、ネットの伝言ゲームそっくりに見えてしょうがない。
コピペで拡散するうちに細部が変わって行っていつの間にか内容が別物になってしまうのが、ネットでの口コミの危うさであり怖さなのに、伝統的なマスメディアが似たような事をやったら、「マスコミによる魔女狩り」になってしまう危険がある。

少なくとも、防衛省の聴取で田中氏が述べた会話の内容と、自社の記者がその場で聞いたセリフが合っているかどうか、それを紙面なり番組のテロップで対比して見せるぐらいは簡単に出来るはずだ。
その上で琉球新報の解釈が正しいのならもっと叩けばいいし、そうでないなら言葉の選択の不適切を責めるにとどめるべきだ。

最近新聞もテレビも野田首相が「ぶら下がり取材に応じないのはけしからん」というキャンペーンを紙面や番組の中で堂々とやっているが、今回のような報道の仕方をしていたら、首相でなくても嫌がるのは当たり前だ。
野田首相の「情報発信」が少ないのは、マスコミの方にこそ原因があるのではないか？