政治家にとって言動が「ブレない」というのは大切な事である。
その場の都合で主張がころころ二転三転する政治家は信用出来ないし、それが一国の総理大臣であればなおさらだ。

だが、何事にも限度というものがある。
その限度を越すと「ブレない」と「馬鹿のひとつ覚え」は紙一重だ。

今の国会の政治状況は簡単に言うとこういう事だ。
まず衆議院の小選挙区の一票の格差、つまり議員一人が当選するのに最低何票獲得しないといけないか、その数が選挙区によってあまりに差がつき過ぎている。
そこで最高裁判所が「憲法違反状態である」と警告し、確か２月下旬ぐらいまでに小選挙区の区割りの見直しをしなければならないと法律で定められている。

区割り見直しについては、実はほとんどの政党間で話はついている。
「ゼロ増５減｣と言って、人口が少ないわりには選出議員の数が多い５つの選挙区で議席を減らし、議席を増やす選挙区はない。
これをやれば一票の格差は最高裁が「せめてこれ以下に」と言っているレベルまで下げられる。

ところが野田首相が、選挙制度そのものの大幅な改正を同時にやると言い出して、ゼロ増５減が出来ないまま法律で決められた期限を過ぎてしまい、今に至っている。
なぜゼロ増５減だけでもやれないのか？
衆議院の比例代表の議席を３０とか８０とか同時に減らさないと、というのだ。

これに公明党などの中小政党が猛反対。
小選挙区は一人しか当選できないため、二大政党である自民党と民主党が候補を立てると他の中小政党は議席獲得は至難の業になる。
公明党などの中小政党は比例代表で獲得する議席が頼みの綱という所が多い。
その比例区の議席を大幅に減らされると議席が激減、小政党は消滅しかねない。

ではなぜ、比例区の議席を減らさねばならないのか？
消費税を上げようとしているのだから、国会議員の数も減らして「自ら身を切る」ところを見せないと国民が増税に納得してくれない、というのだ。

だが自民党は現在の消費増税法案には大反対。
では衆議院を解散して総選挙をやって国民の審判を仰いではどうか？

小選挙区の一票の格差是正が出来ていないから今総選挙をやったら、今度こそあからさまに「憲法違反の選挙」になってしまう。
じゃあ、さっさと是正したら？
いや、それには比例区も同時に減らさないと。でも公明党とかが反対するから、中小政党が納得できる新しい選挙制度に変えないと。

じゃあ、さっさと制度どう変えるか決めたら？
いや、それには基本的は３つの案があって、うちの党の中でも意見が割れてて。
じゃあ、どの選挙制度にするかを争点にして解散総選挙やったら？ゼロ増５減の方だけ先にやれば違憲状態は解消できるんでしょ？

いや、ゼロ増５減は比例区の議席減と同時でないと。
なんで？一票の格差は比例区には関係ないでしょ？
いや、国民に消費税増税をお願いする以上、そういうわけには。

じゃあ消費税法案さっさと出せば？
いや、自民党が反対してるし、党内にも反対派がいるし。ねじれ国会だから衆議院通っても参議院で否決されるし。
じゃあ、衆議院解散したら？
いや、今選挙やったら違憲状態の選挙になるし。
だから、ゼロ増５減だけ先にやれば？
いや、国民に増税をお願いしている時にそういうわけには……

こういう堂々巡りなのが今の国会の状況なわけである。
野田首相は就任以来一貫して消費税増税を主張して来て確かにその点ブレていない。
だが、ここまで来ると「馬鹿のひとつ覚え」と言いたくなる。
そもそも衆議院の解散権は総理大臣の最大最強の武器である。
それを自ら封じる馬鹿がどこにいる？

この際、野田首相は来年８月の任期満了まで何がなんでも居座ります、と宣言してしまってはどうか？
任期満了までに選挙制度の件が決着しなかったらゼロ増５減だけが自動的に発動されるような法案を通しておけばいい。

自民党もケンカの仕方を間違えている。
消費税率を１０％に上げるという点では自民党も全く同じ公約を掲げている。
だから岡田副総理がまたぞろ大連立を持ちかけたのは、「本音では法案通してもいいんだろ？つまり見返りが欲しいんだよね」とでも考えたからではないか？

だが、そうだとしたらとんだ大間違いである。
自民党、少なくとも石原幹事長に近いグループは「社会民主主義化政策は絶対許さん」と言って、民主党の消費税法案に反対しているのだからだ。

日本をスウェーデンのような社会民主主義の国にしようというのが民主党主流派。
基本的にはアメリカ型の国であるべき、しかしアメリカの自助自立は極端なので、「中福祉、中負担」「中ぐらいの政府」を目指そうというのが自民党。
自民党でも手ぬるい。もっとアメリカ型に寄るべきだと言っているのが、橋下・大阪市長。

だったら次の総選挙の争点は明確だ。
日本の未来は社会民主主義か？
マイルドなアメリカ型か？
もっとアメリカ型の国か？

居座るか、解散か、いいかげん決めてくれ！