Nicotto Town



「スパイ」の定義から始めるべき

在東京中国大使館の1等書記官がスパイ行為を行っていたとして騒ぎになった。
直接はめられたのは農林水産大臣と副大臣だったらしいが、この話、日本の政治家のあまりにもナイーブな所に我輩はむしろ驚く。

そもそも日本の政治家が今騒いでいる「スパイ行為」が、情報収集なのか、諜報活動なのか、その定義自体がはっきりしないからだ。
大使館などの在外公館が、その国の「情報収集」を行うのは世界的には常識なのであって、今回の中国大使館書記官の行動が「諜報活動」であったという確証は出ていない。

日本では「情報」を information と英訳するが、英語ではもう一つ「intelligence」(インテリジェンス)という単語を使う場合がある。
たとえばマスコミなどで報道されていたり図書館で誰でも閲覧できるような内容の「情報」が information にあたる。
一方、複数の情報を組み合わせて詳細に分析しないと知りようのない物を「intelligence」と表現する。

この組み合わせや分析が、政治家、高級官僚などと直接接触して聞きださないと不可能な物だと intelligence 活動という事になる。
だからアメリカの「中央情報局」の英語名は「Central Intelligence Agency」、略してCIAである。

しかしCIAの存在は堂々と公表されていて、秘密でも何でもない。
身分を偽って隠して、外国の高官などに接触する事はあるとしても、007ジェームズ・ボンドのような事をやっているわけではないからだ。
米国の場合、銃を振り回しての荒事は軍の特殊部隊がやる。
オサマ・ビン・ラーデンの襲撃、暗殺がそうだったように、居所を突き止めるための情報収集活動はCIAの情報部員が関わったとしても、直接手を下す武力行使は軍隊の仕事だ。

今回の中国外交官に対する直接の容疑は外交官に関する国際条約違反と外国人登録法違反である。
身分を偽って日本の外国人登録証を取得し、禁止されている商業活動をやったという事は事実らしいが、intelligence 活動のためにその程度の法令違反をするのは別に驚く事でもない。
確かに法律違反だが、日本人が同じような事をやっても刑務所行きになるような違法行為ではないだろう。

これに対して、必要とあれば不法侵入、脅迫、誘拐、殺人などの、どこの国でも犯罪になるような手段を意図的に使って機密情報を盗み出す行為は英語では「espionage」と言う。
昔アリスの歌の題名になった「エスピオナージュ」である。日本語では諜報活動と言った方がしっくりくるだろう。

007ジェームズ・ボンドがやるような行動はこのエスピオナージュであり、これをやった外交官は文句なく「スパイ」である。
しかし例の中国人外交官はそこまであからさまな犯罪行為をやった形跡はない。

農林水産省から漏えいしたとされる機密文書にしても、夜中に忍び込んで盗んで行ったとか、大臣を脅迫して奪い取ったというのならエスピオナージュにあたるが、副大臣の方から喜んで見せてやったというのなら、あこぎではあれ情報収集の範囲内であり、諜報活動とは言えない。

だいたい「情報部員」というものが「存在した」というだけで大騒ぎするのは日本人ぐらいのものである。
たとえば「アラビアのロレンス」という映画で有名なトーマス・エドワード・ロレンス中佐は実在したイギリス軍の情報部員である。
身分を隠してオスマン帝国統治下にあったアラビアに潜入、第一次世界大戦でアラブ人が帝国に反乱するよう政治工作を行った。

ロシアの大統領プーチン氏もソ連時代の情報機関KGBの情報部員であった。
そして別にその経歴を隠していない。
プーチン氏が元情報部員である事実が、彼が政治家になる上では問題にされた事はない。
非合法活動に従事したのでなければ情報部員が一国の大統領になれて、かつその事をことさら問題にはしない。
これが世界標準の受け止め方である。

日本だって現在は主要国の大使館には自衛隊員を常駐させている。
外国では「大使館付き武官」と呼ぶが、その任務は友好国なら相手の軍といざという時のパイプを作っておくこと。
関係が悪い国なら、その国の軍の動向を日頃から探っておく事。
これは情報収集活動だが、では日本人はこれを「スパイ行為」だと非難するのだろうか?

従って「スパイ防止法が必要」という時のスパイとは、エスピオナージュを行うタイプの「諜報部員」であって、外交官や軍から派遣された武官、さらには民間人を装って潜入するが、intelligence の方の情報部員を摘発するのは不可能だ。
せいぜい外為法違反などの別件で拘留出来るに過ぎず、捕まえても強制送還がせいぜいである。

だいたい更迭された農水大臣と副大臣にしても、中国への農産物輸出に特別扱いをしてやるから、という話に乗せられたのだが、これが中国の外交的陰謀だったとは思えない。
その1等書記官の個人的な不正蓄財にまんまと利用されたという話ではないのか?
機密流出と騒いでいるが、今の日本の農水省に他国のスパイに狙われるような御大層な「国家機密」があるとは思えないのだが。

とにかくインテリジェンスとエスピオナージュの区別もつかない政治家がスパイを取り締まる法律なんてのをあわてて作らない方がいい。
とんだザル法が出来上がるのがオチである。

アバター
2012/06/20 01:13
ざる法@@ すごい表現ですね 私の妹ね CIAかFBIになろうかって言ってて 馬鹿じゃないの??

って言いましたがまんざら本気なのです ココが二次元のお付き合いだから言えるのですがね・・・・
アバター
2012/06/19 20:05
ピントはずれかも知れませんが大臣更迭の材料にされたのかなと。
それから何でもかんでも機密文書にしているということは無いのでしょうか。
報道にも不知詠人さんのような冷静な分析・解説をして欲しいと思いますが無理でしょうね。




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.