Nicotto Town



金正恩と松倉勝家

金正恩の下での北朝鮮の動向が制御不能に陥っている。
ミサイル発射、核実験強行などは毎度の事として、朝鮮戦争の「休戦協定の破棄」など、戦争開始前夜というイメージを作り出そうと必死なようだ。

一番理解に苦しむのは開成(ケソン)工業団地を操業不能に追い込んだ事である。
韓国と北朝鮮の共同事業なのだが、あそこが閉鎖されて困るのは、失業する北朝鮮国民の方だからだ。
戦争プロパガンダをやりたいだけなら、米国と日本を敵役に仕立て上げれば済むはずだ。

北朝鮮のやっている事自体は相変わらず「子供が駄々をこねている」ような行動だが、しかし「誰に対して駄々をこねているのか?」が、今までとは違うのではないだろうか?

過去に北朝鮮が駄々をこねてきた相手は主に米国だった。
自国を米国と対等の相手として交渉に応じろ。そうしてくれなきゃ、ミサイル撃つぞ、核実験やるぞ、という調子だったわけだ。

だが今回の度を越した戦争ごっこは、ひょっとしたら中国に対して駄々をこねているのではないか、という気がする。
なぜなら習近平が最高責任者に就任して以来、中国は韓国からの関係改善あるいは深化要求に積極的に応えているからだ。

これまで中国が北朝鮮を支えてきたのは、一つには朝鮮半島が韓国によって統一され、親米国家と陸上で国境を接する事になるのを防ぐため、と言われてきた。
もう一つは北朝鮮を、いざという時の「鉄砲玉」として使うため、という説も有力だ。

中国指導部は米国との武力衝突を常に考えていると言われるが、大国である中国がいきなり動くと、中国自身にとってもリスクが大きい。
そこで北朝鮮を核武装した軍事国家として飼いならし、在日米軍に対する軍事的脅威は北朝鮮が作り出す、という構図が望ましかった。

だが、中国、韓国、双方の経済状況が変わって、中韓の経済関係の重要性が増してきている。
アベノミクス効果で円が米ドル、ユーロに対して円安になった結果、韓国の輸出品の価格競争力が相対的に落ちてきている。

中国も国内の政治体制への不満を逸らせるだけの経済成長率の確保が難しくなり、経済構造を転換すべき時期に来ている。
「安かろう、悪かろう」の大量生産でやっていける時代は終わり、中国も日本のように付加価値が高い製品の製造にシフトしないと、この先やっていけない。

ここで中韓の利害が一致し始めた。
韓国にとっては「反日感情」という、日本にとっての非関税障壁が高い中国市場は、より重要な輸出先になる。
中国にとっては日本の先端技術をかなり吸収し、欧米などへの耐久消費財の輸出実績がある韓国企業からの資本、技術流入が重要課題になる。

多分中国指導部にとって最も望ましい未来は、在韓米軍も基地もなくなって、親中国家になった韓国が、朝鮮半島を統一する事だろう。
そうなれば北朝鮮の体制が崩壊しても、米国の軍事同盟国と国境を接する事態にはならない。

このシナリオを韓国政府がある程度まで可能性ありと思っているのなら、最近日本との軍事情報包括的保護協定を蹴とばした事も説明できる。
あの日韓の協定は当然米国が強く望んだ物であり、北朝鮮の脅威から米国に守ってもらっている韓国が、本来なら蹴とばせる話ではない。

中国にしても、今の北朝鮮は「鉄砲玉としても使い物にならない」と見え始めているのかもしれない。
そこで「いざという時に中国のために軍事的に役に立つ」という事を強調しようとしているのが今の北朝鮮の強硬姿勢ではないだろうか?

もしそうだとすれば、金正恩と江戸時代初期の大名、松倉勝家が重なって見える。
松倉勝家は天草・島原の乱当時の島原藩主。
大規模な一揆を誘発した責任を取らされて、通説では大名でありながら、切腹ではなく、斬首刑という方法で幕府から処刑された。

島原の乱の最大の原因は松倉家が領民に課した、極端な重税。
その重税を何に使ったのかというと、軍備増強に注ぎ込んだらしい。

当時は徳川幕府の体制が安定し、大名の優先事項は領地の民政の安定化に移っていた。
現代でいうなら経済安定、生活安定の方が重要だった。
だが松倉家は代々戦場での功績で出世した家柄だったため、鉄砲、軍馬などを買い集めて自らの存在価値を幕府にアピールしていたようだ。

だが、幕府にとって、今さら天下をひっくり返すような戦乱が起きる可能性は低いのだから、松倉家の極端な軍備増強は全く評価されなかった。
松倉勝家は「まだ軍備が足りないのか?」と思い込んで、さらに軍備を増強。
それが餓死者を出すまでの重税として領民にのしかかり、悲惨な状況を招いた。

そこへキリシタン大名の敗残兵だった浪人が集まって、「飢えて死ぬか、戦って死ぬか」の二者択一に追い込まれた農民を煽動し、大規模な農民反乱に結び付いた。
結果は幕府軍、一揆軍双方に甚大な犠牲を出し、誰にとっても得になる事はなかった。

現在の北朝鮮の指導者たちの言動は、どうも松倉勝家に似ている気がしてしょうがない。
ミサイルであれ核実験であれ、日本と米国に対する恫喝的言動であれ、あれは中国に対するアピールではないだろうか?

「我が国は米国を直撃できるミサイルまで作りましたよ、核兵器の開発も順調ですよ。 いつでも日本と米国相手にドンパチ始められますよ。ねえ、北京の偉い人たち。ちゃんと役に立つんですよ」

北朝鮮は中国にこうアピールしているのではないだろうか?
だが2008年のリーマンショック以前の、経済絶好調の中国ならともかく、現在の中国は北朝鮮に本当にそんな役回りを求めているのだろうか?

もし松倉勝家と同じような状態に陥っているが故の「戦争前夜」の演出なのだとしたら、金正恩指導部の姿は、哀れという他はない。

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2013/04/15 06:12
ブログ広場よりお邪魔します。

とても興味深い読みで勉強になりました。
私も今までの「誰かに対しての要求」先が何か違っているように感じています。
少なくとも米国に対して何かをアピールしてはいませんでしたね。
どうも中国が匂って仕方ありません。
個人的に考えていたシナリオとしては、北朝鮮が強行挑発をつづけ他の国が応戦体制に入り一発触発になった時に中国が和解をさせて株をあげるというものを考えていました。
何はともあれ何らかの形で中国が裏で操作しているのもあるのでしょう。

見解が面白く最後まで興味深く読ませていただきました。
ありがとうございました。
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2013/04/14 22:48
韓国が中国にすり寄るのは歴史的経緯から見て寧ろ自然ともいえます。
李氏朝鮮は日清戦争の時まで中国の属国だったわけですからその意識が簡単に変わるとは思えない。

一方の北朝鮮ですが、代替わりしたことで正恩氏には「従来の中国追随路線を維持する」「ロシアとも関係を深める」「アメリカとも協調する」など複数の選択肢があったわけですが、今回の騒動で出口が見えにくくなっているようにも思われます。
休戦協定を破棄した上での軍事的緊張が続く限り韓国側からの支援は絶望的ですし、日米の支援も同様。
ロシアは距離ができて久しいし、中国は国連との整合性を取るためにも大々的支援はできない状態。
今彼はどのくらい外部の動きがわかっているんですかね。
未来永劫強気でいければそれも手ですが、ゆるめれば自らの破滅を招く可能性もあるのに。

ただ、中国が韓国に北朝鮮を統合させるかといえば疑問ではあります。
北朝鮮との国境には朝鮮族が多数居住している上に、中国は「本来朝鮮半島は中国領」というスタンスですから。
更に人権国家ではないので併合したところで北朝鮮の住民に特段気を使わなくてよいという怖い部分もあります。
(チベットやウイグルがよい例。)

中国が韓国に近付いているのは「遠交近攻」なんじゃないかなぁと。
北朝鮮を取れば次は韓国だと。
その先にいるのは日本なので全く他人事ではありません。
北朝鮮の動乱のどさくさに紛れて沖縄に手を出してくる可能性だってあります。
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2013/04/14 19:19
時事問題に歴史は説得力がありますね。わたしも何らかの演出なのだろうなとは思っていましたが、アピールしたいお相手が中国ですか・・・それには思い至らず、とても興味深く読ませていただきました^^
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2013/04/14 18:09
あのミサイルは、、張りぼてであるという、、、記事もありましたね、、

日本のマスコミが、、、騒ぎすぎる、、、という訳で、、、

軍国化への、、、国民洗脳ではないかとの見方も、、ありますね、、、




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