先日、東京都議会で女性議員に議場から飛んだ野次が問題になっている。
晩婚、非婚、少子化が深刻化している現状についての質問の最中に「（あなたが）結婚した方がいいんじゃないか」と野次った。
ネットの映像を見るとその女性議員、一瞬絶句している。

例によってネット上でも論争が起きているようだが、問題の本質を間違えている論調が多い気がする。
まず野次は必要なのか、という点だ。

国会を含む議会の場で野次を飛ばすと言う習慣そのものは戦前の帝国議会の頃からあった。
だが国会での野次は、５５年体制の下では与党自民党に採決では勝ち目がない野党議員が少しでも国民に対する与党の印象を悪くするために飛ばす物だった。

そのためには議論の本筋と関係のない、ピンとはずれの罵倒もありだった。
その最たる物が、１９９０年代、自衛隊をカンボジアでのＰＫＯに参加させるための法案が審議された際に、当時の日本社会党議員が飛ばした野次だ。

ＰＫＯは国連の正式な委託を受けて「内戦」という名の戦争の再発を防ぐために派遣される。
採決では勝ち目がないので社会党議員が発した野次が「戦争反対！」
この頃から社会党の人気が地に落ち始めたのは偶然ではないだろう。

今回の東京都議会での野次は、本人ははっきり言って受け狙いだったのだろうと思う。
人格攻撃という大げさな意図ではなく、おそらく議場の同僚議員の笑いを狙ったものだと感じる。
我輩はそういう野次は否定しない。しかし今回の問題の野次は笑えないジョークでしかない。

相手を揶揄して議場の笑いを取りたいなら、もっとウィットに富んだセリフを吐くべきだ。
たとえば件の女性議員が未婚である事を揶揄したかったのなら、「あんたがその制度の成功例第１号になれよ」とでも言えばよかった。

これならその女性議員も苦笑する、で済んだのではないか？
「はい、そのためにも対策策定にご協力を」とでも返せば、いい意味での笑いが議場に広がったのではないか？

国会であれ地方議会であれ、選挙で選ばれた「選良」の議論の場なのだから、野次にもそれなりの「品格」という物が求められる。
５５年体制下の万年野党の負け犬の遠吠えみたいな野次は、今の日本の政界にはもうそぐわない。

野次を飛ばして揶揄したいなら、言われた当人が思わず苦笑せざるを得ないような、気の利いた野次であるべきだ。
　

例えば国会で安倍晋三首相が、医薬品の認可のスピードアップの必要性を滔々と語ったとしよう。
「その遅れのせいで一回辞任したのは誰だ？」というような野次は下品であり、野暮である。

首相は前回の政権時、潰瘍性大腸炎という難病が一因で一年で辞任したとされている。
今回は新しい治療薬が認可されたので、健康状態を気にする事なく首相の激務に専念できているそうだ。

「よっ、経験者は言う事が違うね」と野次ったらどう聞こえるか？
そもそも外国に比べて極端に新薬の認可が遅いのは、自民党政権時代に導入した規制のせいである。
そこをこう野次られたら首相も苦笑せざるを得ず、議会としての品位がどうのこうのという話にはならないはずだ。

どこの党のどの議員が野次ったのかは知らないが、その議員は品性が低いのではない。
知能程度が低いのだ。

自民党は石破幹事長が音頭を取って若手議員の教育を進めているそうだが、自民党のみならず全ての政党で、その教育項目の中にぜひ「ウィットに富んだ知的レベルの高い野次の飛ばし方」というのを入れてもらいたい。