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日本型ファシズムとナチス型ファシズム

先日シリア難民少女を金目当ての不法移民と決めつけたイラストが日本語SNSに投稿され、ネットで大炎上した。
国内の英字新聞が騒動を報道したため、欧州の海外メディアにまで取り上げられてしまったが、この騒動自体はしょせん一過性の物だと思うので、我輩はさほど気にはしていない。

だが、あの騒動が炙り出した現在の日本社会の世相については強烈な危機感を覚える。
今の日本ではヘイトスピーチなどのヘイト大好き人間が増えていて、この状況はナチス台頭時のワイマール共和国体制下のドイツの世相に極めてよく似ているからだ。

日本の戦前戦中のファシズムとナチスドイツのファシズムは、戦勝国が同一視したため、日本人でも同じ物と思っている人が多いと思う。
だが、日本の戦時ファシズムとナチスのファシズムはその発生過程が大きく異なる。
これは日本社会全体がナチス型ファシズムには歴史的に免疫がない事を意味する。

近年のヘイト大好き日本人の増加は、ナチス型ファシズム台頭のプロローグになる危険性があり、だから件の難民ヘイトイラストも、一漫画家の愚行というだけでは片づけられない深刻な社会状況の象徴だと思える。

日本の戦時ファシズムは、中国大陸への軍事干渉と満州国の建国を機に本格化したが、その温床となったのは、日本人側の優越感、優越意識である。
対してナチスの台頭は、当時のドイツ国民の「敗者、貧者のルサンチマン」を温床として形成されたファシズムである。
この点に置いて、大日本帝国のファシズムとナチスのファシズムは性格が大きく異なる。

「敗者、貧者のルサンチマン」とは簡単に言えばこういう感情である。
「くそ!俺がこんなに惨めな生活送ってるのに、あいつらばかりいい生活、いい思いしやがって。ああ、ちきしょう、なんかムカつく!」
これが他者に対する攻撃性として現れるとヘイトスピーチやヘイトクライムに発展する。

このルサンチマンを爆発させる傾向があるのは、こういう人たちである。
(1)自分を社会の負け組だと思っていて深刻な劣等感を抱いている。
(2)その時の社会において相対的に貧困層である。
(3)無知無教養であり知的向上心がない。

この3条件を全て満たす人は、古今東西ルサンチマンに捕らわれやすくなる。
ルサンチマンを抱え込んだ状態が何年も続くと、それは非常に苦しいので、鬱憤のはけ口を求める。
その鬱憤が特定の国家や民族、その他「自分とは異質の存在」にぶつけられるとヘイト的言動になる。

ナチス台頭時のドイツは第一次世界大戦の敗戦で国土は荒廃し、戦勝国から課された天文学的な賠償金とハイパーインフレによる経済崩壊で、国民の大半が貧窮していた。
貧すれば鈍するで、文化教養に割くお金がない人も多かっただろうから、上記3条件を全て満たした貧困層が多かっただろう。

その貧困層のルサンチマンを巧みに煽る事によって政治的台頭を果たしたのがナチスであり、その鬱憤晴らしの矛先を向ける相手として「国内の異質な集団」が必用だった。
その矛先としてユダヤ人が選ばれたわけである。なぜなら欧州全般の傾向としてユダヤ人には高学歴富裕層、中間所得層が多かったからだ。

ユダヤ人は流浪の歴史の長い民族であり、中世の時代から各国でたびたび迫害を受けてきたため、自らの教育、ビジネススキルしか頼れる物がなかった。
それが高学歴、高所得者が多かった理由であり、貧者のルサンチマンの攻撃対象にされるのは言いがかり以外の何物でもなかっただろう。
しかし貧すれば鈍するの状態に陥っていた当時のドイツ庶民にとって「君たちが悲惨な生活を強いられているのは全てユダヤ人のせいだ」というナチスのプロパガンダは、単純で分かりやすいが故に広く受け入れられてしまった。

一方日本の戦時ファシズムの形成過程は、周辺諸国、近隣他民族に対する日本人側の優越意識によって勢いを得た。
日本が朝鮮半島を併合したのも、中国大陸を侵略したのも、朝鮮人や中国人が自分たちよりいい暮らしをしていると思ったからではない。
周辺の遅れた無知蒙昧な民族を日本人が導いてやらねばならない、という歪んだ優越意識による物だったはずだ。

韓国併合以降、大日本帝国は朝鮮人という異民族を抱え込むことになったが、日本人のルサンチマンの受け皿としては朝鮮人は役者不足だった。
当時の朝鮮人は概して日本人より貧しい人が圧倒的に多く、差別はあっても一時的なうっぷん晴らしの対象にしかなり得なかった。

日本は第一次世界大戦まで連戦連勝の戦勝国であり、日中戦争における大陸戦線でも全体として見れば終戦の瞬間まで日本軍が優勢だった。
だから当時の日本人には「敗者のルサンチマン」は希薄だった。

もちろん当時の日本は昭和恐慌、世界恐慌によって貧困層が急増していたが、その「貧者のルサンチマン」の矛先が向いていたのはあくまで「欧米列強」だった。
この貧者のルサンチマンは、米国、英国、オランダに対する宣戦布告で太平洋戦争が始まると爆発したが、前線の軍人でない限り接触する事のない相手だった。
また貧者のルサンチマンの爆発は、既に中華民国との全面戦争が常態化した後で起きたので、既に存在する戦時ファシズムを強化しただけだった。

一口にファシズムと言っても、日本の戦時ファシズムとナチスのファシズムは形成過程が大きく違っており、従って戦後の再発防止策も日独では異なる。
ドイツがファシズム再発防止のために重きを置いたのはヘイト的言動の抑制と徹底した地方分権化であった。
日本では「変な優越感を持つな」「弱者に寛容であれ」という道徳教育がファシズム再発防止の要であった。

日本は歪んだ優越感に基づくファシズム傾向には、様々な予防法を編み出していて、現代でもある程度の免疫がある。
しかし、敗者、貧者のルサンチマンのエスカレートから生じるファシズムの経験が乏しいので、ナチス型ファシズムには免疫がない。

在日韓国人・朝鮮人に対するヘイトスピーチが大規模に組織化され始めた時期と、日本の経済が低迷し貧困層が増え始めた時期とは、なんとなく一致しているように思える。
ナチス台頭時にユダヤ人弾圧を当時のドイツ庶民が熱狂的に支持した世相と、酷似していると感じる。

OECDが発表する各国の相対的貧困層の数字も、日本は長らく16%を超えている。
日本国民の6人に1人が貧困という計算になる。
貧困とまではいかないが、低所得で日々の暮らしに悪戦苦闘という層も含めると、半数ぐらいが生活が苦しいと感じているかもしれない。

さらに悪い事に、親の所得水準で受けられる教育レベルが決まってしまうという、格差社会も深刻化する一方。
就職も人生で一回こっきりのチャンスしかないという悪弊が無くなる気配もなく、「自分は負け組」と感じ、自助努力で浮かび上がるのは不可能とあきらめている若者も増えているのではないだろうか。

その敗者、貧者のルサンチマンの解消法方法として、在日や中国に対するヘイト的言動が横行し、新しく仲間入りする日本人が増えているのなら、由々しき事態である。

今の日本は曲がりなりにも議会制民主主義だから、そういうヘイト大好き国民が選挙結果に影響を及ぼす程度にまで増えると、政治にナチス型ファシズムが入り込む危険がある。

その悪夢を防ぐためにも、経済格差解消は喫緊の課題である。

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2015/10/10 00:02
まったく、、日本は、、どこへ、、向かっているのでしょうか?

脱原発派だった議員が、、閣僚入りしかも、、公安で、、騙された感が、、、





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