沖縄県の普天間飛行場移設問題がますます迷走している。
岡田外相が嘉手納基地への統合案を蒸し返してアメリカを苛立たせたところへ、今度は大阪の橋本知事が関西国際空港への移転を「個人的意見」といいながらも首つっこんできた。

そもそも民主党に限らず、今の政治家というのは「軍事的常識」というのに疎すぎるのではないだろうか？
関空への移転にしても、米軍にあらかじめ打診してあるのだろうか？それをやっていないとしたらアメリカ側が飲むはずはなく、全く日本国内の都合だけで議論している事になる。

アメリカに日本国外への移転を承諾させられる見込みがあるのなら別だが、軍事的常識を無視した案は米軍を怒らせて問題解決を遅らせるだけだ。

まず普天間は海兵隊の基地である。
一口に米軍と言っても、陸軍、海軍、空軍、海兵隊では組織機構も役割も全く違う。
嘉手納は空軍基地なのだから海兵隊という異質な部隊を同居させると、いろいろ厄介な事が米軍内部で生じてくる。
以前米軍が嘉手納基地への統合案をかたくなに拒んだのはそのためだろう。

また、世界地図で沖縄本島を中心に置いて周りを見てみて欲しい。
本土の日本人にとっては沖縄は南の果ての地だが、米軍の視点から見ると沖縄は、軍用機なら東南アジアまでひとっ飛びの距離に位置する戦略的要衝の地なのである。

だから太平洋戦争後、日本本土が独立した後も２０年以上にわたって直接統治下に置いてきたのだろう。
ベトナム戦争の時に沖縄の米軍基地がどれほどアメリカにとって便利だったか、これは今更説明するまでもないだろう。

さて現在アメリカがアジアで一番警戒しているのは中国の軍事的覇権の拡大である。
中国は過去にもベトナム、フィリピンと島の領有権を巡って軍事衝突を起こしている。
現在でも、中国はベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ相手に南沙諸島の領有権を争っている。

また過去に台湾で独立の機運が盛り上がると中国が軍事的威圧行為におよび、アメリカが第７艦隊を台湾海峡に急派する、という事が何度も起きている。

沖縄から台湾海峡までの直線距離は、沖縄から鹿児島あたりまでとほぼ同じ。
沖縄から南沙諸島までの直線距離は、沖縄から東京までよりちょっと長いぐらい。
中国がらみの軍事的緊張が将来起こりそうな地域に戦闘機や爆撃機をいち早く派遣するのに、沖縄に勝る立地はない。

また海兵隊というのは、真っ先に敵地の海岸に上陸して後から来る部隊のための拠点を築いておくのが役目である。
海兵隊を空輸する飛行機やヘリコプターの基地は近くにあるに越したことはない。

しかし軍事的緊急事態が生じた時、関空から飛行機が出発して沖縄でピックアップして、それから改めて東南アジアのどこかへ向かう・・・そんな悠長なオペレーションは、おそらく米軍にとっては「はぁっ？」なのではあるまいか？

沖縄県民の負担軽減はもちろん大事だが、そういう軍事的常識を無視した案を米軍は呑まないだろうから、結局普天間がいつまでも使われ続ける事になりかねない。

普天間は嘉手納や他の米軍の航空基地と違って、市街地との間に十分な空き地がない。
まさに住宅街のど真ん中に金網一枚で隔てられた滑走路があり、そこに武器弾薬を積んだ航空機が四六時中離発着している。

そういう意味では在日米軍施設の中で一番危険な基地が普天間なのである。
その移設が急務なのは当たり前で、だから自公政権も必死でアメリカと交渉したし、米軍の方も海兵隊の一部をグァムに移転するなど、それなりの譲歩をしてきた。

米軍が「じゃあ、関空でいいよ」と言ってくれる見込みがあるのなら別だが、軍事的常識を無視した思いつきの提案は事態を悪化させるだけだ。

民主党としては長年反対してきたという経緯もあるだろうが、一度は決まった名護市への移転をひっくり返してまで党のメンツにこだわる必要があるのか？「もう、前政権が決めてしまっていた事だし、アメリカと言う相手がいる話なので仕方ないな」で割り切れないものだろうか？

少なくとも名護市移転をやめるのなら、普天間基地を確実に撤去して、なおかつ米軍をも納得させる代案を用意する責任が鳩山政権にはある。
地元沖縄の世論はもちろん大事だが、日本側の都合だけで議論しているといつまで経っても解決出来なくなる。それが一番困る事だと思うのだが。