仮面舞踏会 （中編）
- カテゴリ：日記
- 2022/03/25 20:31:43
文雄は、壁にかかった時計の秒針を眺めつづけていた。アレクサに時間を尋ねるようになり、掛け時計を見る機会は少なくなっていたが、時間の断面を切り取ったアレクサの返事と違い、秒針の動きを見つめていると時間が流れていることを感じた。時計の針は6時を指していた。少し早いが、文雄は錦糸町に向かおうとソファーから立ち上がった。
「アレクサ、女性との会話のポイントは？」
「女性は、共感を求めます。男性は、論理的に考える時間が必要なために、会話の間の沈黙は平均30秒です。女性は、平均8秒です。速攻で、うんうんと適当に相槌を打つことをお勧めします。共感は、本人の得にならない利他的な行動を伴います。焼肉代は、おごることをお勧めします。」
「アレクサ、女性は、何歳年上の男性まで付き合っていいと思っている？」
「青学の調査では、恋人は2歳年上が最も多くなっています。ゼクシーの調査では、結婚対象は5歳年上が限界です。15才年下のみぽりんは、焼肉をおごってもらおうと思っているだけでしょう。」
アレクサに聞くまでもなかったと、文雄はため息をついたが、経営者に必須の才能は、ポジティブシンキングだ。ひょっとしたら、みぽりんが綾瀬はるかにそっくりかもしれない。しかし、綾瀬はるかが、韓国の男性と極秘デートをしていたのは、広尾のプライベート焼き肉店「牛の蔵」で、錦糸町とはイメージが合わない。
それに、戦車ゲームに夢中になっている女性がイメージできない。みぽりんが、焼き肉屋に迷彩服姿で現れたらどうしよう。文雄は、チノパンとブレザーの無難なコーデから、デニムとボンバージャケットに着替えた方がいいかと思ったが、家を出なければいけない時間になっていた。
お茶の水で総武線に乗り換え、錦糸町で降りた。再開発が進む北口と違って、昭和の香りが残る南口の商店街にある焼き肉屋「二小田」に入る。店員に小上がりになっている個室に案内される。待ち合わせ時間まで15分あった。文雄は、喫煙ブースに行き、たばこに火をつけると、共感、共感とつぶやきながら、気分を落ち着けた。
テーブルに戻り、メニューを眺めた。焼き肉会席コースが10000円、シャトーブリアン付きだと12000円。初対面の迷彩服の女性だ。普通の焼き肉会席コースにすることにした。この店を選んだのは炭火焼きだからだった。
炭火からは遠赤外線が出る。波長の長い電子レンジのマイクロ波は、食べ物の中から温めるが、遠赤外線は、表面から温める。こんがり、からっと焼き上がり、きれいな焦げ目がつく。魚焼き網を使っても遠赤外線は出るが、炭火だとピリジンやピロールの焙焼香の美味しい香りがして、ヘキサナールのような生臭い匂いの成分が少なくなる。さんまを七輪で焼くと、とても美味しい。
店員が、ふすまを引くと、お連れ様をご案内しますと言った。待ち合わせ時間の5分前だ。帝国海軍は、定刻と同時に行動できるように、5分前に準備を終えておく伝統があった。出航の5分前には、タラップが外されることから、それまでに帰艦しなければいけなかったからだ。みぽりんは、自衛官なのだろうろうか。
みぽりんは、迷彩服でなく、ウエストの細さが際立つAラインのスカートに、トップスはタイトなアイボリーのニットのコーデだった。提げていたスプリングコートを店員が預かると、みぽりんは向かいに座った。
「こんばんは。文雄です。本名です。」
「美穂です。だまされたと思った？ごめんなさい、ゲームの中では、10歳、さばをよんでたの。」
「そうなんですか。全然、分からなかったです。」
言われてみると、目尻やあごの首筋に肌の張りを感じないが、色白で若く見えた。文雄は、10歳さばをよんでいたことを聞いて、騙されたと思ったり、がっかりしたりしなかった。美穂が文雄より5歳年下で、ゼクシーによれば対象範囲に入ることになる。焼き肉を食べて、帰ればいいやと思っていた文雄のテンションがあがった。
「飲み物は、どれにしますか？」
「私は、ビールをお願いします。」
文雄は、ベルを押すと、店員に、生二つと、シャトーブリアン付き会席コースを頼んだ。ジョッキが運ばれてきて、二人は乾杯をした。
「美穂さん、どうして戦車ゲームをしているんですか？男ばっかりだし、チャットに参加しているのは、私みたいなおっさんばかりですよね。下ネタも多いし。」
「私も、おばちゃんですよ。茶道教室の手伝いをしていて、生徒さんの目もあるので、普段から所作や言葉遣いに気をつけないといけなくて、結構、窮屈なんです。どかーんとかぼかーんとか敵戦車をやっつけるとストレスの解消になるし、チャットも知らない人たちだから、適当に話していたらいいじゃないですか。」
「え～、私も一緒です。会社では、愚痴なんてこぼせないし、ストレスが溜まることばかりだし。スマホゲームは、若い人のものだと思っていたら、すっかり、はまっちゃいました。」
「やっているうちに、弱かった戦車が、だんだんレベルアップして強くなってくると、子供を育てているようで、可愛くなってくるんですよね。」
「分かります。今、レオパルドを使っていますが、レオちゃんで読んでます。」
「私は、チハちゃん。」
店員が、ふすまを開けて、サラダとキムチをテーブルにおいた。
「うちももになります。ももの内側の部分で、牛肉の中で一番、脂肪が少ない赤身肉になります。雑味や癖が全くないので、塩かわさびで食べてください。」
文雄は、トング掴んだ肉を網に置くと、ジュッと音がなった。文雄と美穂の目があい、二人とも微笑んだ。
「おいしそ～」
「エバラ食品の調査なんですが、大阪人は鍋奉行と一緒で、仕切りたがる。四国高松の人は、逆にお任せの人が多い。札幌の人は、自分の肉は自分で焼きたいんですって。美穂さんは、どちらの生まれなんですか？」
「私は、青森の生まれです。青森には、『源タレ』って焼き肉のタレがあって、一家に一本って言われるくらい、みんなが使っているの。カルディにも売っているけど、文雄さん、ご存じですか？」
源タレは、青森県内で7割のシェアを誇るご当地の焼き肉のタレ。青森でとれるリンゴやにんにくがたくさん使われていて、売り物にならないサイズや形が合わないものが使われているので、農家も助かっている。焼き肉だけでなく、炒め物や鍋、チャーハンなどに使える万能調味料だ。
「いえ、使ったことないです。焼肉のたれなら、日本食研の『晩餐館』が好きです。といっても、一人なので、家で焼肉をすることはないですけどね。」
と言ってから、文雄は、しまったと思った。ここは、《源タレって、どんな感じですか？》とか、《ほんとに、一家に一本あるんですか？》と共感を示さないといけないところだった。ついつい、高松発祥だが、香川県民がうどんばかり食べて、焼肉を食べないので、愛媛今治に出て行ってしまった日本食研が頭に浮かび、話題を得意のうどんに移そうと論理的に思考してしまった。
日本食研は、社内結婚を推奨し、本社に縁結び神社を作ったり、社内結婚手当を出したりする得体のしれない会社だ。焼肉のたれは、ベルベーレ宮殿やベルサイユ宮殿のような豪華な工場で作っている。宮殿で作ると焼肉のたれが美味しくなるのだろうか。ひょっとしたら、ピリジンやピロールが生成されるのかもしれない。
文雄は、次からは、《うんうん》と頷いてから話そうと思った。
※工場が気になる方は、こちら↓
https://jewelry-life.com/nihonsyokken/
今日は、ジョギング帰りにスーパーで肉を買ってきました。今夜は焼肉です。ファミリーパックが欲しかったのですが、和牛のセットしかなかったので、黒牛カルビと生ラム肉だけの寂しい焼肉になります。源タレも売っていましたが、怪しい焼肉のたれがまだあるので我慢しました。今夜が待ち遠しいです。
晩御飯はマーボ豆腐と決まってるのだ...
錦糸町でふるさとをググってもお好み焼き屋しかヒットしません。お魚料理だと、札幌市西区琴似にある「ふるさと」がお勧めです。北海道民がお勧めする海鮮居酒屋です。一度、行ったことがありますが、お刺身が高かったので焼き鳥を食べたという何をしに行ったのか分からない状態になりました。
https://izakaya-furusato.com/menu/
でも錦糸町なのに随分高級！（「なのに」は失礼か）
錦糸町といえば「ふる里」でもんじゃですよ～
あ、でも、もうないのか？ 検索すると、どうもなくなった雰囲気が・・・
じゃぁ次回のデートは魚寅でお魚を買って、おうちで捌いて美穂さんにごちそうですね♥
読者アンケートの結果ですので、マジョリティーの意見です。蒙古タンメンの北極や辛辛魚ラーメンが好きな人がいるように、中には標準からはずれた人たちもいます。ひょっとしたら、30歳年の離れたうどん好きな人が好きという女性も世界中を探せばいるかもしれません。希望を棄てないようにします。
ぇ～ そうなのかなぁ？ｗ
みぽりんが５歳違いだとわかって
シャトーブリアン付きにしましたね (*≧m≦*)
これから二人がどうなるか？
後編が非常に楽しみです (^O^)/
私は、松茸ご飯に、松茸が見当たらないのが気になりました。ロシア産のウニは、ほとんど北方4島で獲れるらしいです。最恵国待遇がなくなるので、少なくとも3割位ウニの値段が上がりそうです。ウニはしばらく、お預けですが、なくても困らないかな。
焼き肉屋さんでウニは出なくてもいいかなぁ
カルビが好きな人いれば、ロースが好きな人がいるように、人それぞれです。私は、足首派です。足首からふくらはぎにかけてのラインが、神が造りたもうた至高の曲線ではないでしょうか。Aラインのスカートだと足元が隠れてしまうので、膝上10cmくらいでお願いします。
髪とか脚が見られてると思ってたー
私は、エバラの黄金のタレ中辛派だったのですが、源タレを探しに行こうと思っているところです。焼肉のたれをアレンジしているご家庭も多いそうです。私は、すりおろしにんにくとコチジャンを入れて、濃厚なタレにしています。お安い肉なので、タレで食べています。
男とは、そういうものです。ピチピチのニット姿を見たら、45歳でも35歳でも、シャトーブリアンになっちゃいます。お隣の阿佐ヶ谷にSATOブリアンという怪しい名前の焼肉屋さんがあります。駄洒落の店名にしては、本格的な焼肉屋さんです。
https://www.rokkakuzin.com/satoburi/
寧々こさん
願望です。女性と焼肉を食べるのは、理想の共食の姿ではないでしょうか。うどん屋なら、5分で食べ終わって、じゃあねとなってしまいますが、焼肉屋なら一時間は続きます。うどんは、会話のタイミングが難しいですが、焼肉なら焼き上がるまでの時間があります。デートは焼肉です。
日本食研の味はなかなか美味しくて晩餐館も使ったことがあります。
思わず源たれをチェックしました笑
女性がサバよんでてゼクシーによる対象年齢にマッチングするところが流石です♪
実は現実なのか
妄想空想想像しております
明日も来月も行けばいいのです。錦糸町には、たくさん焼肉屋さんがありそう。赤身肉専門店に惹かれています。おっさんになったら、カルビよりロースです。おこちゃまの私は、昨日の居酒屋で、一杯目は、まるしぼり杏サワー、二杯目はオレンジジュースでした。二日目の居酒屋は、カボスジュースになんとかジュースでした。
焼肉屋の後は良い雰囲気のBARですかね？ウイスキーソーダ割りが美味しいんですよ。私はジェムソンが好きです。
工場見学をすれば、唐揚げ粉や焼肉のたれをくれるはずです。ひょっとしたら、宮殿の庭園で、バーベキューもできるかもしれません。ぜひ、おでかけください。工場は、埼玉にもあります。愛媛今治で西日本用のタレを、埼玉で、東日本用のタレを作っています。西日本の方が甘い気がします。
思っていた以上に凄かったです。
年齢も近いことが分かったし、進展するかどうか、どうなるんでしょうね。
後半楽しみにしてます。
日本食研、やばいね～！ 工場見学したくなりました(ﾟρﾟ*)
Facebookやインスタからオフ会とかが多そうですね。顔も名前も分かっているし、趣味繋がりが多いと思うので、話題も困らないというか、普段からつながっていて違和感がないのでしょう。しかし、今は、イイネづかれという言葉があるようです。共感しないと怒られそうだからでしょう。
沖人さんの小説にも、何人かそんな人がでてくるね。
文雄さんの考えることが面白かったよ。
みぽりんは、さばを読んでいたなんて。
面白い展開だね。
知り合ったばかりの人って、何を話すかほんと考えるよね。
話がはずまないと緊張するし。
高級な焼き肉をご馳走するんだね。
美味しそう。
日本食研が、宮殿のような工場を作っているなんて知らなかったよ。
びっくりしたよ。