Nicotto Town



遥か昔の話

「オレの名前はゲイド…んで、コッチの魔族がヨウロン」
一応の自己紹介を終えて、これからの仕事の話が始まる。
なんだか、滑稽だが詰め所の人間にとっては日常の業務説明だし、新人で今日から働く事になったリルドとカリスにとってはきちんと説明を聞いて仕事を理解しないといけない。その為の正しい作業のはずなのに…。
「魔族が普通に人間と生活しているって聞いてはいたけど、実際に目にするとアレだよね」
仕事の説明が終わって落ち着いたところで、カリスがリルドに耳打ちをしてきた。実際にはリルドも魔族確定なんだが、今まで人間として一緒に生活していた為に今も、人間扱いになっている。
その耳打ちに密かに頷くリルドも魔族の自覚は無い。
「なんだ?違和感って言うのは。別に、魔族にだって普通に生活したい奴がいるんだよ。それにだな、魔族って言っても飯食わないと生きていけないし」
どうやら魔族という一族は、生産といった分野に疎いらしい。魔王が人間を殲滅させようとしたのは「人間が食べ物を育てやすい土地を奪ったから」と、一昔前でも珍しいような「食」に関するものだったらしい。
ヨウロン曰く、「魔族は生産そのものが苦手なんだよ」との事。
先の魔族の裏切り者の「人間家畜化」の方が支持されていたとかで、魔王軍はかなりの劣勢で戦う事になったとか。
「力があっても頭が弱いから…」
中級魔族・ヨウロンに怖いものはあまり無い。
今回の魔族復活も「やっぱ、人間の土地の方が食べ物育ちやすいんじゃない?」って、理由があるらしい…召喚された時からそんな伝令が回ってきて、家畜化支持派の失笑をかっていたという。
「…もしかしなくても、魔王って人望が無いとか?」
この場合「魔望」というのか…今、集まっているらしい魔族も、魔王の力を利用して実験したいものとか、魔王から力をもらおうとか考えている者が多いらしい。
「もしかしなくても人望は無いさ…ただ、圧倒的に力があるんだよね。裏切り者は魔王の弟とかで、同じくらいの力があったけど…使い方が今一判らないらしくって、力に振り回されていたね」
リルドとカリスは目を合わせた…いま、リルドの背中にあるのは「裏切り者の印」。それは、すなわち魔王の弟?
「いくらなんでも歳離れすぎだろ」
「そうだよね、弟にしたって…でも、生まれ変わりとかかも」
「そうか…ならば、歳が離れていても問題が無いんだな…」
「…なに、二人でこそこそ話してるんだ。ゲイドはもう行ってしまったよ」
いままで、存在を消していたゲイドは三人で無駄話している間に見回りに言ってしまった。
初日…ゲイドと組むのはリルド…大慌てで後を追いかけて走っている。
「…元気ねぇ…若いって羨ましいわ」
そう呟いたヨウロンだって充分に若く見える。
「まぁ、元気がとりえみたいですからね…」
呆れたようにカリスが応える。

「ところでカリス君」
街の見回りの途中…改まった感じでヨウロンが声をかけてきた。
「なんです」
結構な広い街に「一人で歩いたら迷子かも」と考えながら歩いていたカリスが反射的に応える。
「…もう一人のほう…リルドって言ったっけ?かなりの上級魔族なのに誰も気がつかなかったの」
ゲイドのように感がいい人間ならすぐに判ることもある…しかし、長年一緒にいれば感が鈍い人間でも違和感を感じるはずである。
「誰も気がつかなかったですね…なにせ、両親も健在でしたし…むしろ、正体不明といえば僕のほうかもしれません」
カリスの生い立ちは、捨て子である…町長の血縁者に面倒を見てもらっていたし、血の繋がった人間は誰もいない。
「そうか…人間の形をしている事事態が珍しいのならば、あるいは気がつかないかもね」
長年この町で生活していて、住民のほとんどにも魔族とばれているヨウロン。
あまり気にしない街ならば、普通に生活するのは簡単だ。もしかしたら、その田舎もそんな気にしない人間の集まりだったのかもしれない。
「でも、まだなんかヒミツがあるよね…なんか、彼…凄く強いよ?」
ヨウロンが肌で感じる強さは半端なく巨大なモノだった。魔軍にも幹部クラスにならないとあれだけの力は無いと思っていた。
「そういえば、背中に痣があらわれ始めて…それから、物凄く強くなった感じがするんです…って、ヨウロンさん?」
ヨウロンは、化け物を見る目で見つめてくるて。
「背中の痣って…呪いの痣…だったりしない?」
そこまで、明確には判っていないものの、ヨウロンの驚きようは異常だった。
「さぁ…詳しくは知りませんが…もしかしたらの可能性も」
無きにしも非ず?
そんな?マークばかりが飛び交っていた。




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