Nicotto Town



遥か昔の話

面倒ごとから開放される為に、頑張って働く二人。
殆ど素手の状態のリルドも、カリスの勧めで何とか剣を扱えるようになってきた。
「これで島に戻った時は、堅い連中相手でもOKか?」
あくまでも「扱えるようになってきた」レベルのリルドだが、何故か自信満々になっている。
「まだまだだよ…せめて、ボクに勝てるようにならないと。魔王はそんなモンじゃないんだからね」
諦めていないとは聞いていたものの、魔王の力を度々訴えかけてくる。
「…そんなに、魔王って倒したい相手なの?」
はっきり言って、今までの旅の間に魔王との接触はない…はずである。
だから、うらみも何もあるはずは無い。
そこまで、執念深く魔王を倒したがる理由がわからない。多分、島のほうも平和だろうと予測しているし。
別に、今すぐ魔王をどうこうとはあまり考えていない。
確かに、現状は北の大地のほうで魔王との攻防が繰り広げられており、沢山の人が死に追いやられているのだろうが…正直、今のところ人事であった。
「魔王は人間にとっては脅威なんだよ。倒すのは人間にとっての彼悲願なんだよ。」
かつて、魔王は封印された…遅すぎた勇者(正確には裏切り者)の力によってである。しかし、兄弟だったのが仇となり封印に止めてしまったという。
「島に帰ってからも、剣の練習はしようね。それに、魔法だって鍛えていかないと…まだまだ、やることはあるし」
「…ゆっくり待つんじゃなかったのか?」
確か、そう聞いた気がするとリルド。
「確かに『待つ』とは言ったけど、待っている間に何もしないとは言っていないよ。準備は万端にしないと…そうすれば、いつ行く気になっても大丈夫でしょ」
本当に嬉しそうに語るカリス。
諦める気が無い…しかも、かなりやる気満々のカリス。北の大地にでも知り合いがいたのだろうか?と、思ってしまうくらいである。

◇◆◇◆◇◆

北の大地の廃城。
既に、人の姿は(ただ一人を除いては)無くなり、魔物ばかりが徘徊する、かつての大国の城。
人に似た姿の魔族は、人間が住んでいたときに高位の者に与えられただろう部屋で、それぞれが生活していた。
「久しぶりですね…錠」
魔族の一人が、たった今、帰ってきたばかりの魔族に挨拶をする。三つの目が、挨拶をした魔族を見つめる。
「私も頑張っているんですよ…色々と」
そういって、一応の成果を報告している。
本来、報告する相手は魔王のはずだが、彼にとっての上司は出迎えた魔族らしい。
「魔王を消滅させる算段は?」
「とりあえずはね、彼の弟君の生まれ変わりが頑張ってくれれば、倒せるんだよね…ただ、今はやる気が無い感じですよ」
両手を広げて呆れたようにため息を一つ…当のリルドだってこんな偏狭の大国で噂されていようとは考えていなかった。
「一応、乱暴な手段をとりましたよ…これで、彼のやる気が起きなければ、相当な冷血漢ですよ」
北の大地での魔族二人…魔王の本拠地で魔王を倒す話をしている。結構シュールな風景だが、意外と色々な所でささやかれている。
「…こんな所でお話していて良いのですか」
唯一の人間が、二人に話しかけた…彼は、魔王の力でも構わない、世界を北の大国が支配できれば良いと考えていたから、魔王を倒されても構わないと思っている。支配さえ終わればなのだが。
「あぁ…構わないよ。魔王はまだ、ここまでの話は聞こえないはずだよ」
「そうだよ…それに、たとえ判っていたとしても、世界が終わる日が車では手駒を殺すようなことはしないよ」
前回の時もそうだった…結局、人間を滅ぼした後は、人間に変る労働力が必要になってくるのだから、むやみやたらと魔族を殺すことはしないだろう。

「…確かにそうだがな…」
北の大地…かつて、玉座のあった場所に佇む一人の人物。
「殺されないからといって、楽出来るなと思うなよ」
一人ごとが、薄暗い空間の中を響き渡る…銀色の髪の毛を地面まで垂らした姿…赤い瞳…かつて、魔王と呼ばれていた魔族。
圧倒的な力も、今は玉座の間を満たす事でやっとになってきている。
確かに、魔族や魔物を操る事は出来る…しかし。
「まだ…力が足らんな…」
長く、封印されていた影響か…その、力はかつてのような圧倒的なものを感じる事は無い。
しかし、それでもそこらの魔族を凌駕しているのはたしかだ。
だからこそ、今も魔族が利用しようと集まってくるのだろう。
「幸い、憎き弟も力を取り戻していないらしい…もっと、憎しみを捧げてくれれば…かつての力を取り戻す事が出来る」
家族は全てを殺さない…必ず一人は残す…そうすれば、憎しみを昇華させて、魔王の力となる。
「ふ…ふっふっふ…」
薄っすらと笑いを浮かべる魔王。




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