Nicotto Town



遥か昔の話

「オレの目的は…魔族の動向と痣の事…」
「取りあえず、それらは解決しているよね」
「後…解決していないのは…」
「船長の家族に…彼の死亡を報告する事」
すっかり、詰め所の仕事に慣れ始めてしまったリルドとカリス。
本来の目的は達成されているし、次に出来た目的だって、既にたまったお金で旅に出れそうなくらいにはなっていた。
ならば、いまだにこの地で詰め所に詰め込まれているのか。
「簡単に言えば人手不足だ」
魔族のヨウロンが重々しく告げる。
魔王の活性化によって魔族だけでなく魔王だって活発に動くようになったためである。
大きい街ならば、それこそあちらこちらで魔物が溢れている。
「魔王軍って人手不足じゃなかったのか?」
確かに、魔王軍は人手不足な為にかつての反対派の魔族にまで召集をかけているくらいであるはず。
「なんで、こんなに魔物が襲ってくるのん?」
「魔物は魔王軍の構成員じゃないんだよ。彼らは自然発生的に進化した動物なんだよ。たまたま、魔法に近い力を持っていたりした為に、魔王の力の影響を受けやすかっただけだ」
本来は野生の生き物。
魔族とは根本的に違うのである。ただ、魔王の影響を受けやすかった為に、人間を憎んでいるだけである。
「今、北の大地ではその野生動物であるはずの魔族も操っているんですよね…なにか、あるんですか?」
「単純な話、魔王の影響だよ…何かがあるのは確かだけど、詳しくは知らん」
こんな、北の大地から離れていては詳しい事なんかは判らない。
だからと言って、わざわざ調べに行く気も無い。
「とりあえずは、片時も休むことなく頑張って戦うように…オレは休む」
夜遅くまで魔物と戦っていたらしいヨウロン…詰め所の奥にその他の夜勤組みと一緒にもぐりこんで行く。
「いつになったら目的が達成できるんだ」
「そうだね…剣の練習といっても、これじゃあ旅に出れないしね」
リルドの言っている目的は、もちろん船長の事だったんだが、カリスの旅の意味は微妙に違っていた。

◇◆◇◆◇◆

「…これで、このキャラバンは全部?」
誰にとも無く聞く声。
その声の主の周囲には、無数の死体と血しぶきが飛び散っていた。
むせ返るような血の臭い。
主は、禍々しい剣を片手に…ただ、絶望的に空を見上げる。
「いつまで続く…早く…早くしないと…壊れるよ…」

◇◆◇◆◇◆

キャラバン隊が魔物に襲われる事件が続いている。
かなり、残虐なやり方で…誰一人生き残る事が出来ない無残な屍をさらしていた。
「魔王による、魔物の活性化だけでは言い切れないくらいにキャラバンが狙われているな」
街の外を出歩くのは、主にキャラバン隊である…故に、魔物に狙われる確率が高くなるのもキャラバン隊になるのは当たり前だったが。
「でも、魔物は人間を憎んでいるんでしょ…活性化で襲うことが増えるくらい」
他の団員も、カリスの疑問と同じ事を考えていた。
確かに、急激に増えているが、増えた時期だって魔王が復活したんじゃねぇ?って時期と合致するから、魔王からパワーか何かもらってでも襲ってくるんじゃなかろうかと。
「魔王の力は「憎しみ」だよ。全員殺したら、より強い憎しみは魔物に…ひいては魔王の力になるんだよ。魔物だって、いままでキャラバン全員を倒す事なんか無かったはずだ」
それに、彼らは基本「野生の動物」。
相手がそれなりに強いとわかれば、逃げると判断する事もある。
なのに、全滅させている…しかも、魔物の姿が無い。
「桁違いに強い魔物がうろついているとは考えられない…全員が殺されるまで、全員が抵抗しなかったとか、ありえるか?」
魔物の姿が無いのは、抵抗できないままキャラバンが倒された事。
しかし、歴戦のキャラバン隊なんだから多少は抵抗しただろう。その間に、何人かは逃げれたかもしれない。
「これは、おかしなことだらけだよ」
隣で頷くゲイド…彼も、疑問に感じていた少数派である。
もっとも、ゲイドの疑問はそんなところではない。
魔物の、傷口とは違う…魔物が剣を扱うだろうか?という事。
確かに、魔物の中には剣のような傷をつけるものもいる…しかし、あきらかに剣にしか見えない傷跡ははじめてであった。
「とりあえず、見回りは強化していかないとな…キャラバン隊まで街に引きこもったら、世界がまわらんくなる」
確かに、キャラバン隊が動き回ってくれるおかげで、経済が回っているといっても過言ではない。
彼らの営みを邪魔する魔物は、町に住む人間にとっても脅威でしかない。
「ってことで、頑張って見回るぞ!」
腕振り上げて激昂するヨウロン…まわりは微妙に盛り下がっているが。




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