Nicotto Town


うみきょんの どこにもあってここにいない


満ちている生たちに挨拶を ──彼岸花など


 今年も秋になってもだらだらと夏の暑さが続いて、そうこうするうち、突然寒さがやってくるのかと思っていた。それほど、真夏の暑さが感じられたのだろう。わたしの予想と違い、秋は意外と順調にやってきている。台風や雨は多いけれど。
 十月になるかならないかの時、キンモクセイが香っているのを感じた。そう、あれは花の存在を、いつも香りで知る。どこに咲いているのかしら。香りをさがす。そうすると、金色の星のような花たちをみつける。金木犀って、金木星のことなのではないのかしらと、勝手なことを思ったり。
 ただ、今年は、咲いてすぐに台風が来たから、かわいそうに、開花してまもないキンモクセイたちが、すぐに暴風雨で、花を散らせてしまった。台風一過の後の朝、道に星屑のようにあちこちで花たちが落ちていた。
 崖の林や、公園では、倒木も見られた。根こそぎではなく、根元付近で折れて、むざんな切り株のようになっているのが、何本か。
 今日、公園のほうでは、折れて倒れた倒木が、きれいに五六個の輪切りになっているのを見かけた。なにかに再利用するのだろう。ただ、幹はドーナツ状に空洞になっていた。弱っていた子だったから、倒れてしまったのだろう。
 
 九月の四週目の土曜日、お彼岸の頃に、例年出かけている、埼玉県日高市の巾着田に、彼岸花をみにいってきた。つい彼岸花と書いてしまうけれど、曼珠沙華まつりとなっているので、その呼び名のほうがいいのだろう。けれども、わたしのなかでは、彼岸に咲く、彼岸花なのだ。
 それを今になって書くのも、もう、季節が進んでしまって、どうかなと思うのだけれど……、今、彼岸花たちは、もはや、花茎をなくして、後から伸びてきた剣のような葉だらけ、ジャノヒゲみたいになっている。だから、簡単に。
 やはり前日まで雨が降っていたっけ。いや、出かけた朝もぐずついていたと思う。けれども着いたら、晴れてきた。三連休の初日ということもあって、それに、ちょうど満開だったから、混んでいた。満開…盛りをすこし過ぎた頃でもあった。ぎりぎり満開。終わりの始まり。
 人々は、わたしも含めてだけれど、なぜ、花を見に来るのだろうか。真っ赤な彼岸花たちの数多。五〇〇万本の群生地だそうだ。楽しそうに花を愛でているふうだが、そこにどこか、魅入られたような魔がある。かもしれない。すこしだけれど。談笑しながら、という人たちは、意外と少ない。概ね、しずかに写真を撮ったり、彼岸花をバックに自撮りしたり、花の周りをゆく。なぜ、花を見に来るのだろうか。わたしは毎年、問いかけている。ずいぶんと前からだ、二十代後半の頃から。どうして花をわざわざ見に来るのかしら? 彼岸花にかぎったことではない、桜や梅、紫陽花などもふくめて。季節ごと、花を見にゆくことを繰り返して、そのたびに問いを思い出して。答えはない。けれども、答えのようなものが、わたしのなかで、ながい年月をかけて、育っていったと思う。いや、花たちが教えてくれているのだ。

 家の周辺で、チラシ投函のバイトをしている。その最中、ピラカンサス、冬に真っ赤な実をいっぱいつけるのだが、それがもう、かすかに色づいているのを見つける。彼岸花たちは、まったく見かけない、もう花の時期を終えて、葉を茂らせているから。
 ミズヒキの花、赤と白、めでたいけれど、可憐というか素朴な小さな花たちなので、きらびやかさがない。秋のやさしいめでたさだ。エノコログサ、別名、猫じゃらしたちの、やわらかい花穂たちが、空き地にいっぱい。
 チラシを投函しつつ、それらを眺めては、幸せになっている自分を感じる。あるいは川沿いの道を通る、橋を渡る。意外と澄んだ水の上を、カルガモが泳ぐ、ヘラサギやコサギが立っているのを見かける。そして、あれは葦だろう、茂ったあたりに、カワウがやってくるのを見る、電線に群れをなしてとまっているのは、あれはムクドリ。彼らを見かける、見つける、そのたびに、満ちたような気がしてしまう。ホトトギスがもう咲き始めた。ドングリが落ちている。
 こうした、家の周辺での、やさしい体験、経験が、花を見に行くことたちと響き合っている。同じことだといっているような気がする。ススキが咲いていた。ススキの下に寄生する、ナンバンギセルが見たいなと思う。すきな花だった。ヤブガラシ、藪すら枯らしてしまうという、旺盛な生命力、生えてしまうと、地下茎の強い広がりが面倒なのかもしれないが、オレンジ色の小さなつぶつぶとした花たちが、どうしても気になってしまう、わたしは、日々、花たちと、生き物たちと出会っている。たとえば、彼岸花たちを見に行くのは、そのことを、確認しにいきたいのではなかったか。彼らとともにあること。
 家の近くの小川のほとりにヒルガオの花。これも好きな…、きりが無い。あたりは、生で満ちている。




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