Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「居場所を求めて」後編

居場所を求めて

後編

 
兄の真意はすぐに気づいた。

これを機に邪魔者を削除するつもりなのだ。

テニトラニスへと入国を果たしリサニルの王子の動向を探る。

供の者を向かわせてシキアはテニトラニスの宿場でひとり、溜息をついた。

血気盛んな供はきっと兄に金で雇われた刺客。

作戦の成功や失敗の関係なくシキア自身…刺客に命を奪われかねない。

ずっと気を張っているため、一人でいる方が安心できた。

窓から見える海と、そこに生きている人の喧騒を耳にして、自国に対する嫌悪が広がっていた。

『あの国に私の居場所はない……』

実の兄に殺されかけている自分を思い自嘲の笑みを浮かべた。

「それならいっそう、捕まってしまおうか……」

兄の刺客の手によって無残に殺されるのだけは許せなかった。

捕らえられて、潔く死を選ぶのもいいかも知れない…と。

 

部屋の扉をノックする音で目が覚めた。

いつの間にか眠ってしまったらしく、灯りのない部屋は薄暗かった。

「シキア様、夕食の準備が整っております」

執事のリヤエが扉越しに声をかけてくる。

「すみません…ちょっと気分が優れないもので……」

「…承知いたしました。気分が良くなられましたら、いつでもお声をかけてください」

「ありがとうございます」

リヤエが去る気配を感じながらシキアは部屋を見渡した。

窓からの淡い月光がうっすらと部屋を照らしている。

死を選んだのは事実。

それでも、死にたかった訳ではない。

瞳から涙がひとしずくこぼれ落ちた。

 

「シキア様、主人がお待ちしております」

翌日、リヤエが部屋までやってきた。

留守だったこの屋敷の主人がようやく戻ってきたようだった。

現在、自分の置かれている状況を何も知っていないシキアにとって、主人と対面して説明を聞くことが一番重要であった。

案内された部屋は2階の主人の個室。

接待室を使わないのは何故だろう。

私を警戒するなら自室など入れるはずないのだ。

それとも、何も考えていないのだろうか……?

いろいろ思案しながら、リヤエに続いて部屋にはいると、机にはまだ若い青年が座っていた。自分よりも少し若く見える青年に見覚えはあった。

「……コセラーナ=リサニル……?」

驚きと供に口に出た彼の名前。それを聞いてコセラーナは笑みを浮かべた。

リサニル大国の第3王子。

婚約話があった第2王子グーベマナの影武者、オトリとしてタヤカウ国の刺客を振り回した者。

そして、捕らえられた後にシキアに「飲むか?」と杯をすすめた相手でもあった。

あの時は状況からして死罪を免れず、出されたのは毒薬だと思って飲み干した。すぐに身体の力が抜け意識が遠のいていくのを感じたので、死ぬんだと実感していたのだが。

ここで目覚めたのも総て、このコセラーナ王子の仕業だったのか……。

彼はリヤエに目配せをすると彼は一礼をして部屋を出ていった。

「……私をどうするつもりです?」

緊張した声音でようやくそれだけを口にする。

「俺専用の従僕だよ。ずっと俺の側にいて、言うことを聞いて、話し相手になってもらう」

「それは従僕ではなく、ただの従者では……」

「そうとも言う」

 くすくすと嬉しそうに笑うコセラーナ。

シキアは怪訝な表情で彼を見つめる。コセラーナの真意がまた理解できない。

「俺はあんたの態度を見て気にいったんだ。あんたは絶対にこんな所で埋もれるような奴じゃない」

キッパリと言いきる姿にシキアは彼の蒼い瞳から視線を外せなくなった。

自らの意思を感じさせる強い瞳。

タヤカウの王宮にはないもの。

シキアが求めていたものがそこにあった。

「リヤエからここでの報告は聞いている。シキアの過去も調べたよ」

数日の間にいろいろ調べられていたようだった。

ま、タヤカウ国では対したことは殆どやっていないので、調べられても何も出て来ないだろうけど。

「…それに、シキアは死んだことになっている。薬を飲んで運ばれていく仮死状態のシキアを見せたから、自国に戻ってそう報告していることだろう」

「…………」

戻る場所はなくなってるとばかり、意地悪く言う。

でも多分コセラーナは自国でのシキアの立場を充分承しているのだろう。

「俺に仕えろ」

 コセラーナの言葉にふっと表情を和らげる。

自信を持って言い切る彼の言葉が、重い過去を切り捨てさせた。

まだ見ぬ主人に抱いていた好感は、彼を見ても変わらなかった。

頭より先に心が彼を主人と認めていた。

 自然に口元に浮かんだ笑み。
「……判りました。ずっとですね」


               【
END】2003.2.2

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2010/08/13 23:16
コメントありがとうございます。
予告なしのシリーズ短編小説でした。

シキアの出番は少ないが、ちょこちょこいろんな所で顔を出しているキャラなので、また見かけましたら「働いてるなぁ」(笑)とでも思って頂けたらと思いますっ。

どこにも出していないウラ設定。
セーラの初恋はたぶんシキア(爆)
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2010/08/12 06:51
私も新しい場所で再出発してみたいです。

これって何か本編に登場するメインキャラの外伝っぽい感じですね。
1冊の物語が書けそう。
あきさん、すごいっ!
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2010/08/11 07:04
あ、そうか。
花嫁の方で出てたから何かあったのかなーと思ってたらこういう経緯があったのですね。
シキアには針のむしろ的な以前の状況から救ってもらった恩のようなものがあるんじゃないでしょうか。
花嫁では出番少ないけどこれ以前よりは幸せになれたのかもとか思います。
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2010/08/11 05:51
拝見。




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