Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「次期王の花嫁」8

「平行世界シリーズ」

次期王の花嫁


第8話

 

 数年前にクスイ国の王都で起こった事件。

 クーデノムが城下の町役場から王宮の文官へと職場を移した頃の出来事。

 最近、組織的に賭けをふっかけてはトラブルを起している者たちがいるとの訴えを耳にしたクーデノムは、町に出たついでにと彼らが多く出没するという酒場へ足を運んだ。

 そこは宿も兼ねた一般の酒場。

 各国からクスイに遊びに来た者たちも多く利用している場所だ。いわゆる、賭け事の好きな者が集まっている場所。

 各々、テーブルに座った者たちが酒を飲み交わしながらカードやコインやらで簡単な小さな遊びを繰り返し行っている。

 クーデノムも空いている席に座ると酒は…仕事上マズかろうと果汁水を注文した。

 皆、楽しそうに遊びに興じている。

そう簡単には相手も現れないだろうと適当に周囲のゲームを見学して暇を潰していたクーデノムだったが、突然、背後に座っていた男が騒ぎ出した。

「詐欺だ!

と。

 クスイでは賭け事のイカサマや詐欺は御法度。

 罪も重く高額な罰金や禁固刑、国外追放など言い渡されることもしばしば。

「何だと!?

 叫んだ若者に詰め寄るのは屈強そうな男3人。

 有無を言わさず無言の圧力で黙らせようとした男達の前に現れたのが、当時まだ一般市民のマキセだった。

 宿主の依頼を受けての用心棒といった立場だった彼は、邪魔するなと襲い来る男3人を相手に応戦。腰に下げた剣も抜かずにあっという間に男達を床に転がした。

 食堂内にいた見張り役だっただろう彼らの仲間らしき者が慌てて外へ逃げ出そうとしたが、戸口寸前で鼻先を掠めたモノに驚いて立ち止まり、後方の者は気付かず勢いよくぶつかりまとめて倒れこんだ。

 その男たちに気付いた周囲の客が彼らを縛りあげ、騒ぎにやって来た警備隊に引き渡された。

 壁に彼らの足止めに使われたナイフが一本。

「コレ、あんたのだろ?」

マキセが壁から抜いた一本のナイフを事務的な処理をしていたクーデノムに渡しに来たのが、二人の初めての会話だった。

捕らえた者の証言で組織の主犯格も逮捕され、詐欺グループを一掃することが出来た事件で、その主犯格だったのが目前に居る男・ケラ=ノーサだったのだ。

  

 構えた剣を先に振り上げたのは男達のほう。

 ケラ=ノーサが一歩、後ろに下がるとマキセに向かって二人が襲いかかってきた。

 しかし彼は剣の太刀筋を見切ってひとつを避け、一方を剣で受け止め撥ね返して退ける。その攻防で見た目にも剣術の腕の差は歴然。

 武器をチラつかせ、怯える者くらいしか今まで相手にして来なかったのだろう。

 男達もマキセが剣術の試合で、大男を相手に勝利を収めたのを今更のように思い出し表情を改める。そしてそんな彼らが標的にするのは、目前の強者より明らかに力は劣るであろうもう一人の人物。

要はケラ=ノーサが逃げる時間稼ぎをすれば、彼らはいいのだ。

視線の動きで真意を見抜いたマキセは、一瞬振り向いてクーデノムを覗う。

それを隙に思った男達は足止め用にマキセへ、そしてクーデノムへと刃を向けた。

しかし、横をすり抜けようとした男の足をマキセは引っ掛けてバランスを崩しておいてから、向かってきた男の剣を高らかな金属音と共に受け止め、力で押してくる刃をスラリと流す。

男の横に素早く移動したマキセは、男が切り返してくるよりも早く、剣の柄で後頭部下を突き、昏倒させた。倒れた男を地へ転がしたままマキセはクーデノムへと振り向いた。

一方、マキセに足をかけられバランスを崩した男はそのまま勢いと共にクーデノムに突っ込んでいく。

しかし、素手だと思っていた相手の手にはいつの間にか柄の長い数本のナイフ。

クーデノムが腕を振った次の瞬間には、男の剣を持った腕から血が吹き出した。

剣を落とし、痛みで戦意を失ったらしい相手から視線を外して、人込みに紛れようとしている中年男・ケラ=ノーサをクーデノムは見つけた。

「待ちなさい」

 鋭い声と共に放ったナイフは2本。

一本は庇った部下の肩に刺さり、もう一本は驚きで尻餅をついたケラ=ノーサの太ももへ深く傷を付けた。

「うわぁ」

と、派手に痛みを訴える声を上げた彼に寄ってきたのは、ようやく騒ぎに駆けつけて来たルクウートの警備隊だった。


【つづく】

第8話をUPです。
今回はクーとマキセの出会いをちょっと絡めてみましたー。

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2010/08/19 20:47
拝見




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