Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「次期王の花嫁」9

「平行世界シリーズ」

次期王の花嫁



第9話

 

「あの男たちが突然、わしを……!」

 被害者ぶった言動にムッと眉をひそめたクーデノムだったが、警備隊は彼らを捕らえる動きに迷いはない。

「お怪我はありませんか?」

 背後からかけられた声に振り向いたクーデノムはよく見知った相手を見て、納得した。

「ハイニ殿」

「あちらの席から姿を拝見しましたので、警備隊を呼んで参りました」

と、クスイ国の文官長、クーデノムの上司がそこに立っていた。彼が視線で示した席とは、国賓席。クスイの国王代理として祭典に参加していたようだ。

「ありがとうございます。助かりました」

 丁寧に感謝の礼を言うと彼は穏やかな表情を見せて笑う。

「相変わらず、いい腕だな」

 落ちた3本のナイフを手に持ってマキセが歩み寄る。

「こんな特技があるとは、私も知りませんでしたよ」

 感嘆するハイニの言葉にクーデノムは苦笑した。

「人の目を盗んで、抜け出そうとする人物がおりましたので、いつの間にか身についてしまったんです」

 その人物が誰なのかすぐに察したハイニは、長年側にいた尊むべき相手を思い浮かべ、笑った。

ケラ=ノーサ達が警備隊に連れて行かれ、騒ぎが収まる中、遠巻きに見ている者の中に彼女の姿を見つけて、クーデノムはほっと安堵の息をもらした。

 今回は巻き込まずに済んだらしい。

 そして、そう思った自分に少し驚きを感じた。

 彼女の無事を確認するまで落ち着かなかった自身の心に。

「クーデノム様、大丈夫でしたか?」

 自分の姿を見て走り寄って来る彼女に自然と浮かぶ笑顔。

 真っすぐな蒼い瞳を向けられて、クーデノムは胸中で苦笑した。

「仕方ない…認めてしまおう」

 小さく呟いた言葉を側にいたマキセが聞き留めて、クスリと笑った。

捕らえられた者達を一旦城下の拘留所に預かってもらうなど事後処理に追われバタバタと忙しく動き回っている間に祭典の剣術試合も終焉の時を迎えていた。

騒ぎに巻き込まれ、結局、祭典の見学など殆ど出来なかったに等しい。

ま、クスイの罪人が起こした事件ということで、まったく無関係でないことが一種の慰めになるかどうかは謎だけど…というか余計に腹立たしくなる要因か。

「お手を煩わしてしまい、申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ遊学中にも拘らず仕事をさせてしまいましたね」

「無理やり追い出されたようなものですから」

 毒つくクーデノムの言葉にハイニは声を上げて笑ってみせる。

「王にも考えがあるのですよ」

「人の留守中に何を企んでいるのかは知りませんけどね」

 

 王宮の一角から宿へ戻ろうと出てきたクーデノムを待ち受けていたのは一台の馬車。

 戸口が開き現れたのは金髪の人物…テニトラニス王のコセラーナだった。

「宿屋まで送って行くよ」

 笑顔で言われ、またしても断る理由がない。それに少し話をしてみたかったのも事実。

「ありがとうございます」

 クーデノムが乗り込むと馬車はゆっくりと動き出した。

 乗っているのはコセラーナ一人だけだった。

 油断ならない相手だと認めているだけに妙な緊張感が身体を支配する。沈黙を破ったのはコセラーナから。

「うちの姫が頼み事をしたらしいが、聞いて頂けるのかな?」

「! 貴方はお許しになるのですか!?

「相手に不足はないと感じたからな。どうせなら私の手元に欲しいくらいだ。クスイ国の噂を聞いたぞ。現王の片腕と言われる若い文官がいるそうじゃないか」

それは君だろうと含ませた言葉。

「……私はただの一文官ですが?」

「クスイ国王の代理が、貴方に敬語を使いになっていたのに?」

「…………」

 どうやらハイニと話していたのを聞かれていたらしい。

「今、テニトラニスは安定しているから、政略結婚なんてする必要はないからな」

きっぱりと言いきる姿は王としてではなく、一人の父親としての表情だった。

確かにリサニルとカルマキル、両陸の大国との親密な交流。

今以上の他国との交流は娘を差し出し犠牲にしてまで築くほどのものでもない、と。

「……私はクスイの国を離れることが出来ないのですが……」

「いいよ」

 すんなり頷く。それは姫をクスイ国へと嫁がせてもいいという意思表示。

「別に今すぐ結婚とかいう話でもないし結論は待つよ。君は今、遊学中だろう? その途中にテニトラニスにでも立ち寄ってからでもいい」

【つづく】


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2010/08/19 20:54
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