Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「次期王の花嫁」11

「平行世界シリーズ」

次期王の花嫁

第11話

 

「また足でも挫きましたか?」

 そうでないと判っていながら彼女に手を差し延べ微笑んで見せる。

 突然の彼の出現に驚きながらも、セーラはクーデノムの手を素直にとって立ち上がった。

「今日はテニトラニスへ帰られるんでしょう?」

「その前に少しでもと思って抜けて来てしまいました」

「では送らせて頂きます」

 繋いだ手は離さずにそのままセーラを連れて歩き出す。

 セーラも笑顔で後を着いて行った。

 そんな二人の姿を偶然、窓から外を見たハイニが驚きの表情で眺め、見守るように穏やかな微笑を口元に浮かべたことをなど、クーデノムは気付かなかった。

 大きな屋敷が立ち並ぶ中、クーデノムはセーラに合わせた歩調でゆっくりと歩いていく。

 会話もなく何故か無言。

 それでも気まずい雰囲気など全く感じられない。

 小さく握り返してくる手の温もり。

 すっぽりと収まる小さな手に感じるのは恋慕なのか庇護欲なのかは判らない。

 でも他の女性には感じなかった想いがあるのは事実。

 彼女が滞在していた屋敷が見える所まで来て、歩みを止めてクーデノムはセーラに向き合う。

「セーラ姫」

「あ、はい」

「今日はこれでお別れですが…また近いうちに、今度はテニトラニスでお会いしましょう」

「本当ですか!?

「えぇ、各国を見て来いというのがクスイ国王の命令ですから、テニトラニスまで足を運ばせていただきます」

「楽しみに待ってます」

 ちょっと淋し気だったセーラの表情が明るい笑顔になったのを見て、クーデノムも満足気に笑った。

「クーデノム様」

 繋いだ手を勢いよく引っ張られ、少しかがんだ瞬間、頬に温かい彼女の唇を感じた。

「約束ですよ」

 屋敷から彼女を探しているのかキョロキョロと辺りを見渡しながらエイーナが現れ、クーデノムとセーラの姿を見つけると中に何やら合図を送っている。意表をつかれ固まっていたクーデノムは何とか思考を取り戻しゆっくりと繋いでいた手を放した。

「ほら戻りなさい」

 優しく彼女を見送る。

 建物の前に一台の馬車が停車した。建物から現れたコセラーナはセーラと離れて佇
むクーデノムに気付き、片腕を上げて挨拶を示し、クーデノムは頭を下げてそれに応
えた。
 その隣には朱金の髪の女性。セーラとよく似た面差しからテニトラニスの王妃だろ
う。
王妃という身分でありながら駆け寄ったセーラと共に軽く礼をしてきた姿にクーデノ
ムは深々と頭を下げテニトラニスの王族に対して好印象を強く持った。
 彼らの乗った馬車が見えなくなった頃を見計らっていたのか、隣に佇む長身の青
年。
「北陸まで足を延ばすのか。当分、帰れそうにないなぁ」
「……いつからいた?」
「俺の仕事はクーデノム様の護衛なもので」
 しれっと答える様子からセーラと会った辺りからずっと見られていたんだろうと思考し、…溜息をついた。
「勝手に決めて悪かったな」
「いや、面白そうじゃん。北陸もたぶん行くとは思っていたし」
「え?」
「リサニルに、名酒を買い付けに」
「あぁ…それもアリだな」
 そんな他愛のない話をしながら、後処理の残った仕事場へと戻っていった。

  

 それから1ヶ月後。

船で海を渡り、テニトラニスの港に着くと、彼ら待っていたらしい男が近寄ってきた。

クーデノムも何となく見覚えがあることから、クスイの国の者だろうが名前までは判らない。

「クーデノム様、王より書を預かっております」

と差し出し出されたのは妙に豪華な文箱。

クーデノムは受け取り、箱はマキセに持たせて中の手紙を開き見た。

読み終わるまで数秒。

沈黙の中、クーデノムが苦笑して呟いた。

「………やられた」

「どうした?」

「……先を越された、テニトラニス王に」

マキセが書面を覗き見る。

「テニトラニスへの留学を許可っていうか、遊学のお世話をしたいと言ってきたから、世話になれ、と書いている」

ルクウートで別れたテニトラニス王は、1ヶ月の間にクーデノムの意志より先にクスイ国王の許可を勝ち取ってきたワケだ。

クーデノムが数日ではなく、長期に渡ってテニトラニスに滞在するように。

【つづく】



次が最終話でーす。

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2010/08/20 09:24
拝見




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