Nicotto Town


「時のかけら」


創作小説「封夢宮」(4/10)

「封夢宮~龍の眠る宮~ 


4

 体を起こして立ち上がる。手足は幸いなことに縛られていなかった。扉はというと……鍵は掛けられているか、内側からは簡単に開く扉だった。よっぽど慌てていた様子がありありと判ってしまう。
 神殿の一室から抜け出した洸水か見た風景は――。
 荒れ狂う天候と湖。
 雷光が轟き、大粒の雨が大地に降り注ぎ湖に流れ込む。風が波を造り、湖岸へと押し寄せる。
 二十数年この村に暮らしているか、これ程荒れ狂った景色を見るのは初めてだった。
 大雨で散り散りに逃げ去った誰もいない祭壇の上に、濡れるのをお構いなしで立ち尽くしているひとつの影を見つけた。 
「炎朱……」

 トンと肩を叩かれて振り向いた。いつの間にか洸水がすぐ背後に立っているのを見て我に返った。
 雨と共に頬を伝う温かいものに、ようやく今、自分は泣いているのを知った。
「水愛は……水愛はどうなったんだよ!?
 総てを吐き出す思いで、洸水に問いかける。
 聞いても解決出来ないことは判っている。
 それでもそうせずにはいられない、誰かに思いをぶつけないと狂いそうな気がしたのだ。
 一番大切なものを突然奪われた悲しみより、大切なものを守り切れなかった自分への憤りが胸の中で行き場を無くし渦巻いている。
「どうして水愛が………!?
 激しく洸水の胸を打った炎米の拳を洸水は取った。
「お前が白暴自棄になってどうするんだ。彼女を助けるのはお前の役目だろう!」
 厳しい口調。
「水愛は水龍の巫女だ。絶対、大丈夫だ」
 炎朱の真紅の瞳を真正面から見て、力強く言い放つ。彼の青い瞳にも動揺の色は隠し切れていない。それでも意志の強さは伝わってくる。大丈夫であることを信じて疑わない。
信じなければ、救えるものも救えない。
 まだ泣くのは早いのだと。
「……洸水……」
 少し落ち着きを取り戻した炎朱。だが、洸水を見てはっきりと宣言する。
「今から、すぐ、水愛を見つけ出してくる」
「……え……!?
 止める間もなく走りだした彼。
「炎朱、やめろ。炎朱ー!!
 聖域である湖。
 今まで幾人かの者か湖底へと向かったか、誰ひとりとして生きて戻った者はいない。数日後に湖岸へと流れ着くのだ、変わり果てた姿で。船で沖へ出る分は何ともないのだが、潜り底へ向かった者は助からない。
 それが、今ではもう伝説と化していた水龍がまだ存在していると思わせていた出来事なのだ。
 その湖に飛び込もうとしている。
「炎朱!」
 洸水の制止する叫び声を無視して、勢いよく祭壇から飛び込んだ。
 荒れ狂った波は瞬く間に彼の姿を呑み込み消していった。
「…………」 
 轟く雷鳴を耳に洸水は祭壇に佇む。
 このまま、二人とも戻って来なかったら……。
 そう思うと何も考えられなかった。
 無邪気な彼らを護りたくて、物心ついた時から、自分には持っていなかった無垢な無邪気さを護りたかった。
 ただ、自分の心休まる時が欲しかったためだけかもしれないが、でもそれが真実なのだ。
 大切に思う心に偽りさえなければ。
 ただ祈ることしか出来ない。
「どうか無事で………」
 一際大きく雷鳴が響く。
「そうだ」
 何かに気づいたようにして振り返り、祭壇を降りて行く。
『村長と神主官が龍の出現を知っていた。ならば、水龍に関する文献がどこかにあるはずだ』
 そのまま真っすぐに神殿の書庫へと向かう。
 どこかに関するものがあるはずだ。絶対見つけて見せるとの思いで重々しい扉を開いた。
 そして、古びた一冊の本を見つけたのは、まだ嵐のような天候が続いていた翌日の早朝だった。

                    

 水底にある大きな神殿はすぐに見つかった。
 石床には眠るように水龍が長い身体を丸めて横たわっていた。
 水龍に守られるように中心で瞳を閉じている被女の姿が見て取れた。
 生きているのかそれともすでに息絶えているのかも判らない。
『水愛』
 呼び掛けてみる。
 水中なので声は出ない。心に強く思うだけ。しかし、その声に反応して瞳を開いたのは水龍の方だった。
 突然の訪問者である炎朱をじっと見つめた。透き通った青い目が水愛を連想させた。
 すっと水龍が首を持ち上げると同時に巻き起こった水圧に耐えた炎朱だったが、ふっと呼吸が楽になるのを感じた。
 水中の中にいるのに、呼吸が出来る。
「……ありがとう」
 水龍の力だとすぐに判り、とりあえずは謝辞を口にする。呼吸困難で死んでは意味がない。
「水愛を返してくれないか?」
 水龍の頭の側まで寄って語りかける。不思議と恐ろしさは感じなかった。

【つづく】


第4話をお届けですww
今回の話は裏設定はほとんどないので素直にお読み下さればと思いますww

アバター
2010/11/10 02:09
水愛に身寄りがないことから、出生も気になってしまいます
水龍と何か関係があるのかな・・・なんて思ってみたり
最後を読むと、水龍に敵意が見えないので安心しました

水愛、朱炎、洸水の三人は幼馴染なのかしら・・・
とても良い関係のようで、彼らの幼少時代まで読んでみたい気になります

が、まずは今、この先の続きが気になります~
楽しみに待ってます^^
アバター
2010/11/09 23:19
水龍は話すことが出来るんですかね。
最後の文を読むと、水龍は悪い奴では無いんでしょうか。
アバター
2010/11/09 23:02
水龍と水愛の関係はなんだろう?
化身?
よりしろ?(あ、同じか?w)

しかも、彼氏が炎だしなぁw
アバター
2010/11/09 22:29
こんばんは^^
こんなに想われて、水愛が羨ましいですw
続き、楽しみにしてます☆




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.