Nicotto Town


ふぉーすがともにあらんことを、あなたにも。


ある日森の中で

マリア王妃は森の中を歩いていました。

馬車を連れて、従者とともに。

2~3人の従者と、数十人の護衛と。

すると、向こうから見知らぬ偉丈夫と見られる
人が近づいてきました。

その男はいいます。

「やあ」

マリア王妃は、はっとして、

「なにかしら?」

と数人の従者に向かって小声で話しかけました。

すると、1人の従者がいいます。

「彼の見ゆるは、ハフスブルグ選帝侯ジョージ2世に
あられます。姫様、ご挨拶の用意を」

また、別の従者が言います。

「彼の見ゆるは、近々、セントベルタイン城の
クリスティーナ王妃とご結婚の約定を申し込まれた
ばかりのものでございます。

やよ、近々早朝の御散歩に出かけられたのでしょう。
ゆめゆめ、姫様も注意なさいまし。彼のものは
我が姫様との接触を赦されておりませんので。

軽く、ご挨拶だけなさって、とっととかわしてしまうのが
良策でありましょう」

まわりでは数人の従者と数人の兵士が
ヒソヒソ話す声が聞こえます。

「奴は相当な美男らしいぞ。

歳20も行かんが彼の領地でも早々と当主の座を
射止めたお方でな、……」

あるいは、

「うちの姫様になにか用なのかしら。
こんな早朝から御散歩に出かけられるなんて」

とも。

ここベルリッツ近郊はハフスブルグ領で
小高い丘に囲まれた森林地帯で、

城は数個あるものの、
大きな市街地などはなく、

ここ一帯は彼ジョージ2世の父親
エドワード公の時代に領地に封じられた
ドイツ一帯に広がる森林地帯なのでした。

ちかくにはハンフスキーの市街地や、
ラボルディの街など、

領地にはとても小さいが、
統治するには十分の領地が
ところせましと点在しているのでした。

ジョージ公は帯剣を失くしたと見えて、
私より早く早朝から2,3人の従者を引き連れて
森の中を剣のために探し回っているようです。

「やぁやぁ、昨日の狩りで剣を落としてしまってな。
こうして探しておるのだよ」

ジョージ公は仰せられました。

マリア王妃は曰く、
「ジョージ公殿にはご機嫌麗しゅうございまし。
こんな早朝からなんですの?

2,3人の従者しかおりませんのに
私どももびっくりしております。

近隣のものだけで、お目通り願うご無礼を
どうぞお許しくださいまし。

帯剣の件で御座いましたら私どもの
城の者を動員いたしまして、

すぐにでも広く探させましょう。

すぐに見つかるよう、お祈りしておいて
申し上げますわ」

ジョージ公は言った。

「いやいや、心配には及ばんよ、
父上から賜わったとはいえ、

たかが我がブルジョワ家に伝わる
王剣。そのやんごとなき切れ味や、

すぐに見つかるであろう」

マリア王妃の従者が言うに、

「あのお方は少し酔って御座います。
ここは私どもにお任しくださいませ」

マリアはこう問い返して、

「何を言ってるのエリザベス。
あなたの身でジョージ公に
顔向け出来る訳がありませんでしょうに。

ここは一度、皆で捜索するとしましょう。
ほら、そこにいる者たち、一緒に探すのです。

ここはこう取り繕うしかないのですよ」

マリアを取り囲んだ数十人の兵士たちは
やんややんや言うに、

「姫様の言うことにゃぁ、逆らえないなぁ、
ジョージ公の帯剣じゃぁ、日が暮れるまでに
探すといたしやしょう。

大して報酬も期待できやせんが、
これも仕方ないですたい」

と北訛りの喋り方で兵士の一人が言う。

またもう一人の兵士が言うにおいては、

「マリア王妃様、ヘンリー王からのお達しにおいては、
御行幸中の他の城のものとの接触は禁じられて
おります。ここは適当に流して、とっとと城のもの
に探させましょう」

彼は流暢な公用語の訛りで言う。

「いくら隣城のジョージ公の仰せられることだから
といって、無理やり従わされる義理は御座いませぬ。

どうがここはご賢明な御指示を。

ねがわくば私どもにお探させください。

マリア様においてはこのまま
数人の従者とともにべリドラドの城へ
きりのいいところでお帰りくださいますよう
強くお願い致します。

なにとぞ、ご賢明な判断をとぞ」

彼は宮廷の警備隊長をまかされている
マウリッツオという28くらいの男だった。

まあ、マリアは彼のことについては
何も思ってないわけだが。

マウリッツオは数十人の部下に指示して、
「おい、彼のジョージ公の御帯剣とやらを
探しに行こうではないか。

見つかりし明かりには、
我が上属のベンリ師に上奏して
褒美をたんまりととらせようぞ。

さあさあ、者ども働けい」

マウリッツオは威勢よく部下の兵士たちに
指示を飛ばした。

は、いいものの肝心のジョージ公は蚊帳の外である。

「ううむ。彼のものたちはぺちゃくちゃ何を話しておる。
我が問いに答えてはいないではないか」

彼は何事か従者のものに下知したみたいで、
私にこう問いかけた。

「マリア殿についてはご機嫌麗しゅう。
我が領地からはほど遠いのだがな。

直属のものたちに帯剣を探すよう命じられたようで、
御心遣い、感謝致す。

私の心として、光栄でありまする」

という若干いやらしさにも満ちた言い方で、
こう云うのであった。

私はひょん、として

「ジョージ様におかれましては
まことに偉丈夫の方とお聞きしておりますわ」

と言った。

「なんでも、ベルリッツのご封地におかれましては、
酒樽20樽を持ち上げるたいそう強いお力の持ち主だとか。

侍女や従者のものから常々ご噂は伺っておりますわ」

ジョージ公が言うに、

「いやぁ、なんのその、酒樽は2つなんですよ。
20というのは民のでっちあげですぁ」

と、いかにも馴れ馴れしい口調で私に言うので
あった。

時はあいまって、

「そういえば、剣は…」と私が言いかけた時、

20ルンド(20メートル)先に見える、かすかに
光る帯剣とおぼしき御剣が見えた。

私は、

「彼に光るは、ジョージ様のご帯剣ではなくて?」

というと、

従者たちが、

「やんや、我のものなり」

あるいは、

「我こそ、ジョージ公に捧ぐる御剣を手に入れる者なり!」

「我こそが、ご褒美に預かる者ぞ」と、

言わんばかりに剣に向かい争い始めた。

私は、涼しい顔をして、

つかつかと剣に歩みより、

「これが彼のいう宝剣では
あらせられなくて?

ほら、どうぞ」

と言わんばかりにジョージ公に捧げた。

マリア王妃の、その美しい髪を見るに、

ジョージ公は、

「いやぁ、これはご苦労であった。
あとでベルドラドの城の者に褒美を
とらせるよう、こちらから通告いたしておく
といたす。いやぁ、ご苦労であった。

そのお美しい御姿、またどこかで
拝見できればと……」

と、仰ったが、話半分で私は
話を切り上げてしまった。

「それでは、そこの共々の者とともに、
そろそろベリドの城に戻らせていただきますわ。

閣下にはご機嫌麗しゅう」

とだけ言って、そこを後にするつもりだった。

朝焼けには、ベルリッツの日が天高く昇る。
私の一行は、城に帰ることにした。



END





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