Nicotto Town



OSHIRA ①

燕飛ぶ空

映す水面に

薄氷(うすらひ)の張る

霜月の

風の音を追い

舞う竜胆

花弁を散らし枯野を包む

何処へと問う我が言葉

何処へと追う我が身とぞ

もしも願いが叶うなら

届いておくれや

愛しき胸に





ぱちぱちぱち

「いやいや、瑠璃や。天晴な歌声じゃ。」

「恐れ入ります。」

「しかし、不思議な歌じゃな。霜月に燕が飛ぶとは。竜胆もその頃にはとうに枯れて居ように。」

「・・・御満足、頂けませんでしたか?」

「いやいや、それとこれとは話は別じゃ。」

「では!」

「うむ。約束じゃ。何でも欲しい物を言え。」

「あ、有り難う御座います!」

「何じゃ?それ程、嬉しいか。」

「はい!」

「これは、これは。美貌に恵まれ、更にその美声。しかも、この盛岡藩十万石次期藩主、南部利謹の姫にして、まだ何をか欲しがるとは。女と言う物は、欲深な物だのう。」

「千青(せんじょう)を頂きとう存じます!」

「何?馬を?」

「はい!」

「・・・女だてらに、馬など得て、何とする。」

「いけませぬでしょうか。」

「いかんとは言わぬがな。」

「では!」

「待て待て、慌てるな。儂に二言は無いわ。千青は下賜して遣わす。」

「あ、有り難う御座いまする!」

「ははは。可笑しな奴じゃのう。」






「・・・殿。」

「おう、戸田。丁度良かった。厩別当の御主に、ちと用があっての。」

「・・・瑠璃姫が、千青を御所望になったとか。」

「何じゃ。知っておったのか。ならば、話は早い。」

「これは、由々しき事ですぞ。」

「何じゃ。何ぞ、拙い事でもあるのか?」

「ちと、御耳を拝借。」

「ん?」

「・・・」

「な、何とぉ!?」






「ああ・・・千青・・・千青・・・」


ぶるる・・・

「漸く、御父上から・・・貴方を貰い受ける約束を、取り付ける事が出来ました・・・」

ぶふぅ・・・

「これで、夜に忍び、そなたに会いに来ずとも良くなる・・・ずっと、一緒に居られるのです・・・!」

ふぅ・・・ふぅ・・・

「千青・・・千青・・・」

ひぃん・・・!

「道ならぬ想いなれど・・・」

ひん・・・ひん・・・!

「ああ・・・我が夫(つま)よ・・・!」

ひひいぃん!







「御父上様が、膳を共にして下さる等、珍しゅう御座いますね。」

「何、偶には、良かろう。」

「・・・ところで、父上。」

「早う喰え。汁が冷めるぞ。」

「あ、はい・・・」

「この刺身は、中々口に出来ん珍味でな。」

「あの・・・父上・・・」

「ほれ、たんと喰うが良いぞ。姫。」

「はぁ・・・そ、その・・・!」

「何かな?」

「せ、千青は、いつ、私に下さりますのです!?」

「食事中に口を利く無作法は、教えて居らぬ筈だが。」

「も、申し訳ありませぬ・・・」

「まあ、良い。本日は歓談をしとうて、同席を求めたのじゃからな。」

「お、恐れ入ります・・・」

「で、姫。」

「は、はい?」

「その、刺身は旨いか?」

「え、は、はい・・・その、大変、美味しゅう御座います・・・」

「はははは。そうか。旨いか!」

「・・・御父上様?」

「さもあろう!何せ・・・」

「何を仰って・・・」

「欲しゅうて欲しゅうて、仕方の無い物、だった様じゃし、の。」

「・・・え?」

「確かに千青、姫に”やった”ぞ。」

「・・・まさか!」

「ははははははははは!」

「ち、父上様!父上様!?」

「ははははははははは!」

「う、嘘ですよね!?嘘だと仰って!」

「旨かろう!旨かろうが!」

「父上様ぁっ!」

「愛しい”男”の肉は!」

「うっ・・・!うげぇぇっ!げえぇっ!」

「はははははははははは!」








はぁ・・・はぁ・・・

「ああ・・・千青・・・千青・・・」

はぁ・・・はぁ・・・

「もっと・・・もっとです・・・千青・・・」

はぁ・・・はぁ・・・

「せ・・・千青・・・そんなに・・・激しく・・・」

はぁ・・・はぁ・・・

「せ、千青・・・!瑠璃は・・・瑠璃はもう・・・!」

たん!

「ひ、姫様!?何をしておいでで・・・!」

ぶるる・・・

「ひっ!?」

ひひいぃぃぃん!

「ひいぃぃ!ば、化け物おぉ!」

だだだだだだ!

「み、皆皆様!御出会いなされ!御出会いなされ!化け物じゃ!う、馬の、化け物じゃあぁぁ!」

「はぁ・・・千青ぉ・・・」

ぶるる・・・

「愛しい・・・おとこ・・・」





「ひ、姫が!?」

「・・・はい。御懐妊で御座います。」

「姫は嫁入り前の身だぞ!?」

「・・・御心中、お察し致します・・・」

「ええい!察してくれなくても良いわ!」

「は、ははぁっ!」

「な、何とかして堕ろす事は!?」

「・・・姫は御身体がお弱く居られますから、堕胎はちと、障るかと・・・」

「ちと、程度ならば・・・!」

「御命に、関わらぬとも・・・」

「な・・・!」

「堕ろしませぬ。堕ろさせよう等とは、許しませぬ。」

「ひ、姫!」

「だって、このややは・・・」

「姫・・・」

「姫様・・・!」

「”千青”との、愛の結晶、ですもの。」

「ば、馬鹿な!そんな馬鹿な!」

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。」

「ひいぃぃぃぃ!」






後に南部利謹は、乱心として継嗣の座を剥奪され、後、盛岡に引き籠って暮らした、と言う。





[つづく]

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2015/01/29 20:44
はい。

久々の、ちょっと長い話(中編程度)に挑戦。

いきなり、コレです(笑)

因みに、冒頭の歌は・・・

別作品にて、時々登場させる歌、飛燕。

作詞、龍造寺某(佐賀藩藩主の座を継ぐべき人ながら、朝鮮出兵で戦死)、作曲、丸目蔵人佐(上泉伊勢守の四高弟の一人)。

もちろんフィクションなんですが、ね。

この歌には、恐るべき秘密が隠されているのですが・・・

この話とは全く関係ありません(笑)

その秘密を御知りになりたい方は、Eエブリスタの「地下猫ミィア」をお読みください(笑)

宣伝かよ(笑)



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