Nicotto Town



タイムパトロール・江美

「待ちなさいっ!」

深夜の住宅街。
逃げる男。
追う娘。
駆け抜ける、二つの影。

「ど、何処!?何処行ったの!?」

しかし、娘は男の背中を見失う。
その時。

”あっちだ江美!”

男の姿を示す、姿無き人物。

「えっ!?いないよ!?」

”そこの塀の隙間に滑り込んだんだ!くそっ!素早いな!”

「”お父さん”、スポーツはからっきしだけど、反復横跳びだけは得意だったって言ってたから・・・」

”何だよその謎特技!”

ともあれ、”二人”は男を追った。

”あいつ、この時代で一体何をするつもりなんだ・・・”

「・・・」

娘・・・江美には、解り様が無い。
兎に角、”父の身体を操っているタイムトラベラー”を、一刻も早く捕まえない事には・・・




話は、一時間程前に遡る。





「み、未来人!?」

夜中、就寝中の頭の中に突如響いた”声の人物”の自己紹介に、江美は声を挙げて飛び起きた。

”そう。この時代から約200年後の世界の住人だ。”

姿無き人物(どうやら若い男らしい)は、そう説明を継ぐ。

「え?じゃあ、何?今から200年後、タイムマシンが発明されるの?」

何だか三文SF小説みたいな話だな、と江美は思ったが、それは口にしなかった。

”ただ、人体を含めた物質の時間移動は不可能なんだ。”

「そうなの?」

”我々は「パラドックス補正」と呼んでいるが、物質が時間を超越してしまうと、物理的に矛盾が生じやすいせいだと思われる。兎に角、時間移動が可能なのは「精神体」、つまり魂のみだ。”

「はぁ・・・」

”更に、未来には移動出来ない。”

「何で?」

”どの時間に於いても、「現在」に対する「未来」は、無数無限の「存在可能性」でしかないからだ。それが取捨選択され、一つに絞られて「時間経過によって訪れる現在」が漸く確定する、それが「未来」と言う物だ。未来に行こうとすれば、「無限の可能性の海」に放り出されてしまうんだ。”

「・・・へぇ。」

なんのこっちゃ、さっぱり解からない。

”君達の時代にとっての僕も、「無数の存在可能性」からの顕現の一つに過ぎない。だから時間移動の際は、「自分の存在可能性」を確定し易い人物等を媒介にする必要がある。”

「それが、あなたにとっての私ってワケ?」

”まぁ、そうだね。”

「何で私なの?」

”通常は、自分の先祖とか、そう言った人物が「存在可能性確定因子」な訳だけど・・・”

「え?じゃあ、あなたは私の子孫?」

”いや、今回はそう言う訳じゃなくて・・・”

「?」

何だか、自称未来人の歯切れが悪い。
と、突然。

がたん。

自宅の階下、玄関で音がする。

「あれ?こんな時間に・・・お父さんかな?」

”しまった!”

未来人が叫ぶ。

「な、何?何なの!?」

”僕は、無許可のタイムトラベラーを追って来た保安員なんだ!”

「はぁ?」

”魂のみのタイムトラベラーは、現地の人間に憑依し、操って、活動を可能にする!今回の場合、君のお父さんだ!許可を得たトラベラーは監視対象だからそんな事は出来ないんだが・・・!”

「え!?ちょっと待って?」

”一体何をするつもりか解らんが、下手な事をされるとパラドックスが起こってしまう!”

江美にとって、パラドックスはどうでもいい(って言うか良く解らない)が。

「じゃあ、お父さんが未来の犯罪者に操られてるって事!?」

取り敢えず、重要なのは、そこだ。

”江美!追ってくれ!何をしでかすか解らん!”

「言われなくたって!」

取り急ぎ、江美はパジャマのまま家を飛び出した。





”くそっ!見失った!”

未来人が歯噛みする。

「・・・」

江美は、いきなり夜中に叩き起こされた上に、散々走り回らされ、疲労困憊だ。
そして。

ぐぅ~・・・

「うぅ・・・」

鳴った腹を押さえ、顔を真っ赤にする。

”腹を減らしてる場合じゃないぞ!”

「未来人にはデリカシーって物が無いの!?聞こえないふりしときなさいよ!」

”兎に角、早く奴を・・・おい!何見てる!”

空腹の江美の視線は、路上の屋台のラーメン屋に釘付けになっている。
醤油スープの香りが、まるで手招きでもするように誘う。

”お、おい!こら!”

江美はふらふらと屋台に歩み寄り・・・
と。

「・・・え?」

”あっ!”

屋台には先客があった。
彼は、未だラーメンを口から垂らしつつ、目を丸くして振り向いた。

”ポチョムキオ田中メテオ!無許可時間超越罪で逮捕する!”

江美の父に憑依した時空犯罪者は、あえなく御用となった。

「・・・」

とりあえず、江美の脳裡は、半分がラーメン、半分がタイムトラベラーの珍妙な名前についての考察で占められていた。






「・・・つまり、ポチョムキンは現代のラーメンが食べたかっただけだった、って事?」

”ポチョムキオ田中メテオ、な。”

一ヶ月後。
未来人の保安員からその顛末を聞いた江美は、開いた口が塞がらなかった。

「未来にはラーメン無いの?」

”あるにはあるが、ちょっとした贅沢品でね。高級中華料理屋でも行かないと口に出来ない。”

「・・・」

江美は、そう言えば現代に於ける寿司も、江戸時代には屋台で手軽に食べられた物だったと歴史の授業中、教師が脱線して語っていた、と、その事を思い出していた。

”ま、パラドックスを引き起こすような大それた事をした訳じゃ無いし、罰金刑だけで済んだんだが・・・それが悪かったよ・・・”

「悪かった?」

”あいつ、この時代のラーメンがいたくお気に召したらしくてね・・・”

「まさか・・・」

”周囲に喋りまくったもんだから・・・そんなにうまいなら、ってんで、ラーメン喰う為に、また無許可のトラベラーが・・・今回は5人も・・・”

「・・・で?」

その先を察した江美は、諦観の溜息と共に促した。

”・・・その・・・また、協力・・・お願い出来る?”

「・・・それはいいんだけどね。」

まぁ、未来から来た時空保安員の協力者なんて、なかなかカッコいいかもしんない、と考えた江美は、満更でも無い。
が。

「・・・何で、私なワケ?」

”だから、それは・・・”

「あなたの存在可能性確定因子なのは解かったわよ。」

”あ、ちゃんと理解してたのか。”

「・・・私、お馬鹿ちゃんだと思われてたの?」

”あ、い、いやその。”

「でも、私はあなたの先祖って訳じゃ無いんでしょ?じゃあ、どうして・・・」

”・・・実はね。”

未来人は、渋々と言った態で語った。

”タイムマシンを発明するのが・・・君の子孫なんだ。”

「・・・はい?」

”つまり、君は格好の、タイムトラベラーの存在可能性確定因子なのさ。”

「・・・えー・・・と・・・」

そして江美は。
それにより、一つの可能性を思い浮かべた。

「それ、”未来からのタイムトラベラー”・・・つまり、あなたと接触した事が関係したりしない?」

”・・・”

「・・・」

”あああああああああああ!”

江美は、呆れて物が言えなかった。






[完]




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2015/02/28 08:35
この二人が恋をしたら、と考えてしまった。

あぁ、披露じゃなくて疲労w(そこですか!?って感じ)



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