タイムパトロール・江美
- カテゴリ:自作小説
- 2015/02/27 15:27:27
「待ちなさいっ!」
深夜の住宅街。
逃げる男。
追う娘。
駆け抜ける、二つの影。
「ど、何処!?何処行ったの!?」
しかし、娘は男の背中を見失う。
その時。
”あっちだ江美!”
男の姿を示す、姿無き人物。
「えっ!?いないよ!?」
”そこの塀の隙間に滑り込んだんだ!くそっ!素早いな!”
「”お父さん”、スポーツはからっきしだけど、反復横跳びだけは得意だったって言ってたから・・・」
”何だよその謎特技!”
ともあれ、”二人”は男を追った。
”あいつ、この時代で一体何をするつもりなんだ・・・”
「・・・」
娘・・・江美には、解り様が無い。
兎に角、”父の身体を操っているタイムトラベラー”を、一刻も早く捕まえない事には・・・
話は、一時間程前に遡る。
「み、未来人!?」
夜中、就寝中の頭の中に突如響いた”声の人物”の自己紹介に、江美は声を挙げて飛び起きた。
”そう。この時代から約200年後の世界の住人だ。”
姿無き人物(どうやら若い男らしい)は、そう説明を継ぐ。
「え?じゃあ、何?今から200年後、タイムマシンが発明されるの?」
何だか三文SF小説みたいな話だな、と江美は思ったが、それは口にしなかった。
”ただ、人体を含めた物質の時間移動は不可能なんだ。”
「そうなの?」
”我々は「パラドックス補正」と呼んでいるが、物質が時間を超越してしまうと、物理的に矛盾が生じやすいせいだと思われる。兎に角、時間移動が可能なのは「精神体」、つまり魂のみだ。”
「はぁ・・・」
”更に、未来には移動出来ない。”
「何で?」
”どの時間に於いても、「現在」に対する「未来」は、無数無限の「存在可能性」でしかないからだ。それが取捨選択され、一つに絞られて「時間経過によって訪れる現在」が漸く確定する、それが「未来」と言う物だ。未来に行こうとすれば、「無限の可能性の海」に放り出されてしまうんだ。”
「・・・へぇ。」
なんのこっちゃ、さっぱり解からない。
”君達の時代にとっての僕も、「無数の存在可能性」からの顕現の一つに過ぎない。だから時間移動の際は、「自分の存在可能性」を確定し易い人物等を媒介にする必要がある。”
「それが、あなたにとっての私ってワケ?」
”まぁ、そうだね。”
「何で私なの?」
”通常は、自分の先祖とか、そう言った人物が「存在可能性確定因子」な訳だけど・・・”
「え?じゃあ、あなたは私の子孫?」
”いや、今回はそう言う訳じゃなくて・・・”
「?」
何だか、自称未来人の歯切れが悪い。
と、突然。
がたん。
自宅の階下、玄関で音がする。
「あれ?こんな時間に・・・お父さんかな?」
”しまった!”
未来人が叫ぶ。
「な、何?何なの!?」
”僕は、無許可のタイムトラベラーを追って来た保安員なんだ!”
「はぁ?」
”魂のみのタイムトラベラーは、現地の人間に憑依し、操って、活動を可能にする!今回の場合、君のお父さんだ!許可を得たトラベラーは監視対象だからそんな事は出来ないんだが・・・!”
「え!?ちょっと待って?」
”一体何をするつもりか解らんが、下手な事をされるとパラドックスが起こってしまう!”
江美にとって、パラドックスはどうでもいい(って言うか良く解らない)が。
「じゃあ、お父さんが未来の犯罪者に操られてるって事!?」
取り敢えず、重要なのは、そこだ。
”江美!追ってくれ!何をしでかすか解らん!”
「言われなくたって!」
取り急ぎ、江美はパジャマのまま家を飛び出した。
”くそっ!見失った!”
未来人が歯噛みする。
「・・・」
江美は、いきなり夜中に叩き起こされた上に、散々走り回らされ、疲労困憊だ。
そして。
ぐぅ~・・・
「うぅ・・・」
鳴った腹を押さえ、顔を真っ赤にする。
”腹を減らしてる場合じゃないぞ!”
「未来人にはデリカシーって物が無いの!?聞こえないふりしときなさいよ!」
”兎に角、早く奴を・・・おい!何見てる!”
空腹の江美の視線は、路上の屋台のラーメン屋に釘付けになっている。
醤油スープの香りが、まるで手招きでもするように誘う。
”お、おい!こら!”
江美はふらふらと屋台に歩み寄り・・・
と。
「・・・え?」
”あっ!”
屋台には先客があった。
彼は、未だラーメンを口から垂らしつつ、目を丸くして振り向いた。
”ポチョムキオ田中メテオ!無許可時間超越罪で逮捕する!”
江美の父に憑依した時空犯罪者は、あえなく御用となった。
「・・・」
とりあえず、江美の脳裡は、半分がラーメン、半分がタイムトラベラーの珍妙な名前についての考察で占められていた。
「・・・つまり、ポチョムキンは現代のラーメンが食べたかっただけだった、って事?」
”ポチョムキオ田中メテオ、な。”
一ヶ月後。
未来人の保安員からその顛末を聞いた江美は、開いた口が塞がらなかった。
「未来にはラーメン無いの?」
”あるにはあるが、ちょっとした贅沢品でね。高級中華料理屋でも行かないと口に出来ない。”
「・・・」
江美は、そう言えば現代に於ける寿司も、江戸時代には屋台で手軽に食べられた物だったと歴史の授業中、教師が脱線して語っていた、と、その事を思い出していた。
”ま、パラドックスを引き起こすような大それた事をした訳じゃ無いし、罰金刑だけで済んだんだが・・・それが悪かったよ・・・”
「悪かった?」
”あいつ、この時代のラーメンがいたくお気に召したらしくてね・・・”
「まさか・・・」
”周囲に喋りまくったもんだから・・・そんなにうまいなら、ってんで、ラーメン喰う為に、また無許可のトラベラーが・・・今回は5人も・・・”
「・・・で?」
その先を察した江美は、諦観の溜息と共に促した。
”・・・その・・・また、協力・・・お願い出来る?”
「・・・それはいいんだけどね。」
まぁ、未来から来た時空保安員の協力者なんて、なかなかカッコいいかもしんない、と考えた江美は、満更でも無い。
が。
「・・・何で、私なワケ?」
”だから、それは・・・”
「あなたの存在可能性確定因子なのは解かったわよ。」
”あ、ちゃんと理解してたのか。”
「・・・私、お馬鹿ちゃんだと思われてたの?」
”あ、い、いやその。”
「でも、私はあなたの先祖って訳じゃ無いんでしょ?じゃあ、どうして・・・」
”・・・実はね。”
未来人は、渋々と言った態で語った。
”タイムマシンを発明するのが・・・君の子孫なんだ。”
「・・・はい?」
”つまり、君は格好の、タイムトラベラーの存在可能性確定因子なのさ。”
「・・・えー・・・と・・・」
そして江美は。
それにより、一つの可能性を思い浮かべた。
「それ、”未来からのタイムトラベラー”・・・つまり、あなたと接触した事が関係したりしない?」
”・・・”
「・・・」
”あああああああああああ!”
江美は、呆れて物が言えなかった。
[完]
あぁ、披露じゃなくて疲労w(そこですか!?って感じ)