YOU・・・
- カテゴリ:自作小説
- 2015/12/20 19:49:38
1.
「ご、ごめん!待った!?」
彼は時間にルーズなタチじゃない。
けれど。
「い、いや家出たらガスの元栓閉めてなかったの思い出してさ!慌てて引き返したら釘に引っ掛けてシャツ破いちゃってさ!着替えようとしたら洗濯さぼっちゃってて替えが無くてさ!そ、それから、その・・・!」
徹底的に、ドジなのだ。
「小説。」
「・・・え!?」
「一本、読み終えちゃったわ。」
「ほ、本当にゴメン!」
現在、九時三十五分。
毎回、ほぼ三十分遅れて来る彼。
それでも、私は。
待ち合わせの時間通りにいつもの場所で、待っている。
「お、怒ってる?」
三十分。
この、彼の表情を思いながら。
本の文面なんか、そっちのけで。
笑いを、こらえて。
2.
「す、すみません!」
昼食のために入ったファミレス。
「あ、あのっ!こっち!すみません!」
声を挙げる彼の前を、ウエィトレスが通り過ぎる。
「ちょ、ちょっと・・・おーい!」
彼は、こう言うタチだ。
スルーされがち、と言うか。
目立たない、と言うか。
さっき、この店に入った時も。
テーブルに置かれたお冷は、一つ。
私の分だけ。
「ち、注文・・・!」
ぴん・・・ぽーん。
「あ。」
彼は目を丸くして振り向き。
私の手と、それが押している呼び出し用のボタンを凝視する。
「ひ、人が悪いなぁ。そう言う物があるなら、もっと早く・・・」
だって。
あの姿。
目立たない、あなた。
「ふふふ・・・」
私だけが、あなたを見付けられると、そう感じる事が出来るから。
3.
「う~ん・・・なぁ・・・」
午前2時。
また、始まった。
「どうして、そう・・・なんだよぉ・・・」
彼の、寝言。
「・・・」
傍らで寝ている身としては、たまったもんじゃない。
毎晩、この時間起こされてしまうのは。
でも。
「・・・じゃないのぉ・・・ちがう・・・?」
私は彼を起こして黙らせたり、耳を塞いだりする事は無い。
だって。
「・・・さとみぃ・・・」
必ず、私の名前で、それが終わるから。
[完]