Nicotto Town



YOU・・・

1.

「ご、ごめん!待った!?」

彼は時間にルーズなタチじゃない。
けれど。

「い、いや家出たらガスの元栓閉めてなかったの思い出してさ!慌てて引き返したら釘に引っ掛けてシャツ破いちゃってさ!着替えようとしたら洗濯さぼっちゃってて替えが無くてさ!そ、それから、その・・・!」

徹底的に、ドジなのだ。

「小説。」

「・・・え!?」

「一本、読み終えちゃったわ。」

「ほ、本当にゴメン!」

現在、九時三十五分。
毎回、ほぼ三十分遅れて来る彼。
それでも、私は。
待ち合わせの時間通りにいつもの場所で、待っている。

「お、怒ってる?」

三十分。
この、彼の表情を思いながら。
本の文面なんか、そっちのけで。
笑いを、こらえて。




2.

「す、すみません!」

昼食のために入ったファミレス。

「あ、あのっ!こっち!すみません!」

声を挙げる彼の前を、ウエィトレスが通り過ぎる。

「ちょ、ちょっと・・・おーい!」

彼は、こう言うタチだ。
スルーされがち、と言うか。
目立たない、と言うか。
さっき、この店に入った時も。
テーブルに置かれたお冷は、一つ。
私の分だけ。

「ち、注文・・・!」

ぴん・・・ぽーん。

「あ。」

彼は目を丸くして振り向き。
私の手と、それが押している呼び出し用のボタンを凝視する。

「ひ、人が悪いなぁ。そう言う物があるなら、もっと早く・・・」

だって。
あの姿。
目立たない、あなた。

「ふふふ・・・」

私だけが、あなたを見付けられると、そう感じる事が出来るから。







3.

「う~ん・・・なぁ・・・」

午前2時。
また、始まった。

「どうして、そう・・・なんだよぉ・・・」

彼の、寝言。

「・・・」

傍らで寝ている身としては、たまったもんじゃない。
毎晩、この時間起こされてしまうのは。
でも。

「・・・じゃないのぉ・・・ちがう・・・?」

私は彼を起こして黙らせたり、耳を塞いだりする事は無い。
だって。

「・・・さとみぃ・・・」

必ず、私の名前で、それが終わるから。








[完]




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