ささはらさん。
- カテゴリ:自作小説
- 2015/12/27 20:06:36
「では、新生徒会長の笹原美羽さんから御挨拶を。」
笹原さんは可愛い。
「只今、ご紹介に与りました。」
真ん中分けのセミロングの髪がかわいい。
「皆さんのご支持で生徒会長を。」
黒目がちの大きな瞳がかわいい。
「拝命いただきました。」
ピンクの頬がかわいい。
「笹原美羽です。」
声が、かわいい。
そう。
俺は、笹原さんに絶賛片想い中。
そして。
その想いは、もう届く筈も無い。
何故なら。
一年の時。
俺と笹原さんは同じクラスで。
当然、好きな相手と教室を供にしていれば。
視線は、そちらに向かうのが自然で。
その度、目が合ってしまう事を、笹原さんに咎められ。
テンパった俺は、そのまま告白、撃沈、そして。
”二度と目を合わせない”事を、約束させられた。
『でも・・・』
今は。
『一般生徒と生徒会長って立場だし。こんな時くらい・・・』
ふと、壇上の笹原さんの顔がこちらを・・・
『あ。だめだ。』
ラーメンにネギを乗っけてネギラーメンになっても、ラーメンはラーメン。
生徒会長だろうと総理大臣になろうと、俺のマドンナ、笹原さんである事は変わりない。
視線が絡むタッチの差。
俺は目を逸らす事に成功した。
「ふぅ。」
昼休み。
約一年と半年ぶりに笹原さんの姿をまともに見た俺は。
湧き上がった感傷に食欲も無く。
いつもは四つ喰う購買のパン、二つ以上は入らずに。
階段の踊り場、牛乳をストローで啜りつつ、一人佇んでいた。
別に毎日ぼっちメシと言う訳では無いが、今日くらいは一人になりたかった。
の、だが・・・
「・・・で、飲んでるのが牛乳ってなぁ・・・」
胸の裡の苦さを飲み干す意味でブラックコーヒー、とかが相応しい。
それは解っている。
が、これ以外が全部売り切れだったのだから仕方ない。
つくづく、様にならない男だ、俺は。
・・・等と思い耽っていると。
”せ、生徒会からの、お、お、お知らせ・・・で、す・・・”
「あ。」
笹原さんだ。
校内放送のスピーカーから、先程、俺が可愛い、と評した声が流れて来る。
”せせせ、生徒の、よ、呼び出しを・・・”
それにしても。
いつもは立て板に水、とばかりにハキハキと話す笹原さんにしては珍しく、やたらつっかえている。
やはり、生徒会長のプレッシャーの為せる業か。
「でも・・・」
ただ、そのたどたどしい語り方。
俺には、笹原さんのその声に、覚えがある。
「・・・どこで聞いたんだっけ。」
”さ、三年A組の、いいい、石田総さん!”
おーい、お呼びですよ、石田総さん。
・・・って。
「俺じゃねぇかよ。」
”ほほほ、放課後、せせせ、生徒会室まで、お、おいで下さいっ!”
生徒会が一体、俺に何の用だと言うのだろうか。
平々凡々たる、一般生徒のこの俺に。
そして、放課後。
「失礼しまーす。」
俺は何気無く、はっきり言って油断しつつ、生徒会室のドアを開け・・・
「入りなさい。」
「あ、は、はい。」
「ドア閉めて。」
「り、了解っ!」
がらがら。
ぴしゃり。
不意の凛とした命令に、つい、即座に従って・・・
「・・・と。」
見回すと。
がらんとした、内部。
その奥まった席に。
「さ、笹・・・!」
そう。
今をときめく新生徒会長、笹原さん。
「何か。」
「え、あ・・・」
こちらに向き直る彼女から、俺は即座に目を逸らし。
「さ、笹・・・会長、一人だけですか?」
「何か問題でも?」
問題である。
超大問題である。
だって。
片想いの相手。
しかも、思いっ切り失恋した相手。
それと二人っきりなんて、冗談じゃない。
「・・・今日、石田君を呼び出したのは、他でもありません。」
こちらの恐慌などどこ吹く風、笹原さんは用件を切り出す。
「・・・私ね。」
「は、はい、何でしょう!」
乱れに乱れた思考の中。
あれ?ちょっと言葉が砕けたような・・・
そんな、どうでもいい事に気付く。
「一年の時・・・石田君に・・・」
「あ、そ、その節は失礼をば!」
「・・・フラれてから、ね。」
「い、いや、その件に関しましては、早急に協議の上・・・!」
・・・ん?
「・・・え?」
「どうしたの?」
「い、いや、あの・・・」
何だ?
今。
笹原さんは・・・
何てった?
「フラれたって・・・誰に?」
「石田君。」
「誰が?」
「私。」
「・・・は?」
何だ?
何だか話がおかしいぞ?
ふられたのは、俺で。
ふったのは、笹原さん。
それに間違い無い、と思うのだが・・・
「・・・話、続けていい?」
「え・・・あ・・・ど・・・」
どうぞ、と言う俺の声は、それこそ蚊の鳴く様な音量だったが。
「・・・それでも、私、ね。」
どうやら、彼女の耳には届いたようだ。
『あの時・・・』
放課後。
二人きりの教室。
自然、俺は一年の時の、あの場面の記憶を喚起させられていた。
笹原さんに呼び止められ。
引き止められ。
みんなが帰ってしまった、がらんとした教室の中。
”いいい、石田、くん!”
”え!?あ!は、はいぃ!?”
”わ、私達・・・よ、良く、目が・・・あ、合う、よね・・・”
真っ白になった、俺の頭の中。
”そ、それ・・・”
”ご、ごめん!笹原さん!”
”・・・え?”
”お、俺、つい、笹原さんの方見ちゃってさ!ふ、深い意味は無いんだ!そ、その・・・!”
”な、何で・・・”
”は、はいぃ!?”
”わ、私の方・・・見てたのかな・・・”
”いや、その、だから、つまり・・・!”
頭ぐちゃぐちゃ。
脳内ぐるぐる。
”俺、笹原さんが可愛いなって思ってて!”
息を飲む、笹原さん。
両手で口を押さえて、耳まで真っ赤にして、一歩後退る彼女の姿に、俺はやっちまったー!と心の中で叫んでいた。
”い、いや、べ、別に付き合いたいとか、そーゆーんじゃないから!き、気にしなくていいから!”
”・・・あ、あの・・・”
”だ、大丈夫!俺、笹原さんに危害加える気ねーから!何にもしないから!”
”い、石田く・・・”
”解かった!もう、見ない!笹原さんの事、もう見ないから!”
”ま、待っ・・・!”
”め、目、合わせない!く、口も利かない!だ、大丈夫だから!もう終わりにするからっ!”
”い、石田君!”
教室を走り去る俺・・・
『あ・・・』
そう。
昼間の放送。
あの、つっかえた話し方。
『あれって・・・あの時の・・・』
「・・・でね。」
俺が思い耽っている間にも、笹原さんの話は続いていた。
「私、ちゃんと言ってなかったな、って思ってて。」
「ち、ちゃん、と?」
「同じふられるにしても、やっぱり言いたくて。」
「な、何を・・・」
だが。
俺は。
一年の時の記憶を辿る内。
気付いていた。
俺が勝手にそう思い込んでいただけで。
笹原さんは、目が合う事について、一言も非難はしていない。
そして・・・
”よく目が合う”と言う事は。
”笹原さんも、俺を見ていた”と言う事じゃないか。
「・・・好きです。」
笹原さんのその言葉は、俺の胸の中で、何度もリフレインした。
「・・・やっと言えた。」
暫く後。
ほう、と息を吐きつつ、笹原さんが呟く。
「だって石田君、あれ以来、私の事避けるんだもん。」
「さ、笹原さん・・・」
「でも。」
笹原さんは。
少し目尻に涙を溜めつつ、にっこりと微笑んだ。
「生徒会の呼出しなら、来ない訳にはいかないでしょ?」
「ま、まさか、笹原さん・・・」
「何?」
「そ、その為に、生徒会長に、立候補した、とか・・・」
「悪い?」
二の句が継げない。
・・・いや。
俺は。
どうしても、二の句を継がなくちゃいけない。
「笹原さん。俺・・・」
グラウンドで練習中の野球部の掛け声が、微かに聞こえて来た。
[完]
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- ロワゾー
- 2015/12/28 13:37
- 職権濫用だ笑
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