Nicotto Town



ささはらさん。

「では、新生徒会長の笹原美羽さんから御挨拶を。」

笹原さんは可愛い。

「只今、ご紹介に与りました。」

真ん中分けのセミロングの髪がかわいい。

「皆さんのご支持で生徒会長を。」

黒目がちの大きな瞳がかわいい。

「拝命いただきました。」

ピンクの頬がかわいい。

「笹原美羽です。」

声が、かわいい。




そう。
俺は、笹原さんに絶賛片想い中。
そして。
その想いは、もう届く筈も無い。
何故なら。
一年の時。
俺と笹原さんは同じクラスで。
当然、好きな相手と教室を供にしていれば。
視線は、そちらに向かうのが自然で。
その度、目が合ってしまう事を、笹原さんに咎められ。
テンパった俺は、そのまま告白、撃沈、そして。
”二度と目を合わせない”事を、約束させられた。

『でも・・・』

今は。

『一般生徒と生徒会長って立場だし。こんな時くらい・・・』

ふと、壇上の笹原さんの顔がこちらを・・・

『あ。だめだ。』

ラーメンにネギを乗っけてネギラーメンになっても、ラーメンはラーメン。
生徒会長だろうと総理大臣になろうと、俺のマドンナ、笹原さんである事は変わりない。
視線が絡むタッチの差。
俺は目を逸らす事に成功した。





「ふぅ。」

昼休み。
約一年と半年ぶりに笹原さんの姿をまともに見た俺は。
湧き上がった感傷に食欲も無く。
いつもは四つ喰う購買のパン、二つ以上は入らずに。
階段の踊り場、牛乳をストローで啜りつつ、一人佇んでいた。
別に毎日ぼっちメシと言う訳では無いが、今日くらいは一人になりたかった。
の、だが・・・

「・・・で、飲んでるのが牛乳ってなぁ・・・」

胸の裡の苦さを飲み干す意味でブラックコーヒー、とかが相応しい。
それは解っている。
が、これ以外が全部売り切れだったのだから仕方ない。
つくづく、様にならない男だ、俺は。
・・・等と思い耽っていると。

”せ、生徒会からの、お、お、お知らせ・・・で、す・・・”

「あ。」

笹原さんだ。
校内放送のスピーカーから、先程、俺が可愛い、と評した声が流れて来る。

”せせせ、生徒の、よ、呼び出しを・・・”

それにしても。
いつもは立て板に水、とばかりにハキハキと話す笹原さんにしては珍しく、やたらつっかえている。
やはり、生徒会長のプレッシャーの為せる業か。

「でも・・・」

ただ、そのたどたどしい語り方。
俺には、笹原さんのその声に、覚えがある。

「・・・どこで聞いたんだっけ。」

”さ、三年A組の、いいい、石田総さん!”

おーい、お呼びですよ、石田総さん。
・・・って。

「俺じゃねぇかよ。」

”ほほほ、放課後、せせせ、生徒会室まで、お、おいで下さいっ!”

生徒会が一体、俺に何の用だと言うのだろうか。
平々凡々たる、一般生徒のこの俺に。





そして、放課後。

「失礼しまーす。」

俺は何気無く、はっきり言って油断しつつ、生徒会室のドアを開け・・・

「入りなさい。」

「あ、は、はい。」

「ドア閉めて。」

「り、了解っ!」

がらがら。
ぴしゃり。

不意の凛とした命令に、つい、即座に従って・・・

「・・・と。」

見回すと。
がらんとした、内部。
その奥まった席に。

「さ、笹・・・!」

そう。
今をときめく新生徒会長、笹原さん。

「何か。」

「え、あ・・・」

こちらに向き直る彼女から、俺は即座に目を逸らし。

「さ、笹・・・会長、一人だけですか?」

「何か問題でも?」

問題である。
超大問題である。
だって。
片想いの相手。
しかも、思いっ切り失恋した相手。
それと二人っきりなんて、冗談じゃない。

「・・・今日、石田君を呼び出したのは、他でもありません。」

こちらの恐慌などどこ吹く風、笹原さんは用件を切り出す。

「・・・私ね。」

「は、はい、何でしょう!」

乱れに乱れた思考の中。
あれ?ちょっと言葉が砕けたような・・・
そんな、どうでもいい事に気付く。

「一年の時・・・石田君に・・・」

「あ、そ、その節は失礼をば!」

「・・・フラれてから、ね。」

「い、いや、その件に関しましては、早急に協議の上・・・!」

・・・ん?

「・・・え?」

「どうしたの?」

「い、いや、あの・・・」

何だ?
今。
笹原さんは・・・
何てった?

「フラれたって・・・誰に?」

「石田君。」

「誰が?」

「私。」

「・・・は?」

何だ?
何だか話がおかしいぞ?
ふられたのは、俺で。
ふったのは、笹原さん。
それに間違い無い、と思うのだが・・・

「・・・話、続けていい?」

「え・・・あ・・・ど・・・」

どうぞ、と言う俺の声は、それこそ蚊の鳴く様な音量だったが。

「・・・それでも、私、ね。」

どうやら、彼女の耳には届いたようだ。

『あの時・・・』

放課後。
二人きりの教室。
自然、俺は一年の時の、あの場面の記憶を喚起させられていた。





笹原さんに呼び止められ。
引き止められ。
みんなが帰ってしまった、がらんとした教室の中。

”いいい、石田、くん!”

”え!?あ!は、はいぃ!?”

”わ、私達・・・よ、良く、目が・・・あ、合う、よね・・・”

真っ白になった、俺の頭の中。

”そ、それ・・・”

”ご、ごめん!笹原さん!”

”・・・え?”

”お、俺、つい、笹原さんの方見ちゃってさ!ふ、深い意味は無いんだ!そ、その・・・!”

”な、何で・・・”

”は、はいぃ!?”

”わ、私の方・・・見てたのかな・・・”

”いや、その、だから、つまり・・・!”

頭ぐちゃぐちゃ。
脳内ぐるぐる。

”俺、笹原さんが可愛いなって思ってて!”

息を飲む、笹原さん。
両手で口を押さえて、耳まで真っ赤にして、一歩後退る彼女の姿に、俺はやっちまったー!と心の中で叫んでいた。

”い、いや、べ、別に付き合いたいとか、そーゆーんじゃないから!き、気にしなくていいから!”

”・・・あ、あの・・・”

”だ、大丈夫!俺、笹原さんに危害加える気ねーから!何にもしないから!”

”い、石田く・・・”

”解かった!もう、見ない!笹原さんの事、もう見ないから!”

”ま、待っ・・・!”

”め、目、合わせない!く、口も利かない!だ、大丈夫だから!もう終わりにするからっ!”

”い、石田君!”


教室を走り去る俺・・・




『あ・・・』

そう。
昼間の放送。
あの、つっかえた話し方。

『あれって・・・あの時の・・・』

「・・・でね。」

俺が思い耽っている間にも、笹原さんの話は続いていた。

「私、ちゃんと言ってなかったな、って思ってて。」

「ち、ちゃん、と?」

「同じふられるにしても、やっぱり言いたくて。」

「な、何を・・・」

だが。
俺は。
一年の時の記憶を辿る内。
気付いていた。
俺が勝手にそう思い込んでいただけで。
笹原さんは、目が合う事について、一言も非難はしていない。
そして・・・
”よく目が合う”と言う事は。
”笹原さんも、俺を見ていた”と言う事じゃないか。

「・・・好きです。」

笹原さんのその言葉は、俺の胸の中で、何度もリフレインした。





「・・・やっと言えた。」

暫く後。
ほう、と息を吐きつつ、笹原さんが呟く。

「だって石田君、あれ以来、私の事避けるんだもん。」

「さ、笹原さん・・・」

「でも。」

笹原さんは。
少し目尻に涙を溜めつつ、にっこりと微笑んだ。

「生徒会の呼出しなら、来ない訳にはいかないでしょ?」

「ま、まさか、笹原さん・・・」

「何?」

「そ、その為に、生徒会長に、立候補した、とか・・・」

「悪い?」

二の句が継げない。
・・・いや。
俺は。
どうしても、二の句を継がなくちゃいけない。

「笹原さん。俺・・・」

グラウンドで練習中の野球部の掛け声が、微かに聞こえて来た。






[完]

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2015/12/28 13:37
職権濫用だ笑



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