Nicotto Town



お友達

”私達、小学校の頃からそうだったし・・・芦谷とは、これからもいいお友達でいたいな。”

中学一年。
中西優の答え。

”ってゆーかぁ、アンタは、なんつーの?いいヤツだけど、カレシってゆーより、オトモダチ?ってゆーかぁ。”

中学二年。
長内絵美香の答え。

”ごめん。芦谷君の事は、お友達としてしか見れないの。”

中学三年。
石井小春の答え。

『友達百人出来るかな、じゃねーんだっつーの。』

灰色の中学生活を思い返すと、思わず溜息が出る。

『友達だってーなら、何でLINEが既読無視のまんまなんだよ、って話だろーが。』

フラれ文句の、”お友達”。
その言葉にすっかりトラウマを植え付けられた俺、芦谷直也。
それでも、まぁ。
人に言わせれば性懲りも無く。
高校入学と同時に、一目惚れ。
稲本いずみは、あんな性悪女どもとは違うんだ。
ショートに切り揃えた、綺麗な黒髪。
校則要項のような、乱れのない服装。
少しふっくらとした、桜色のほっぺ。
光の角度で薄茶色に見える大きな瞳。
清楚、ここに極まれりってぇ様子じゃないですか、お客さん。

『・・・よし。』

稲本は今、俺の遥か後ろ、教室の隅で友達と何かお喋りしている最中だ。
今日こそ。
今こそ。
今度こそ。
稲本に、話し掛けて・・・

「・・・芦谷君。」

「うえぇ!?」

俺の浮かし掛けた腰がすとん、と少々椅子からズレて落ち、危うく机ごとひっくり返る所だった。

「あ・・・ごめん・・・何か、驚かしちゃった?」

「い、い、稲本・・・」

何てこった。
思いっ切り出鼻を叩かれた。
まさか、向こうから声を掛けて来るとは。

「な、何か、用?」

「あ、うん。あの。」

俺は、こっそり大きく深呼吸して。
自分の心を、立て直した。

『うん。そうだ。』

俺から話し掛けるか。
稲本から話し掛けられるか。
そんな事は問題じゃない。
兎に角、話す切っ掛けは掴んだじゃないか。
何の用かは知らないが。

『話の流れで、放課後、校舎裏にでも誘って・・・』

「ほ、放課後、校舎裏に来てくれない?」

「なっ・・・!」

またも、強打された出鼻。
その内鼻が真っ赤に腫れ上がって、暗い夜道で役に立つようにならないか心配だ。

「それとも・・・今日、何か用事・・・ある?」

「あ、いや、別に・・・」

「じゃあ・・・放課後、四時に・・・」

「え。ああ、うん・・・」

「きっと、ね。」

「あ、おい、稲・・・」

稲本は言うだけ言うと、くるりと身を翻し、また友人たちの輪の中に戻って行ってしまった。

「・・・え?」

暫く俺は、放心状態だった。
が。

『放課後・・・二人っきりで校舎裏・・・と言ったら・・・』

漸く、働き始めた脳裡が。

『まさか・・・!』

急激に、熱を帯びた。





『おいおい、勘違いすんなよ、俺。』

放課後、三時五十五分。
校舎裏。

『中学三年間、フラれ通しにフラれて来た俺だぞ?自慢じゃないけど。』

もう十五分も前から、俺はここに立っている。

『どうせ、今回だって・・・』

何か、他の人前では言えない連絡事項とか。
或いは、取るに足らない、何かの手伝いとか。

『いや、そもそも・・・』

稲本は、”二人っきり”だとは、一言も言って無い。
ひょっとして・・・

「あ、来てくれたんだ。」

背後からの声に。
びくん、と背中が跳ねる。

「い、稲本・・・」

ゆっくり・・・いや、恐る恐る、と言った態で振り返ると。
稲本の他には、誰もいない。

「き、急に、ごめんね?」

「あ、いや・・・」

稲本の顔がまともに見れず、俺は。
校舎の壁や、自分の足元に視線を飛ばす。

『・・・そうだ。』

その間に。

『稲本の用ってのが何かは知らねーけど。』

俺は、考えた。

『人気の無い場所に二人っきり、ってシチュエーションなんか、滅多にねーぞ!』

どちらにしろ、告白のチャンスじゃないか。

「あ、あの、芦谷君・・・」

「あ、稲本。その前に・・・」

言え。
言うんだ。俺。

「俺、稲本の事・・・」

「わ、私と、お友達になってくれませんかっ!?」




きーん・・・こーん・・・かーん・・・こーん・・・

「・・・はい?」

四時を知らせるチャイム。
吹き抜けた風。

「おとも・・・だち・・・」

何度も聞いて来た、”それ以上にはなれません”的な、宣告。
こんな物凄いカウンター喰らったら、ヘビー級チャンピオンでもK・Oだろうな。

「おともだち・・・はは、お友達、ね。」

真っ白な頭。
のしかかる空気。
一瞬で俺は廃人状態。

「駄目・・・かな・・・」

「・・・いいよ。」

「えっ!?」

「お友達だろ。」

「ほんと!?」

「ああ。」

灰色に霞んだ視界の向こう。
稲本は、何故か胸の前で両の拳を握り締め、身体を丸めてぷるぷると震えていた。
顔は真っ赤で、真一文字に結んだ口は、口角が上がっている。
ぎゅ、とつむった目の、その目尻から、微かに光る物。

「あり・・・がと・・・」

やがて、稲本が蚊の鳴く様な声で、呟いた。

「・・・ああ。」

何にしろ、俺はまたまた”お友達”と言う文言を、好きな女の子の口から聞いてしまった訳で。
即ち。

『告白する前からフラれるって・・・ないわぁ・・・』

「あ、あの!」

「んあ?」

「と、友達だし!一緒に帰ろう!」

「あー・・・いいよ、別に。」

「じゃ、私、教室にカバン取って来るから!」

「・・・うん。」

「待っててね!」

「ああ。」

稲本は、何故か輝く様な満面の笑み。
女の子には、男を振るとハイになる、と言う心理でも働く機能が付いているのだろうか。

『兎に角・・・今夜は呑むぞ・・・』

まぁ、コーラを、だが(俺は高校生、未成年なのだ)。





そして。
俺が。
稲本の言う”お友達”の真意に気付き。
”お友達”とは”別の何か”になるまで。
それから三ヶ月を要するのであった。







[完]

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2016/03/13 11:37
こんにちは。
コメントするのは初めてですが、いつも小説読んでます(^^♪
これからも楽しみにしてますね。



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