悪夢の果 1
- カテゴリ:自作小説
- 2017/12/11 15:31:10
ば、馬鹿な真似はやめてくれよ!」
しかし、病院のベッドの上、事故で両の手足を骨折している僕は
「お願い!お願いよ!暴れないで!伸!」
奇跡的に軽度の打撲で済んだ母に抗う事は出来ず。
「あなただって!正さんに!お父さんに生き返って欲しいでしょう!?」
崖下に転落し、炎上する車の中、運転席に取り残された、父。
「それには、こうするしかないの!これが必要な事なの!」
消し炭の遺体を目の当たりにした瞬間から、母の正気は失われて。
「どう言う事なんだよ!訳が解んないよ!」
僕の下着を下ろし、股間に手を伸ばす母の目には、狂気の光だけが鈍く放たれている。
「明君が言ったの!」
「お、叔父さん・・・?」
三流大学中退の父とは違い、大学病院の医師にして医学者の、父の弟。
だけど。
あんな状態の父を、しかも生き返らせる。
それは、医学の範疇では無いだろう。
もし出来ると言うのであれば、それは神か悪魔の・・・
「お父さんの!正さんの息子であるあなたから!その遺伝子を採取して!DNA内の、正さんから受け継いだゲノムを拾い集めて!正さんのDNAを再現して!」
「・・・え?」
「それを私の卵子に体外受精すれば・・・!」
「ま、待ってくれ母さん!」
出来るのか?そんな事が。
いや、仮に出来たとしても。
「そ、それで産まれてくるのは、父さんじゃない!ただのクローン人間だ!それに・・・」
それに。
「ぼ、僕達、母子で子供を作るって事に・・・!」
「何を言っているの?違うわ!私は”正さんを妊娠するのよ”!」
「だ、だからやめ・・・は、話を聞・・・あぁっ!」
正常な判断と、理性が失われた母には。
僕の言葉は通じず。
そして。
数分後。
「ふふふ。」
僕から搾り取った体液を収めた試験官を月光に透かして眺め。
「これで・・・これで取り戻せる・・・あの人を・・・正さんを・・・!」
母は恍惚とした笑みを浮かべ。
が、やがて。
そうよ、急がなくっちゃ、急がなくっちゃ、と繰り返し。
足早に病室を去って行った。
「・・・」
脱力した身を横たえ、自失している僕を、一顧だにせず。
つづく