Nicotto Town



悪夢の果 1

ば、馬鹿な真似はやめてくれよ!」

 

しかし、病院のベッドの上、事故で両の手足を骨折している僕は

 

「お願い!お願いよ!暴れないで!伸!」

 

奇跡的に軽度の打撲で済んだ母に抗う事は出来ず。

 

「あなただって!正さんに!お父さんに生き返って欲しいでしょう!?」

 

崖下に転落し、炎上する車の中、運転席に取り残された、父。

 

「それには、こうするしかないの!これが必要な事なの!」

 

消し炭の遺体を目の当たりにした瞬間から、母の正気は失われて。

 

「どう言う事なんだよ!訳が解んないよ!」

 

僕の下着を下ろし、股間に手を伸ばす母の目には、狂気の光だけが鈍く放たれている。

 

「明君が言ったの!」

 

「お、叔父さん・・・?」

 

三流大学中退の父とは違い、大学病院の医師にして医学者の、父の弟。

だけど。

あんな状態の父を、しかも生き返らせる。

それは、医学の範疇では無いだろう。

もし出来ると言うのであれば、それは神か悪魔の・・・

 

「お父さんの!正さんの息子であるあなたから!その遺伝子を採取して!DNA内の、正さんから受け継いだゲノムを拾い集めて!正さんのDNAを再現して!」

 

「・・・え?」

 

「それを私の卵子に体外受精すれば・・・!」

 

「ま、待ってくれ母さん!」

 

出来るのか?そんな事が。

いや、仮に出来たとしても。

 

「そ、それで産まれてくるのは、父さんじゃない!ただのクローン人間だ!それに・・・」

 

それに。

 

「ぼ、僕達、母子で子供を作るって事に・・・!」

 

「何を言っているの?違うわ!私は”正さんを妊娠するのよ”!」

 

「だ、だからやめ・・・は、話を聞・・・あぁっ!」

 

正常な判断と、理性が失われた母には。

僕の言葉は通じず。

そして。

数分後。

 

「ふふふ。」

 

僕から搾り取った体液を収めた試験官を月光に透かして眺め。

 

「これで・・・これで取り戻せる・・・あの人を・・・正さんを・・・!」

 

母は恍惚とした笑みを浮かべ。

が、やがて。

そうよ、急がなくっちゃ、急がなくっちゃ、と繰り返し。

足早に病室を去って行った。

 

「・・・」

 

脱力した身を横たえ、自失している僕を、一顧だにせず。


つづく




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